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天童家にて 2

 


「真白ちゃ~ん?お母さんが悪かったわ。謝るから機嫌直して?ね?」

「嘘です。顔がニヤついています」

「え~、真白ちゃん酷い~、助けて御幸く~ん」

「ははは……」


 俺に頭を撫でられていた場面を真那さんに見られてから、天童はご機嫌斜めである。


 あの後すぐに帰ろうとしたのだが、真那さんに「夕食も食べていきなさい」と有無を言わせない笑顔で告げられ、俺は頷くことしか出来なかった。


 相変わらず己の無力さを情けなく思う……。


 二人で夕飯の支度をしているけど、さっきから同じやり取りを繰り返しており、天童は口を尖らせてそっぽを向いている。……明らかに拗ねている。



「……なあ、天童。俺も真那さんに気付いたのに言わなかったし、そこは謝るから。機嫌直してくれないか?」

「むぅ~」


 天童が頬を大きく膨らませてこっちを睨んでくるが、全然迫力がない。リスみたいだ……。


 さて、どうしたもんか……あっ。


「そういえば今日、先週のテストの結果が出るはずだったよな?何位だったんだ?」

「……一位でした」


 おおー、首位キープとは流石だな。


 これは予想通り、なら――


「じゃあ、一位のお祝いになにかしようか?」

「え?」

「勉強いつも頑張ってるんだろ?たまにはご褒美って事でいいんじゃないかと……。なにかしたいことあるか?」


 俺の提案が意外だったのか「えっと、その……」と天童が呆気にとられている。


 恐らく天童は自分の事となるとかなりストイックになるタイプだ。


 地頭がいいのもあるだろうが、基本彼女は努力を欠かさないし、その分結果もちゃんと出ている。



 ――だが周りは彼女の努力を知らない。



 だから“天才”の一言で片付けてしまう。



 加えて、彼女は甘えるのが苦手。だから何かをねだったり、我儘を言ったりはしないだろう。


 でもそれだとストレスが溜まってしまう。だから自分のやりたいことをやればいいと思ったんだが……。


(まあ、ないならないで別にいいけど……)


 天童にとってそれが普通になっていて、大して溜め込んでいないというのなら、それはいいことだし。


 しばらく黙り込んでいた天童だったが、「じゃあ……」と小さく呟き、真剣な表情で真っ直ぐこっちを見てくる。


「な、名前……」

「ん?」

「私の事、名前で呼んでほしい、です」

「………えーと、そんなことでいいのか?」

「……はい。あ、もちろん私も大神さんを名前で呼びますから」

「ああ、分かったよ。……()()

「ッ!は、はい………()()()()


 いつもはお澄まし顔で凛としている真白が小さめの声で俺の名前を呟く。


 ……恥ずかしいなら無理して言わなくてもいいのに、と吹き出しそうになったが我慢する。


 やったらまた拗ねそうだし。



 ――だが俺たちは忘れていた。


 この場にいるのは俺と真白だけじゃないということを……。


「あらあら~、流石は御幸くんね~。あの真白ちゃんをこんなにするなんて~」


 あー、これは不味いな……。


「よかったわね~、真白ちゃん。名前で呼んでもらって♪」

「うぅっ……もう!またお母さんはそうやって~!」

「うふふ。可愛いわね~本当に」

「むぅ~~!!」


 結局振り出しか、やれやれだな……。



(でも真那さん、嬉しそうだな。大方娘の珍しい反応が見れて喜んでるってところかな?)


 からかい半分、嬉しさ半分ってとこか?娘の方は照れて怒ってるけど……。


 これ以上は少し可哀想なためシャロンを頭から降ろし、キッチンに行くよう促すと、コクリと頷く。賢い……。


 シャロンが真白の足元に移動し、「ナァ~」と一鳴き。


「ほら真白、シャロンが相手してほしいだって」

「むむ、大神さ……御幸くんはお母さんの味方をするのですか?」

「別に敵も味方もないから、ほら早く、手伝いは俺がやるから」


 俺がそう言うと、渋々ではあるが「……分かりました」とエプロンを外し、シャロンを抱き抱えてソファに移動する。


 俺は真那さんの隣に移動し、手伝いを始める。


「何かできそうなことってありますか?」

「そうねぇ~、ふふふっ♪」

「………そんなに嬉しいんですか?」

「えぇ~。真白ちゃんはあまり感情を表に出さないし。他人に対しての興味も薄いから、ちょっと心配してけど―――御幸くん」

「はい?」


 真那さんに視線をやると、慈愛に満ちた眼差しを俺に向けていた。


 その目はとても優しく、愛しの愛娘を想う母親の感情そのものだった。


 真白、愛されてるなぁ……。


「ありがとね。きっと、あなたのおかげだわ」

「………特に何かした覚えはないですけど」

「ならそういうことにしておきましょうか~。ふふふっ♪」


 その後も、調理を進めながら真那さんは終始嬉しそうにニコニコしていた。


 そしてあまりの嬉しさなのかは分からないが、予定より多く作り過ぎてしまったようで「あらあら~」と困り顔を浮かべている。


 テーブルに並べられた品々は、どれも間違いなく美味しい。……量以外は完璧だろう。


 俺と真白は隣に座り、真那さんは向い側。シャロンは床にお座りしている。


 シャロンはえらいね~、本当に。




「……お母さん、これは作り過ぎです(チラ)」

「えぇ、私としたことが失敗してしまったわ~(チラ)」

「うわ、これ美味しいですねぇー。(モグモグ)」


 食事をし始めて数十分が経たった。


 真白も真那さんを少食なのか、あまり料理に手をつけておらず、まだ半分以上残ってる。


 それにしても本当に美味しい、箸が止まらない。


「はー、美味しい」と舌鼓を打っていると、二人から視線を感じる。なんだ……?


「どうかしました?」

「いえ、その……よく食べるなぁ、と」

「本当ね~、お昼の時もそうだけど、御幸くん食べ過ぎじゃない?大丈夫?」

「えぇ、余裕ですけど?」


 普段は食べ過ぎに注意しているが、天童家の食事は栄養バランスがちゃんと考えられているため、特に気にすることはない。


「それに俺、食べても太らない体質なので大丈夫です」


 ――その言葉を発した途端、二人から極寒の視線を向けられた。


 その瞳からは光が消えており、恐怖で身震いする。


 え?なに?てかさっむ!急に冷えてきたなぁー……。


「御幸くん……?」

「は、はい……?」

「言葉は選んだ方が良いですよ………?でないと――」

「一生後悔する羽目になるわよ~?ウフフフッ☆」

「は、はぁ……?」


(えーと……結局どういうこと?)


 よく分からず首を傾げていると、二人から「はぁ」とため息をつかれた。


 シャロンにも「ナァ~……」とため息っぽく吐かれる。


 何でだろう……?

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