雑談
「あー、美味しかった」
「お粗末様でした」
昼食を済ませ、後片付けを終えた俺達はリビングでお茶を飲みながら少し休憩していた。
「この前の煮物も美味しかったし、料理上手なんだな」
「毎日作っていれば慣れますし、お料理するのは好きですから」
「ふーん、料理はお母さんから?」
「はい、大神さんもお母様から?」
「いや、うちは父さんの方が料理上手だったから父さんからだな」
子供頃はよく一緒に作ったものだ、明らかに失敗したやつを二人が美味しいって、苦い顔をしながら食べてくれたのを覚えている。
「まあ、最低限一人暮らしできる程度だよ、材料切って炒めるか、焼くかできれば十分」
「……ワイルドですね」
「男の一人暮らしなんてそんなもんだよ」
「野菜もちゃんと食べないと駄目ですよ、栄養バランスが偏った食事は健康に良くありません」
まるで母親から説教されているような感覚、余計なお世話だが、彼女なりに心配してくれているのだろか?
(そもそもどうして俺なんかに構うんだ?)
その疑問はもっともだろう、何せ天童はモテる。高校ではもちろん、それ以前からも男子からたくさんアプローチを受けてきているはずだ。
だから男子は苦手かと思っていた、噂だと告白されても断っているようだし。
「なあ、天童」
「はい?」
「……お前男苦手そうなのに、なんで俺の事は信じてくれたんだ?」
そんな優等生な天童がなんで?とずっと考えていたが結局分からないため、思い切って聞いてみる事にした。
思春期真っ只中で性欲旺盛な男子高校生なんて女子からすれば獣も同然、初対面なら警戒して当たり前。
実際初めて会話したときは、警戒心剥き出しの猫みたいな対応だったし。
「……確かに男性は少し苦手ですし、大神さんのことも最初は警戒してました」
やっぱりな。いいよ、それが普通なんだよ天童さん……
「でも大神さんは今まで出会った男性とは違いました。少し暗いですけど、誠実で真面目な人だってことは、バイトをする様子を見れば分かりますし、友人思いの優しい人だというのも海藤さんを見ていれば一目瞭然です」
「………そっか」
……なんかスゴい褒められて恥ずかしいが、どうやら知らないうちに彼女のお眼鏡にかなっていたらしい。
「それに……バイトしている大神さんは学校のイメージと違って、その、かっこいいと、思います、し……」
言ってて恥ずかしくなったのか、たどたどしく喋る天童を見てるとこっちまで恥ずかしくなってくる。
お世辞ではないと真剣な表情で顔を赤らめながらもこっちを見つめてくるため、なんか否定しづらい……
「えーと、ありがとう?」
「何故疑問形になるのですか?」
「だって俺周りからは地味で根暗なオタク系男子だと思われてるから、女子ってそういうの嫌いだし意外だと思って」
クラスでも周以外に友達はいないし、女子からも多分嫌われていると思う。前に櫻井も似たような事を言っていたし。
別にいじめられてる訳じゃ無いためどうでもいいが。
「そうですか?髪を切ってちゃんと整えたらモテると思いますけど……」
小さい手が俺の顔に伸びてきて長い前髪をかき上げる。
いつもより広がった視界で天童を見ると「ほら」と言わんばかりにこちらをじっと見てくるため、居心地が悪い。
「……少し女顔ってだけで、それ以外普通だろ」
「目鼻立ちも整っていますし、髪もサラサラです。触ってもいいですか?」
人の話聞けよ……
はぁ……まあいいか。なんか楽しそうだし。
「……もう好きにしてくれ」
「では失礼します」
ソファの上で膝立ちになって触りやすい位置に着き、優しい手つきで髪を梳いてくる。
髪をイジるのが好きなのか、とても楽しそうに微笑んでいる。
「……嬉しそうだな」
「はい。とてもサラサラで触っていて楽しいです。ちゃんとお手入れしてるんですか?」
「母さんお勧めのシャンプーを使ってるだけ」
元々髪質がいいため「勿体ないから」とほぼ強制的に使うよう言われている。
「そうですか。……ちょっと羨ましいです」
「天童は長いから手入れも大変そうだな」
「私も質はいい方ですけど、長いのでどうしても時間がかかりますね」
「大変そうだな、でも確かにスゴいサラサラだな?」
向こうも触ったし、こっちから触っても大丈夫だろうと思い、頬にかかる髪に触れて顔を露出させる。
女性にとって髪は命とも言うため、慎重に優しく撫でるように梳く。
近くで見ると改めて天童の美貌の凄まじさが分かる。雑誌などに載ってる女優よりもとても綺麗で、魅力的だ。
この美しさを保つ為にどれだけ努力しているかは知らないが、天童の事だし妥協なんてしないだろう。
それにしても本当に――
「……可愛いな」
「ふぇっ?」
可愛らしい声を上げて顔を真っ赤に染め、口をはくはくさせたまま、天童が固まってしまった。
(しまった……心の声が……)
客観的に見れば、女性を口説こうとキザなセリフを吐くイタい奴にしか見えない。俺はすぐに頭を下げて謝る。
「悪い、変な事言って……俺なんかに言われても気持ち悪いよな」
「い、いえ、そんなことないです!とっても嬉しいです!」
「え?」
「あっ……」
不快な思いをされなかったのはよかったが、予想外の返しに今度は俺が驚いてしまう。
天童は顔を俯かせていまい、耳まで真っ赤に染まり、恐らく羞恥でぷるぷる震えている。
こういうのは言われ慣れていると思っていたため、ここまで照れられるとは思わなかった。少し焦る……
「ホントごめんな、もう言わないから」
「……そこまで謝っていただかなくても」
「でも顔真っ赤だぞ」
「……あまり見ないでください」
その指摘で掌で顔を覆うようにして隠してしまった。逆効果だったか……
それから天童が回復するまでけっこう時間がかかって、お菓子作りはまた今度ということなった。
結局その日は、只昼飯を食べて勉強しただけだった。




