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ピンチと一方で

 

「マジかよ……」


 週明けの朝。


 洗面所で顔を洗おうと鏡を見て、俺は途方に暮れる。


 それは何故か……?


 寝癖で頭が爆発していたのだ。


 昨日風呂上がりに髪を適当に乾かして寝てしまったのが原因だろう。


 いつもはちゃんと乾かすが、昨日は朝から襲撃者(天童)が来て、ゲームの相手をさせられて、主に精神的に疲れていたからサボって寝てしまった。


 髪を濡らたり櫛を通すが、全然直らない。


(どうすっかなぁ……)


 シャワーを浴びる時間ないし、このまま学校はいくら俺でも論外、髪を結った姿を学校の奴等に見られたくないし、一個一個直してたら百パー遅刻する………よし、サボるか。


 即決した俺は周に「今日サボるわ」と連絡する。バイトは明日だし、テストも終わってるため特に問題もない。


 だが急に時間ができて暇になってしまった……どうする?


(久々にランニングでもしてみるか……)


 日頃から軽く筋トレとジョギングはしているが、走り込みはしていないため丁度いい機会だ。


 思い立ったが吉日というし、近くにランニングコースもある広い公園があったはずだ。


 早速ランニングウェアに着替えて、髪をしばってまとめ、出掛けることにした。






 午前の授業が終わって昼休みに入り、私は教室でいつも通り昼食をとります。


「まーしろん。一緒に食べよー」

「はい、結月さん。あれ?藍川さんはどちらに?」

「ヒロくんは大神達を誘う、って行っちゃった」

「そうですか、賑やかになりそうですね」

「そうだねー、ヒロくん二人のこと気に入ってるから」


 嬉しいそうに笑う結月さんを見ているとなんだかとてもホッコリします。


 それにしても、大神さん達を誘うって、教室に来るのでしょうか?


 露骨に嫌そうな顔をするのが目に見えるような気がするのですが。


 しばらくすると「お待たせ~」と言って藍川さんが教室に入って来ました。視線を向けるとそこには海藤さんだけでした、あれ?大神さんは?


「あれ?ヒロくん、大神は?」

「あー、大神のやつ今日は来てないらしい」

「え?そうなの?」


 え?大神さんがお休み?……もしかして風邪でしょうか?た、大変です!お見舞いに行かないと。


「どうして?風邪?」

「いや、御幸は健康体だよ。寧ろあいつが体調崩すなんてあり得ねぇから」

「じゃあどうしたのですか?」

「決まってるだろ、サボりだよ」


 ……はぁ?サボり?


 大神さんが?なんかちょっとショックです……真面目な人だと思ってたのに。先程の私の心配を返してほしいです。



「え~、そんなオチぃ?」

「まあ、あいつは色々抱え込むからな、中学の時はひどかったなー」

「マジかよ。まさか、イジメとか?」

「いや、そういうのじゃないが……悪いこれ以上は駄目だ」

「えー、気になるじゃーん」

「まあ結月、本人が居ないのに聞くのはまずいだろ?」


「ちぇー」と口を尖らせながらも、結月さんは大人しくなりました。


 正直私も興味はあります。


 だって大神さん自分の事は全然話さないし、私も人の事は言えませんけど……


 でも知らない筈なのに、時々私の心情を的確に言い当ててくるのは心臓に悪いです。偶にエスパーなのかと疑いそうになります。


「悪いな櫻井、天童も」

「いえ、確かに気にならないと言えば嘘になりますけど、謝っていただくことではありません」

「まあ、追々本人に聞けばいいしねぇー」

「結月、あんまガツガツ行くなよ?大神に嫌われるぞ」

「冗談だよ、無理に聞くような事はしません」

「その方がいい。御幸の防御は鉄壁だからな」

「「「確かに」」」


 結月さん達と台詞が被ります。それがおかしくて、三人と顔を合わせて笑い合います。


 そして、私はふと思いました。


(そういえば大神さんが笑ってる姿って見たことないです)


 バイトの接客では笑顔でしたけど、あれは作り笑いでしょうし、心から笑っているわけではないはず、頑張って思い出そうとしますが――



(……駄目です。苦笑いしている顔しか出てきません)


 知り合って間もないとはいえ、その事実に少し凹んでしまい、思わずため息をついてしまいます。




 四人で机を合わせて食卓を囲んでいると、結月さんが話を振ってきました。


「そういえばましろん」

「はい、なんですか?」

「ましろんってさ、大神のこと好きなの?」

「へ!?」


 ゆ、結月さん!?い、いきなり、な、な、何を!?


「え?その反応って……マジなの!?ましろん!?」


 す、すごい食いついてきました。目がキラキラ輝いてとても生き生きしています。


「え、えーと、そもそもどうしてそういうお話に?」

「だってましろん、この前大神と一緒に帰ってたし、教室で遊ぶ約束してたし、何かしら好意はあるのかなぁと」

「そ、それはただ大神さんがどんな男性なのか気になったというか……」

「ほらやっぱり気になってるじゃーん」


 うぅ、確かに大神さんの事は嫌いではないですけど、これが好意と呼べる物なのか正直分からないんです。


 学校では暗い印象でしたし、クラスも違いますし関わることはないと思っていましたが、少し話してみたら意外と優しくて、友達思いで、真面目で、なんだかんだ言いながらも面倒見もいいです。それに――


(初めて私を見てくれた人ですし……)


 だから『もっと我儘を言ってもいい』『甘えてもいい』と言われた時は本当に嬉しかったです。


 身内以外の人に初めて受け入れてもらえた気がしたから、まあ本人は無自覚だと思いますけど……


「た、確かに、大神さんは誠実で優しいし、素直じゃないように見えて案外素直ですし、文句言いながらも我儘聞いてくれて、とても紳士的――あっ」


 結月さんの方を見ると、ニヤニヤと楽しそうなそれでいて嬉しそうな笑みを浮かべています。藍川さんも同様で、海藤さんは意外そうな表情をしています。


「へぇ~あのましろんがねぇ~、ふ~ん」

「やるなぁ大神のやつ、まさか天童さんを堕とすとは……」

「お、堕ちてはいません!」

「いやいやましろん、流石に無理あるよそれ」

「うっ、う~~~~~!!」


 私は手で顔を隠して、声にならない悲鳴を上げます。なんですかこれ?スッゴく恥ずかしくて、顔が熱いです。


「うわー、ましろん分かりやすー」

「でもなんか新鮮だな、こういう天童さん見るの」

「……ああ……そう、だな……」





 その時――


 一瞬でしたが、海藤さんが複雑そうな表情をしていたのが見えました。ですがその意味を理解する事は私には出来ませんでした。



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