約束する
雨が地面を強く打ちつけている中、俺はかなり困惑していた。
天童から教えてほしいと言われたのも驚きだが、まさか気に入られるとは思わず想定外だった……
「作り方教えろって言われても……」
「だ、だめですか?」
不安そうに上目遣いで見つめられ、思わず「うぐっ」と声がこぼれる。……わざとやってんのか?
若干瞳が潤んでいるせいもあり、周りの生徒達が「天童さんを泣かせた!」「アイツやりやがったな……」「サイテー……」等と騒ぎ始めた。
まずいと思った俺は借りた傘を開き、天童に声をかける。
「分かった、分かったから……作り方教えるし傘もありがたく使わせて貰う。これでいいか?」
「……はい」
「じゃあ、俺はこれで……」
かなりアウェーな状況になってしまい、この場から早く立ち去ろうとするのだが……
「予定はいつにしますか?」
……そういえば決めてませんでしたね……
これ以上ここには居たくないんだけど……はぁ、仕方ないか。
「……帰りながらでいいか?」
「えぇ構いません。では行きましょうか」
「…………はい」
天童が傘を開いて歩きだす。俺はその後を追って歩くが「それだと話にくいです」と言われて、結局隣を歩くことになった。
周囲をチラリ……
「天童さんが男と!?」「誰だ?アイツ?」「あんなヤツいたか?」「天童さんってあいうのが好みなのかな?」「ねー、以外」
(…………明日学校サボろうかな…………)
天童狙いの男性陣からは嫉妬の眼差しと悲痛な叫び、女性陣から値踏みと好機の視線。
(どうしてこんなことに……)
神様はよほど俺のことが嫌いらしい。
あぁ、雨音が耳に心地いいな、と現実逃避する俺だった。
「大神さんは今週末なにか予定があるのですか?」
「いや……特には……」
「では土曜日と日曜日のどちらかになりますけどよろしいですか?」
「うん……いいよ」
帰り道、学校の玄関で晒し者にされた俺は、心に傷を負ったまま天童に適当に返事をしている。
原因である彼女は自覚がないのか、俺の様子を見てもコテンと首を傾げている。
(こいつ、天然なのか警戒心の塊なのか、よく分かんないやつだな)
そんな俺の心情を知らずに、天童は着々と予定を立てていく。
「じゃあ、日曜日でどうでしょうか」
「いいけど……どこで作るんだ?」
「あ…………」
あ、って……まさか考えてなかったのか?
普通に考えて、教えるとなると一緒に作らないといけない訳だし、場所的に俺か天童の家しかない。
だが天童が自分の家を俺に教えるはずもないし、警戒して俺の家に上がろうとも思わないだろう。
しばらく沈黙し、手を口に当てて考えている天童の反応待つ。
「大神さんのお家で構いませんよ」
「は?」
……マジで言ってんのかこいつ?
普通仲良くない男の家に上がろうと思うだろうか?しかも一人暮らしでこんな陰キャの家に。
不安とか感じないのかこの人?
「お前、俺が何かするとか思わないのか?」
「前にも言いましたが、何かする素振りを見せたら容赦なく蹴りあげます」
「きゃーコワーイ」
「それにあなたはそんな行動は取らないと思いますし、私の学校での立ち位置を理解しているでしょう?」
「まぁそうだけど……」
学年の人気者で、男子から女神とか天使とか女神とか日々言われている天童と俺では、信用の差が大きすぎる。
月とスッポン、天と地ほどの差があるのだ。
「それに、もしあなたが私に気があったのなら言い寄って来たでしょうし、そういう意味では安全な人だと思っています」
「左様で」
「ですから、問題ありません。……見られたく無いものがあるなら隠しておいてくださいね」
そっちの心配より、出来れば自分の心配をしてほしいのだが……本人がいいならいっか、何かするつもりもないし。
「分かった、じゃあ日曜日の午後からでいいか?」
「はい、よろしければお昼を作りましょうか?」
「いや、流石にそこまでは……」
「こっちは教えて貰うわけですからそのお礼です」
「でも……」
「いいんですよ、料理好きですから」
どうやら引くつもりはないらしい。
俺は嘆息し、両手を上げ降参する。
「分かった、もう好きにしてくれ」
「言質は取りましたよ」
「怖いから、その言い方はやめろ」
「そうですね」
クスリと笑う天童だが、俺はそんな天童が逆に心配だった。
(良く今まで男の毒牙にかからなかったな)
安全無害な男と思われてるのはいいのだが、ちゃんと警戒心は持てよと願わずにはいられなかった。




