新しい常連さん?
昨日の学校とバイトでの精神攻撃により、俺の心はボロボロにされた。
そのおかげというのも変な話だが、俺のメンタルはガラスから鋼へと進化を遂げ、今日の男子連中からの視線の圧力になんとか耐えきった。
昨日はマスターに情けない所を見せてしまったがもう大丈夫だ。
俺は店の扉を開けてマスターに挨拶する。
「お疲れ様です」
「おぉ、大神くん。調子はどうだい?」
「おかげ様でなんとか持ち直しました。……それと昨日はすみませんでした」
「構わないさ、昨日はお客さん少なかったし、君はいつも頑張ってくれているからね」
「……ありがとうございます。今日は昨日の分まで頑張りますので」
「ほどほどにね、休憩はしっかり取るんだよ」
お気遣いありがとうございますマスター、ですが俺は昨日を乗り越えてみせます。
無理しない範囲で……
制服に着替えた俺は、綾乃さんと一緒に厨房に立っている。
メインと仕上げは綾乃さんで、俺はそのサポート。
生地の下準備だったり、果物をカットしたりといった感じだ。
たまに俺も作ったりするが、綾乃さんには敵わない。もっと精進しなければ……
「大神くん、チーズケーキお願いできる?」
「あ、はい。分かりました」
(珍しいな、まだ予備もあるのに)
チーズケーキは店で一番人気ということもあって、今まで作らせてもらったことはなかった。
少し緊張するが、落ち着いて、教えてもらった通りに……よし。
まずはクリームチーズをクリーム状になるまで混ぜて、砂糖、卵と順に加えてまた混ぜる。
生クリームを少しずつ加えて混ぜ、薄力粉をふるい入れる。
切るように混ぜた後、レモン汁を加えてまた混ぜる。
終わったら、準備していた型に生地を流して、オーブンで焼く。
焼き終わったら粗熱をとり、冷蔵庫で冷やし固める。
固まるまでけっこうかかるのでまたサポートに戻ると、綾乃さんがニコニコしていた。
「うん。随分スムーズにこなせるようになったわね」
「まぁ家でも少し練習しましたけど、教えてもらったことをやっているだけですよ」
「相変わらず謙虚ね、大神くんは」
「事実を言っているだけですよ、それに綾乃さんには敵いませんし」
「それはそうよ。簡単には追い抜かせないわ」
嬉しいそうに話す綾乃さんを見ていると、自然とこっちも笑顔になる。なんか不思議な気分だ。
「大神くん、これテーブルまでお願い」
「分かりました」
フロアに出て、オーダーした品とテーブルが合っているのを確認する。……よし。
「おまたせいたしました。フルーツタルトです」
「はい。ありがとうございます」
「ご注文の品はお揃いでしょうか?」
「はい」
「ごゆっくりどうぞ。失礼します」
………超デジャブなんですけど………
二日連続よ?なんで?ねぇなんでなの天童さん?
俺への嫌がらせ?それとも単純にお店を気にいっただけ?……後者だな、うん。
そう自分で結論を出してカウンターへ戻ると、マスターが耳打ちしてくる。
「大神くん。あの子昨日も来ていたけど、もしかして知り合いかい?君と同じ制服だし」
「いえ全然、赤の他人です」
「そうかい?でもさっきから君の事をチラチラ見ているようだけど」
「気のせいです。もしくは人違いです」
もしマスターにまで関係を勘ぐられようものなら、天童に「もう来ないで!」と土下座しよう。――マスターが微笑ましい顔で俺を見る。
「なるほど……」
「あの、マスター?」
「いやいや、何でもないよ。……青春だね」
「……そんなんじゃないですって」
そう、お互いに恋愛感情なんて持ってない。
ただ料理を教える約束をしただけ、それ以上はないのだ。
「折角だし休憩がてら話してきたらどうだい?」
「いえ、本当にけっこうですので……」
否定するものの「いいからいいから」と強引にカウンターから追い出されてしまった。
俺は嘆息し、仕方なく天童が座っているテーブルに向かった。
見ると、フルーツタルトを美味しそうに食べている最中だった。いつものツンとした表情ではなく、幸せそうに頬張ってるその姿はどこかあどけなく普通に可愛らしかった。
「よっ、天童」
「あら、休憩ですか大神さん?」
「ん、そんなとこ」
「そうですか、よろしければこちらにどうぞ」
そう言って天童が隣の席をポンと叩く。
なんで隣?と言いたいが、天童がポンポンと催促してくるので渋々隣に座る。
(なんか前より態度が柔らかくなった気がするけど、なんかしたっけ?)
疑問に思ったが、心当たりは特にないのでまぁいっかと流すことにする。
「それ、うまいか?」
「えぇ、ここのお店は結月さんに勧められたのですが、どのケーキも美味しいですね」
「それは良かった」
「大神さんは平日ほとんどバイトですか?」
「まぁ、週三くらいかな。たまにヘルプで入ったりもするけど」
「ふーん………」
妙に含みを持たせた返事をする天童だが……さっきから顔をチラチラと見てくる。
「俺の顔に何かついてるか?」
「あ、いえ、その……」
見ていたのに気づかれて顔を俯かせる、見ると頬が少し赤くなっていた……なんでだ?
「大丈夫か天童?顔赤いぞ」
「だ、大丈夫です……ただ……」
「ん?」
「……大神さん、髪型いつもと違うなと思って」
そういうことか、学校では目立たないように髪は下ろして眼鏡掛けてるから珍しかったのだろう。
「学校以外だと普段はこのスタイルなんだよ」
「どうして学校ではしないのですか?」
「俺は地味キャラでいきたいの、その方が一人になれるし」
「そうですか………もったいない……」
最後の呟きは小さくてよく聞こえなかったが、大したことではなさそうだしどうでもいいか。
「天童こそ昨日も来てたよな、うちとしてありがたいが大丈夫なのか?もうすぐテストだぞ」
「勉強は余裕を持って取り組んでいますから問題ありませんよ。大神さんの方こそテスト近いのにバイトしてていいんですか?」
「俺は平均以上が目標だから、授業聞くだけで十分だよ」
「……それ本当に大丈夫なんですか?」
疑わしそうに薄目でじぃーっと見てくる。どうしてここまで疑われるのか分からないが、生活面に続き今度は勉強面でも心配されているらしい。
「大丈夫だよ、前の中間も似たような感じだったけど三位だったし」
「それはそれ。これはこれです」
やはり信じてもらえないらしい。そもそも何故ここまで心配さているのか理由が分からないのだが、そんなにダメ人間に見えるのかな?……なんか悲しい。
「……じゃあ天童が勉強見てくれ」
「え?」
「日曜日、アップルパイはそこまで作るのに時間かからないし、さっきも言ったけどテストも近い。天童学年首位だし、その方が俺も心強い」
「……私でよければ、いいですけど……」
俺からの提案が予想外だったのかきょとんとして瞳を瞬いている。それが少しおかしくて思わずふっ、と鼻で笑う。
「な、なんで笑うのですか?」
「いや、あまりにもびっくりした顔してたから、つい」
「……あまり見ないでください」
不服だったのか、咎めるようにこちらを睨んでくる、羞恥心からか頬も赤くなっている。少しからかい過ぎたか。
別に機嫌を悪くさせるつもりはなかったのですぐ「ごめん」と謝る。
「悪かったよ、機嫌直してくれ」
「…………チーズケーキ」
「三人分でいいか?」
コクりと頷くのを確認し「分かった」と席から立ち上がる。
「じゃあ俺そろそろ戻るから、ケーキは後で渡す。ごゆっくりどうぞ、お客様」
最後に店員として挨拶をして、俺は仕事に戻った。




