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買い物

「御幸ー、昼飯いこうぜ」

「いやだ、一人で食え」


 俺は前の席に座る悪友、海藤周(かいどうしゅう)を見た。


 周とは中学三年間同じクラスだったいわゆる腐れ縁だ。爽やかで明るく、スポーツ万能でコミュ力も高い、茶髪で長身のイケメン。


 しかも高校生にしてモデルとして活動しており、今ではファッション誌の表紙を飾るほど人気もある。


 そんな完璧超人と陰キャの俺が一緒に昼飯だと?……絶対目立つじゃん……


「いいーじゃんかー、たまには一緒に食おうぜ」

「お前といると目立つしやだ、他の奴と食え」

「頼むよ御幸ー、他の奴らもうみんな学食行っちまったんだよー」


 ……はあ……仕方ないか……


「……今日だけな」

「お!マジで!んじゃ、学食いくぞ!」


 テンションたかっ!昼飯くらいでなにがそんなに嬉しいのやら。


「ほら、早くいこうぜー」

「わかった、わかったから引っ張るな、自分で歩ける」


 教室の人達からの「なんであんな奴と?」的な視線が痛い。ホント、俺なんかでごめんなさい。




 学食では周の登場で、女子達の黄色い声が上がり大騒ぎだ。周りからの視線の数が教室とは比べ物にならない。……帰りたい。


「相変わらずすごい人気だな」

「まあな。仕事も増えてきたし、今のところは順調かな」


 テーブルの席に着く。ちなみに俺はラーメン、周は日替わり定食で今日は唐揚げ定食らしい。


「それは何よりだな、勉強の方はどうだ」

「そっちはボチボチかなー、良くもなく悪くもない。御幸は?」

「俺も普通だよ」

「……そう言ってしれっと五位以内に入ってるだろ」

「違う三位以内だ」

「くっ、インテリめ……」


 一人暮らしをさせてもらっている以上、ある程度の成績をキープしようとコツコツやっているだけなんだが。


「期末大丈夫なのか?」

「……正直少しヤバイ。だから勉強教えて☆」

「うわ、キモッ」


 声色を変えて媚びてくる周に引いてしまい、思わず本音がでてしまった。


「あはは、冗談だよ。親に好きなようにやらせてもらっているわけだし、テストくらい自分で乗りきってみせるさ」


 柔らかい笑顔を浮かべる周。陰キャには眩しすぎる、直視できない……


「そっか…………周」

「ん?」

「……無理そうだったら言ってくれ、暇だったら教えるから……」

「……ツンデレ?」

「ぶっ飛ばすぞ」

「冗談だって……サンキュ」

「……ん」


 少し変な空気になってしまったが、その後も雑談しながら食事を取る――が周へのたくさんの視線となぜか俺への嫉妬の視線が飛んできて全然落ちいて食べられなかった。



 結論。

 ――もうあいつと昼飯は絶対食べない――




 学校の帰り。洗剤等が不足していたため、またスーパーに寄っていた。すぐに目当ての物を見つけてかごに入れていると――


「あ」


 優しい声色が背後から聞こえる。


 最近聞いたような声に少し困惑しながら振り返ると目を丸くしている天童がいた。


「よ、よう。昨日ぶり天童」

「えぇ、そうですね……」


  互いに沈黙。


 き、気まずい……でも昨日のことを謝らないと。


「あー、天童」

「はい、なんですか?」

「悪かったな。昨日は……その……名前思い出せなくて」

「あぁ、その事ですか。別に気にしていませんよ」


 てっきり怒っているものだと思っていた俺は、天童の全く気にしていない様子に拍子抜けした。


「……許してくれるのか?」

「許すもなにもその程度のことで怒ったりしませんよ」


 よかった~、天童がいい人で。流石学校一の人気者。男子達が騒ぐ理由も少し分かる気がする。


「ありがとう、天童」

「いえ別に……それより、大神さんそれ買うんですか?」

「え?そうだけど、変?」


 かごに入ってるのは、足りなくなった洗剤の他に鶏もも肉、豆腐、大根やネギ等の野菜類。

 どれも夕飯に使うつもりだ。


「変ではありませんが、大神さん料理できるのですか?」


 ……昨日も思ったけど、天童ってけっこう毒舌だよな。俺が男っていうのもあるから無理もないけど。


「あぁ。俺今一人暮らしだから最低限の自炊はできるぞ、信じられないと思うけど」

「……男の人にしては珍しいですね」

「両親が共働きで、帰りが遅くなるときに作ってただけだ。父さんが料理上手だったのもあるけど」


 うちでは母さんより父さんの料理の方が美味しい。


 母さんの料理も普通に美味しいのだが少し味付けが雑なのだ。

 繊細な味付けの父さんの料理の方が個人的に好みだ。


「なるほど……」

「天童こそ家の手伝いか?」


 向こうから聞いてきたため、試しにこっちも聞いてみた。


「はい。お母さんに買い物を頼まれまして」

「へぇー、偉いな。料理もしたりするのか?」

「はい。一応毎日」

「今どきの子にしては珍しいな」

「……おじいちゃんみたいな感想ですね……これくらい普通ですよ?」


 勉強よし、運動よし、見た目もよくて料理上手。天は二物を与えずというが、やっぱモテる人は違うな。


「ではそろそろ失礼します」

「おぉ、引き留めて悪かったな」

「いえ、それでは」


 振り返って別のコーナーに移動する天童を見送った後、俺も残りの買い物を済ませようと移動する。


 必要な物をかごに入れて会計のためにレジに向かおうと調味料のコーナーを通ろうとすると――天童が醤油とにらめっこしていた。


「……むむ……」


 なにやらうなってるようだが、どうしたんだ?


「……お一人様一本まで……」


 近づいて棚を見てみる。…………どうやら醤油が安くなっていたから予備も買おうとしたら、一人一本までだったらしい。


そこまで残念そうにしなくても、はぁ……


「買おうか?醤油」

「!お、大神さん!?いつからそこに?」

「天童が醤油とにらめっこしていた辺りから」

「……人の買い物を覗くなんて」

「誤解を招く言い方はやめてくれ、全く」


 俺は棚から醤油を取ってかごに入れる。


「予備ほしいんだろ、買うよ」

「え?い、いえそんな悪いですよ」

「いらないのか?」

「それは……その……ホントにいいんですか?」

「嫌だったら最初から言わないし、恩にきせてどうこうする気もないから安心しろ」

「…………」


 天童の顔が固まってしまった。俺なんかしたっけ?


「天童?」

「あっ、……いえなんでもないです」

「そう?ならいいけど?」


 レジで会計を済ませて、買った物をエコバックに詰める。今日はそれなりに買ったからいつもより重く感じる。


 天童も自分のエコバックに手際よく詰めているが、少し量が多すぎる。


 醤油以外にもみりん等の調味料に牛乳、肉や野菜もけっこう買っていたのでちょっと不安。家まで持てるかな?


 そう思った俺は詰め終わったところで持ち手の部分を掴み持ちあげる。


……やっぱそれなりに重いな。


 この行動に驚いたのか天童が瞳をパチパチしている。


「けっこう重いし、近くまで持つよ」

「……別にそれぐらい大丈夫ですよ?いつも持ってますし」

「じゃあ昨日のお詫びってことにしておいてくれ」

「ですが――」

「じゃあ。天童は先頭歩いて俺後ろな、家の近くになったら教えてくれ」


 天童の言葉に被せて話を続ける。ちょっと強引だけどこれくらいはいいだろ。


 引く気がないことが分かったのか、天童は「はぁ」とため息をつき、スタスタと出口に向かった。


 付かず離れずの距離を保ちながら歩く。一緒の所をもし学校の誰かに見られたら、面倒な事になる。


 天童にも迷惑がかかってしまう、だからこの距離が一番都合がいいのだ。


 公園に通りかかったとき、天童が振り向く。


「この辺りで大丈夫です」

「分かった、気を付けて帰れよ」


 言いながら俺は彼女のエコバックを返したが、「むぅ」と不満げな顔をされた。なぜに?


「……子供扱いしないでください」


 あっ、そういうこと?


「この辺りは治安もいいしまだ明るいから大丈夫だと思うけど、天童は女の子だし注意するんだぞ」


 別に子供扱いをするつもりはなかったから言い直すと、天童の頬がうっすらと色づいた。


「…………ありがとうございます」


 彼女はお礼を言い丁寧にお辞儀して去って行った。





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