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訪問と昼食

  日曜日の昼頃。


 料理に使う材料を確認して下準備をしていると、エントランスから呼び鈴が鳴った。


 誰かはすぐに分かったためロックを解錠する。


 しばらくすると部屋にインターホンの音が鳴る。ドアのチェーンを外し玄関を開けると、買い物袋とトートバッグを持った私服の天童がいた。


「……おはよう」

「おはようございます。というよりもうこんにちはですけどね」


 いつも通り一言余計だが、本当に来るとは……


 服装は白のワンピースにカーディガンを羽織っている。ワンピースは膝くらいの丈だが、ストッキングを履いているため素足が見えることはない。どうやら肌を出さないよう徹底しているようだ。


 とても可愛らしく、高校生とは思えない綺麗さがあり「お洒落だなぁ」と感心する。


「はいはいこんにちは。まずは中にどうぞ」

「はい、お邪魔します……」


 とりあえずリビングに案内し、買ってきてもらった食材を受け取り冷蔵庫にしまう。


 お茶の用意をすると、落ち着かないのか視線をキョロキョロさせている。


 ……もしかして緊張してるのか?


 まぁそりゃそうか、普通親しくもない男の家に上がる時点でおかしいのだが、お互い恋愛感情は無いためその辺の感覚がズレているのかもしれない。


「はぁ、天童」

「は、はい」

「信じてもらえないだろうが、お前が嫌がるようなことをするつもりはないから安心しろ」

「いえ、その心配はしていませんけど……」


 普通するだろ……


「その、男の人のお家にお邪魔するのが初めてで……」

「あぁそういうことか。無理そうならやめとくか?レシピ教えるだけでもお前なら作れそうだし」

「……大神さんのことは信頼していますので大丈夫です。きちんと教えてもらいます」


 ……前から思ってたが、何故彼女が俺のことを信じてくれているのかさっぱり分からない。信頼を得るような行動をとった覚えがないため、本当に謎だ。


「天童がいいならそれでいいけど、怖かったら帰っていいからな」

「……なんか帰らせようとしてませんか?」

「そもそも親しくもない男の家に上がってるお前が悪い。何かすれば蹴るとか言ってたが、俺とお前じゃ体格差がありすぎて余裕で押さえ込めると思うぞ」


 少し脅すような言い方になってしまったせいか、びくんと体を振るわせ「うぅ」と呻き、一気に不安そうな表情になる。


 もちろんこちらにその気は全くないが、万が一ということもある。だから警戒心は緩めないで欲しかった。


「男は狼だ。そして女性は受け身にならざるおえない、お前も気を付けろよ」

「その理屈ですと、この状況で手を出してこない大神さんは…………男性じゃない?」


 ――思ってたより余裕そうだなこいつ。


(この調子なら大丈夫だろう。緊張も大分解けたみたいだし、そろそろ本題に入るとするか)


「……で?昼飯作るんだっけ?」

「えぇ。食材も買ってきましたので、早速作りましょうか?」

「頼む。俺も手伝うから、献立は?」

「オムライスとサラダにコンソメスープ。それと夕食用に豚汁を作る予定です」

「いや、昼飯だけで十分なんだが」

「ついでですし、そこまで手間はかかりませんから問題ないです」


 個人的にはありがたいが、ここまでしてもらうとなんだか申し訳なく思ってしまう。


 折角の休日を俺なんかのために無駄に消費させてしまって……罪悪感が凄い。


「じゃ、準備しますか、エプロンどうする?」

「家から持ってきているので大丈夫です」

「了解」





 互いにエプロンを着けてキッチンに移動する。邪魔にならないように髪を一つ結びにしている天童がなんか新鮮だ。


 こう……グッとくる?ってやつなのかな?


「では私が主な調理と味付けをやりますので、大神さんは野菜のカットをお願いします」

「ん」


 言われた通りに早速野菜を切り始める。


 スープには栄養面を考慮して野菜多めにするらしい。人参、じゃがいも、玉ねぎを一口サイズにカットし、オムライス用の玉ねぎ、ピーマンをみじん切りにする。


 鼻歌混じりに作業してると、隣から視線を感じる……見ると天童が不思議そうにこちらを見ていた。


「どうした?」

「いえ、手慣れてるなぁと思いまして……」

「最低限はできるって言っただろ、やっぱり信じてなかったのか……」

「えっと、その……はい」


 気まずそうに頷く天童に、やっぱりかと苦笑する。


「別に怒ってる訳じゃない、要らん心配はしなくていいと思っただけだ」

「……はい、ところで大神さんは料理お好きなのですか?」

「好きまではいかないけど嫌いでもないよ。特にお菓子作りは」

「確かに、先日頂いたアップルパイはとても美味しかったです」

「はいはい、どうも」


 美味しいと言ってくれるのは嬉しいが、こういうのは話半分に聞いておくにかぎる。


 お世辞を言っていると思われたからか、天童がムッと不服げな表情をする。


「お世辞ではなく本心ですよ」

「でも、確かお母さんが気に入ったって言ってたよな?」

「あっ……えっと、それは……」

「それは?」

「…………」


 無言で無表情のまま再び手を動かす天童だが、頬が少し紅潮していた。


(もしかして、天童も気に入ったのか?)


 別に隠すような事じゃないと思うが、天童的には恥ずかしいらしい。笑ったら拗ねるか怒るかすると思い、指摘するのはやめておく。




 その後も調理を進めて無事昼食が完成した。ダイニングテーブルに料理を並べて、互いに向かい合うよう席に座る。


「おお~美味しそう」

「そう言ってくださるとありがたいです」


 料理自体は簡単なものだが、作ってくれるというだけで十分ありがたい。冷めてしまうのは勿体ないため「いただきます」と感謝し、早速食べ始める。


「美味しい」

「ありがとうございます」


 天童が料理上手なのはちろんだが、オムライスは俺の大好物というのも大きい。


 言うと子供っぽいと思われるから言わないけど……


 卵は半熟でふんわりしつつトロリとした食感が絶妙だ、そこにトマトソースの酸味が効いていて味もしつこくない。


 スープも玉ねぎとコンソメの出汁のバランスがいい、インスタントとは違う風味と香りがとてもいい塩梅だ。


 食感と味をゆっくり堪能して、舌鼓を打っていると、前からまた視線を感じる。


「……スゴい食欲ですね」

「美味しいからな、おかわりある?」

「すみません、二人分しか……オムライス好きなんですか?」

「……悪いか?」


 ふん、とスプーンを咥えながらそっぽを向くと、くすりと笑われた。


 ……結局子供扱いされた、でも――


(誰かと一緒に食事するのって久しぶりだな……)


 父さんは家族との時間を大切にする人で、家での食事はなるべく皆で食べるのが普通だったため、あの時が懐かしく感じる。


 この穏やかな時間に少し感動しつつ、俺は天童の手料理を楽しんだ。




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