噂
「なぁー御幸ー」
「…………なんだ?」
「今日なんか一段と暗くないか?」
「…………そうだな」
「昨日なんかあったのか?男子達がお前を呪い殺すように睨み付けてっけど」
昨日の玄関での一件はあっという間に学校中に広がり、一緒に並んで帰ったところも見られてしまい、二人は付き合ってるのではないかとという噂まで立っている。
実際は付き合ってるどころか、お互いに恋愛のれの字もないのだが、高校生は色恋沙汰の話題に敏感なのだ……特に女子は。
「……俺は今傷心中だから、そっとしておいてくれ……」
「そうしてやりたいが……どうやらそうはいかないっぽいぞ」
周に視線を向けると教室の入口を指差していた。顔をそっちに向けると、天童達が教室を覗き込み、キョロキョロ。
そして目が合い、「おいでー」と手招きされる。……猛烈に嫌な予感がするため、ふぃっとそっぽを向き無視する。
……現実逃避は時に人生を救うのだ……
「大神さん。どうして無視するのですか?」
……最近よく聞く抑揚のない声が耳に届く、どうやら逃げる事は許されないらしい。トホホ……
天童のいる方に体を向けると、クラス全員の視線が俺を貫く。
メ、メンタルが……
後ろには藍川と櫻井もいた……何故か二人共ニヤニヤしている。
「……何か御用でしょうか?」
「今日は何か予定はありますか?」
「今日はシフトが入っております、ちなみに明日も」
「そうですか、終わりはいつ頃になりますか?」
「十九時くらい……」
「分かりました。では、これで」
「は、はい」
聞きたいことを聞きいて、さっさと帰っていく天童。そして藍川と櫻井が迫ってくる。
「やるな大神。あの天童さんとお近づきになるなんて」
「本当びっくりだよー。ましろんとは高校で知り合ったけど、今まで男子にあんな素振り見せたことないし」
それは俺がなにもしてこない安全な男として認識されてるからな、実際は連絡先も家の場所も知らないし。手出しする気も更々ない。
「……はっきりさせておくが、俺は天童の事はなんとも思ってない、向こうだってそうだ。多分男として見られてすらいない」
だから皆が思っているような関係じゃない、と説明するが……
「じゃあなんで今日の予定聞かれたんだ?」
「さぁな」
「もしかしてデート?デートなの!?」
「悪い本当に知らないんだ、だから俺からは何も言えない」
「二人共、御幸は嘘は言ってないぞ。そもそも嘘つく必要がない」
周グッジョブ!ナイスフォロー!
「えぇ~でも~」
「まぁまぁ結月、その辺にしときな」
「ヒロくんは気にならないの?」
「そりゃあ気になるけど、今はまだいいだろ。見守っていこうや」
だからそんな関係じゃないんだって……って言っても信じないだろうし黙ってよ。
事実、二人は俺を見てまだニヤニヤしているし。
キーン コーン カーン コーン
次の授業の予鈴が鳴り響く。
「やば、授業始まる。行こヒロくん」
「おう。またな大神」
二人は急いで教室から出ていく、ようやく嵐が去っていった。
はぁ……マジで疲れた。
今日は一言で言うと地獄だった。
周囲からの嫉妬と好機の視線で、俺の精神はゴリゴリに削られた。
天童は人気があって、狙っている男子が多いのも分かっていたつもりだったが、競争率が思っていた以上に高い。
みんなバチバチだもん、超睨んできたもん。
俺の静かなボッチライフはどこへいってしまったんだろうか。……はぁ……
「どうしたの大神くん?ため息なんかついて」
「あ、いえなんでもないですよ」
「そう?なんだか疲れている様子だけど……学校で何かあったの?」
鋭いな綾乃さん……でも今は仕事中だし切り替えないとな。
今日は厨房で調理を担当している、お客さんに出す以上手抜きは許されない。
「本当に大丈夫ですから、気にしないでください」
「ならいいけど、無理だけはしないようにね?」
「はい、分かりました」
そうしていつも通りに仕事をこなし、作ったフルーツタルトをテーブルに運ぶ。
「おまたせいたしました。フルーツタルトです」
「はい、ありがとうございます」
「ご注文の品はお揃いでしょうか?」
「はい」
「ごゆっくりどうぞ。失礼します」
いつも通りペコリとお辞儀する、そういつも通り………に………?
ぎぎぎ、と首を動かしテーブルを見ると――澄ました顔をした天童がいた。
(なんでお前がここで優雅にお茶してんだよ!)
おのれ……俺の平和を乱した諸悪の根元め……っていかんいかん、仕事中だった。
プライベートを持ち込んではいけない。接客は笑顔だ、そう……笑顔……笑顔……
「すみません、レモンティーを一つお願いします」
「はい、かしこまりました。レモンティーをお一つですね。少々お待ちください」
営業スマイルできてるよね、大丈夫だよね。
チラ見してみると、天童の白い頬に赤みが帯びていて、目が合うとさっと視線をそらされた。
そ、そんな……俺の笑顔って見るに耐えないくらいヤバイのか……
ショックを受け、カウンターにいるマスターに追加オーダーを伝える。
「マスター………レモンティー………追加………うぅっ」
「!?ど、どうしたんだい!?大神くん」
「マスター………俺の顔………変ですか?」
「顔?……君の顔立ちはきれいよりだとは思うが、それがどうかしたのかい?」
フォロー、ありがとうございますマスター……でもすみません……今日はもう……
「…………早退させてください(泣)」
「わ、分かった!きっと勉強で疲れているんだろう。今日はもう上がって大丈夫だよ」
「……ありがとうございます」
マスターの優しさに甘えてしまった……明日は死ぬ気で働いて挽回します!




