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押しかけと暇潰し

 


 朝の日差しがカーテンの隙間から僅かに入り込み、薄暗い部屋の中を照らす。


 俺は寝起きでダルい体を起こし、ほぐすために腕を伸ばした。


 洗面所で顔を洗い、鏡を見ると気だるそうな顔が映る。


 無表情で暗く、死んだような目。気力が全く感じられない。


(ホント、ひどい顔してるな……)


 自虐してキッチンに移動し、朝食の用意をしていると、呼び鈴がなった。


 チラッと時計を見るとまだ朝の八時だった。


(こんな朝早くに誰だ?)


 インターホンのカメラを確認すると――そこには天童がいた。


 相変わらずお洒落な私服姿は、思わず見惚れそうになるほどだが、それよりも――


(なんでこんな早くに、しかも今日休日だぞ)


 地獄のテストが終わり七月に突入にして、本格的に暑くなってきたため、朝とはいえもうかなり暑い。


 季節の変わり目は体調を崩しやすいため、今日はバイトも勉強もせずにゆっくり体を慣らそうと思っていたのだが……


(全く。来るなら来るで連絡くらい……そっか知らねぇか)


 天童曰く連絡先は同性の友達にしか教えていないという徹底ぶりだそうだ。


 ……クラスの男子涙目だろうな、可哀想に。


 とりあえず解錠し、ドアのチェーンを外す。インターホンが鳴り、ドアを開ける。


「おはようございます。大神さん」

「おはよう……なにしに来た?」


 素直な疑問をぶつけると「休日で暇なので」と返ってきた。


「そうか暇なのかー、ておい」

「ノリ突っ込みとは珍しいですね」

「誰のせいだと思ってんだ……」

「確かに連絡もなしに来たのはマナー違反でしたね、すみません」

「それもあるが……まあいいか」

「では上がってもよろしいですか?」

「……どうぞ」


 まさか二週連続で家に来るとは、天童の倫理感が少し心配になってきた。


「大神さん、もう朝食はとられましたか?」

「いや、これからだけど……天童は?」

「私もまだなのでよかったらご一緒してもいいですか?自分の分はありますから」


 そう言ってバックからタッパーを取り出す。中はサンドイッチかな?


「別にいいけど、なんで家で食べて来なかったんだ?わざわざタッパーに入れる必要なんて――」

「いいえ、必要です。何があろうと絶対に」

「そ、そうか……」


 有無を言わせない、淡々と喋る天童に妙な迫力を感じて、思わず同意してしまった。


 普段温厚な人ほど怒ると手がつけられないのは周で学んでいるため、ここは大人しく引こう。


「もうすぐできるから少し待っててくれ、飲み物は麦茶でいいか?」

「はい。ありがとうございます」


 朝はいつもフレンチトーストにハムエッグにサラダとリンゴジュースと洋食寄りだ。


 もちろん米と味噌汁等の和食も好きだが、俺的には朝はこっちがデフォルトだ。


 ダイニングテーブルに出来上がった品を並べると、先に座っていた天童が「まあ」と驚いていた。


 ……これくらい作れるっつーの。


「じゃあ、食べるか」

「はい。いただきます」

「ん、いただきます」


 互いに両手を合わせて感謝するが、その前に一言言っておかなければならない。


「天童」

「?なんですか?」


 小さい口でサンドイッチをはむはむとかじりながら首を傾げている。自覚ないのか……


「あのなぁ、前にも似たようなことを言ったが、あんま頻繁に男の家に来るもんじゃないぞ」

「それは分かっていますけど、大神さんがきちんとゴハン食べてるか心配で……」

「現在進行形でしっかりバランスよくとってるだろ、どんだけ心配性なんだよ」

「だって……」

「ん?」

「……大神さんと、一緒に食べたかったから……」


 甘えるような目で少し頬を染めている天童に一瞬ドキリとするがすぐに冷静になる。


 それは親とか同性の友人に言ってくれ。なんで俺なんだよ。


 それだけ信じてもらえているという事だろうが、少し無防備過ぎだ。


「……今回は仕方ないが、次からはないようにな」

「はい!」


 ああいう表情に弱いのか、どうしても甘い判断を下してしまう自分が少し情けない。


 嬉しそうに返事をする天童に「本当に分かってんのか?」と疑問に思うが、多分わかってないと思う。


 俺は嘆息し、この天然美少女に頭を悩ませながら朝食を済ませるのだった。







 洗い物を終えて、テレビを見ながらソファで寛ぐ。今日はとことんゴロゴロする予定だったのだが――


「大神さん、大神さん。アレってゲーム機ですか?」

「……そうだけど」

「やってみてもいいですか?」

「どうぞ」


 天童がゲームに興味を持ってしまったのだ。


 この間行ったゲーセンで瞬殺されていた天童がだ。


(絶対クリアまでいかないだろうな……)


 内心でそう思っていたが、その予感は見事的中した。





「……全然進みません」

「知ってる」


 天童がやっているのは子供でも簡単に遊べる横スクロールRPGだ。


 その一番最初の面の敵を避けようとせず突撃して残機がゼロになるのを繰り返している。


 まさかこいつ……


「もしかして、テレビゲーム初めてなのか?」

「………はい」


 やっぱりか、ゲーセンもこの前が初めてって言ってたからもしやと思ったけど。


(案外世間知らずなんだな)


 再び挑戦するも、また同じ敵にやられて少し口を尖らせている。


 彼女がこちらをむすっとした表情で見てきた。


(ここを手伝えと?まだ序盤の序盤だぞ?)


 ヘルプには早すぎる気がするが、負け続けて不貞腐れられても困るため結局手伝うことにした。


「えーと、まずジャンプボタンがこれで、こいつはジャンプすれば避けられる」


 俺は天童のコントローラーに手を添えて、小さな手に重ねるように握る。この方が教えやすいし、感覚も掴みやすいだろう。


「この面はジャンプさえ出来れば難しくない。跳ぶタイミングとかもあったりするが、そこは慣れていくしかないな」


 すでにクリアしているゲームなためサクサク進めていく。途中、天童が詰まりそうなところで説明を挟み、実際にやらせてみると……あっという間に残機が減った。


(これは重症だな)


 どんな素人でも普通は躓かないのだが、どうやら天童にも苦手なものはあるらしい。


 それでも何度も挑戦し、ようやく最初の面をクリアすることができた。


「やった……勝てましたよ。大神さん」

「……うん……よかったね……」


 嬉しいそうに笑う天童を微笑ましく思うが、俺は少し疲弊していた。


(まさかクリアに一時間かかるとは……)


 あまりの下手さにため息をつきたくなったが、ぐっとこらえる。


 そんなこと考えていると天童がなにやらモジモジしている様子だった。


「どうした?落ち着かない様子だけど」

「いえ、あの、て、手を……」


「手?」と言われた通りに視線をやると、天童の手を握ったままだった。そのため距離も近いく、彼女の二の腕にも触れていて、温もりとミルクのような甘い香りが直に伝わってくる。


 状況を理解した俺は慌てて彼女から離れる。


「悪い、触られるの嫌だったよな」

「いえ、そんなことは………」


 頬が薄く染まっているのを見て少し後悔する。やはり触られて不快だったし、嫌だったのだろう。


 男子が苦手な天童なら尚更だ。


「ホントごめん。気持ち悪かったよな」

「そんなことはないですし、そこまで気にしてませんよ?」

「無理しなくてもいいぞ、嫌なら嫌って言っていいんだからな?」

「本当に嫌とかではないです。少しびっくりしただけで……」


 どうやら許してくれるようだ。寛大な天童に感謝しつつ、次からは気を付けようと思った。


その後も進めていくが、やはり速攻やられていく天童がヘルプの視線を送ってきて、その度に俺が教えるの繰り返しだった。


(……今日中にステージクリアできるのかこれ?)


天童の下手さに最後まで頭を悩ませる事になるのだった。



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