天童家にて 1
天童家のリビングで絶賛正座中の俺は、天童からお説教を受けていた。
機嫌はあからさまに悪い……。
「で?なにか弁明はありますか?」
「……ありません」
「素直でよろしいです。ですが、学校をサボり、勝手に人様のお家に上がり込んだ挙げく、リビングでお昼寝とは……」
「大変申し訳ございませんでした……」
そう言って俺は土下座する。
これに関しては完全に俺が悪いし、反論のしようがない。
だから誠心誠意謝るしかないのだ……。
「全くもう、頭を上げてください」
「いいのか?」
「サボりに関しては駄目ですが、それは後にします。家に来た経緯もお母さんから聞いていますから」
「その、すまん……あまりにも無力で……」
真那さんには逆らえない、それは天童も理解しているらしく「まあ、仕方ありませんね……」と納得してくれた。
「それよりも大神さん……」
「は、はい」
半目でじぃーと睨まれ、背中がゾクッとする。こわっ、マジで。
「んで――か――」
「ん?」
「なんでシャロンとそんなに仲良くなってるんですか!説明を求めます!」
そっちかよ!
それほど大したことじゃなくない?
てかシャロン?いい加減頭から降り――ない?どうして?……落ち着く?なら仕方ないな……
「説明って言われても、何もしてないけど……」
「嘘は重罪ですよ」
「本当だって」
疑いの眼差しを向けてくる天童に、左右に手をふって否定する。
信じられないのかジト目で睨んでくるも、天童は「はあ」とため息をつき、呆れた顔をする。
「もういいです……。そろそろお母さんも戻る頃でしょうから、今日はお開きとしましょう」
今日は、てことは、また近い内に正座させられるか。はあ……足がピリピリする。
ようやく正座から解放され、柔いソファに寄りかかる。
天国だ……。今度は太股かいシャロン?気分屋だね。
俺がモフって削られた精神を回復させていると、隣に天童が座り、シャロンをじぃーと見つめている。
「……まさかこの子がこんなに人に懐くなんて」
「そんなに珍しいのか?」
「えぇ、初対面の人には基本的に塩対応ですから」
誰かさんと似ている気がするが………言うまい、また正座されられるし。
「今、変なことを考えませんでしたか?」
「妙な憶測はやめてくれ」
鋭い指摘にドキッとするが、悟らせないよう平静に返す。
(早くお暇したいけど、真那さんには挨拶しておきたいし……)
どうしよう、と悩みながらシャロンを撫でていると、天童が俺の服を摘まんできた。
「どうした?」
「……ずるい」
「は?」
「シャロンばっかりずるいです……。できれば、その、わ、私も……」
……確かに前に一度頭を撫でたことはあるが、まさか向こうから要求されるとは思わず、ポカンとしてしまう。
以前の天童だったら、異性との接触なんて考えられなかっただろうに。
……前々から思ってたけど、なんでこんなに気を許してくれるんだ?
少し気を緩めすぎじゃないですか、天童さん?
「うーん」と思考していると、俺が黙ったままなのを不安に思ったのか、しゅん、と気を落ちしたように瞳を伏せていた。
ざ、罪悪感がエグい……。
……まあ、今は人目もないし、本人も何故か嫌がってないようだし、大丈夫だろ。
そう自分に言い聞かせて、天童の頭を撫でる。
髪がボサボサにならないよう慎重に手櫛を入れ、優しく丁寧に撫でる。
するとさっきまで不安げだった顔が綻び、ご機嫌な様子で微笑んでいる。
ほっ、と一安心するも今度は太股をペシペシと叩かれた。
シャロン?どうしたんだい?……撫でろ?いや、今は君のご主人様を宥めて―――いいから早く?
はあ、しょうがないな……。
もう片方の手でシャロンを優しくモフる。
……思えば、シャロンと普通に会話が成立している。疲れてんな、俺。
「そろそろいいか?」
「もう少し、です」
「別にいいけど、そろそろお母さんが帰ってくるんじゃ……」
――瞬間
背筋がゾクッとし、リビングの入り口の方に視線をやると、ドアの隙間からこちらを覗いている真那さんがいた。
(スゲーニコニコしてる……。ていうかこの状況は――)
頭を撫でられてゆるゆるな表情を浮かべている実の娘と、娘の頭を撫でている同年代の男と、猫一匹。
――絶対誤解されてる気がする。
ダラダラと冷や汗を浮かべていると、真那さんが口パクをし始める。
(流石私の見込んだ男の子ねぇ~、御幸くん。もう真白ちゃんと仲良くなるなんて~)
(ち、ちが――)
(隠さなくてもいいわよ~、私は反対しないし、なんなら今日からお義母さんと呼んでくれてもいいのよ~)
(……勘弁してください)
真那さんとの会話で精神がゴリゴリと削られていき、撫でる手が止まってしまう。
そんな俺の様子に天童が気づき「どうかしたんですか?」と首を傾げる。
そして俺の視線を追うように天童が入口の方に振り向く。
マズイ、と思ったが時すでに遅し、真那さんを発見してしまった。
「ただいま~真白ちゃん♪」
「お母さん!?……まさか、ず、ずっと、見られて――大神さん!」
「俺!?」
顔をトマトのように真っ赤にした天童が、俺の肩を掴み、揺さぶってくる。ちょ、痛い……。
「どうして黙っているのですか!お母さんが居るなら居ると言ってくださいよ!」
「いや、俺もさっき気づいたというか……」
「言い訳は無用です!」
「えぇー……」
天童は羞恥心からか「うぅ~~」と手で顔を覆い俯いてしまった。かわいそうに……。
……真那さん?見ていないでいい加減リビングに入ってきてくださいよ、そして娘の相手をお願いします。
後シャロン?君もそろそろ移動して――
「ナァ~」
……………動く気なし、と。なんだこの状況……。
あぁ、帰りたい……。




