二人の休日
「そこでジャンプ」
「はい」
「ストップ、足場が動いてるからタイミングを計って……今だ」
「はい」
俺は天童に指示を出し、彼女もその通りに動いくため難なくクリアすることができた。
今は先の反省を活かして、口で指示している。……最初からこうすればよかった。
俺がこのやり方を提案すると、天童が不服そうに頬を膨らませていた。何故かは知らんが……
「また勝てましたよ、大神さん」
「うん。頑張ったな……えらいぞ……」
「えらい……はいっ」
褒められて嬉しいのか、表情がいつもより緩んでいた。普通にニコニコしてる。
学校では一切隙を見せない鉄壁の防御なのに、今は完全にゆるゆるな状態だ。
頼むからしっかりしてくれ……
「そろそろ昼だけどどうする?家に帰るか?」
「いえ、ゴハンは私が用意します」
「いや、流石にそれは……」
「これくらいさせてください。ゲームのお礼です」
別に要らないんだけど、天童も譲る気はないようでこっちをじぃっと見てくる。
俺は嘆息し、肩を竦める。
「……買い物行くか?」
「はいっ」
結局折れて、天童の言う通りになってしまう。
ダメだなぁ俺……
最寄りのスーパーで買い物を済ませて、早速調理に取りかかるのだが「大神さんは休んでいてください」とキッチンから追い出されてしまった。ここ一応俺の家なんだけど……
とりつく島もないため、大人しくソファに座り、料理してる天童の背中を眺める。
トントンとリズミカルな音を奏で、その度に結った髪がフリフリと揺れている。
なにやらご機嫌な様子だ……そういえば料理好きって言ってたな。
可愛らしい少女が手料理を振る舞ってくれるというシチュエーションに、少しはドキドキするものと思っていたが、全然そんなことはなかった。
(まあ、変に勘違いするよりはましか……)
あまりの淡白さに自分でも驚くが、その方が楽でいい……
他人だろうと友人だろうと、所詮は――
「大神さん?」
「ん、なんだ?」
「いえ……なにか思い詰めた表情をしていたので、後ゴハンも出来ましたよ」
どうやら考え事をしている内に料理が完成したらしい、相変わらず手際がいいな。
「そっか……悪い少しぼーっとしてた」
「なにか悩み事ですか?私でよければ聞きますよ?」
「そんなんじゃないから、大丈夫だよ」
不安そうにこちらを見詰めてくる天童を安心させるように、俺は無意識に彼女の頭に手を伸ばし、優しく撫でる。
綺麗な明るい栗色の髪がサラサラと動き煌めく。あまりのさわり心地の良さに内心驚きながら撫でていると、天童の体がぷるぷる震えている。
嫌そうな顔はしていないが恥ずかしかったのか、見上げてくる顔は赤く染まり、ぐるぐると視線をさ迷わせている。
どう見てもパニック状態……
「ちょ、な、にゃにを!?」
にゃにを?
「わ、悪い、天童つい……」
「べ、別にいいですけどっ、その……触る時は……事前に言ってください」
「……ごめん」
「もう、そこまで謝らなくてもいいですよ?」
「嫌じゃないのか?」
「……大神さんに触られるのはイヤじゃないですよ?大神さんは優しいですし」
「……そっか」
彼女の優しさに胸があつくなるのを感じるが、すぐに冷める。
だってこんなのは優しさじゃないから……
俺はただ、現実から逃げてるだけなんだから……
「で、でも……私だからいいのであって、本当は女の子の頭を軽々しく撫でてはいけませんからね」
「そんなこと言われても、学校の女子でまともに話すのお前だけだし……」
一瞬心が冷めるも、天童の様子を見ていると頭が冷静になった。
彼女が何故そんな心配をするのか分からんが、そもそも俺は女子と仲良くなりたいわけじゃない。今みたいなことをしても「キモっ」と思われるだけだし、身の程は弁えている。
むしろ今こうして天童と一緒に居ることがイレギュラー過ぎるのだ。
「他に触るわけないだろ?」と付け加えると、天童が「……じゃあ」と顔を俯かせて服を摘まんでくる。
「もっと撫でてください」
「え、なんでだ?」
「い、いいから……」
右手を掴まれ、天童の頭の上に乗せられる。渋々撫でてやると、ご満悦な表情を浮かべご機嫌な御様子。
普通男に撫でられて嬉しいだろうか?こいつのこともよく分からんな……
「そろそろいいか?」
「……もうちょっと」
「はいはい」
お腹すいたし、そろそろお昼食べたいんだけど……
「天童そろそ――」
ぐぅー。
お腹の音が鳴ってしまい、それを聞いた天童は顔をキョトンとさせて「ぷっ」と吹き出した。
「……笑うなよ」
「す、すみません……ふふっ。ではお昼ゴハンにしましょう」
「……ん」
少し不貞腐れながらも、お腹がすいているのは事実なため、出来上がった料理を運ぶのを手伝う。
料理はどれも絶品だったため残さず食べた。おかわりもしたが足りなかったため、天童のも分けてもらうほどだ。
そんな俺を天童が微笑ましそうに見ているのに気づく、まるで我が子を見るような慈愛の眼差しに照れ臭くなりながらも、完食した。




