おすそわけ返し
ゲームセンターで別れた俺達はそれぞれの方向に帰路に着く。
俺は前と同じ様に前後で距離を取って天童とは他人として歩くが、天童が「あの」と喋りかけてきた。
「なんだ?」
「その……ネコ取ってくれて……ありがとうございました」
なんだ、そんなことか。
「少しアドバイスしただけだし、取ったのは天童なんだから礼はいらない、よかったな」
「……はい」
天童がぺこりと頭を下げる、それを見て再び歩こうとして、一旦止まる。
大事な事を思い出し、天童の方に顔を向ける。
「天童って甘いもの好き?」
「え、はい……好きですけど」
「そうか、じゃあマンションに着いたら少し外で待っててくれ。前言った通り、おすそわけしたいから」
天童は俺がちゃんと一人暮らしを出来ているのかなぜか疑っている。
だから一人でも大丈夫だと証明するためにお菓子を作ることにした。
天童の好みは知らんが、女子は甘い物好きそうな印象だし、実際嫌いではないようだから多分大丈夫だろう。
「えぇ、分かりました……変な物入れないでくださいね」
「食べ物は粗末にしない主義だから安心しろ」
「どうですかね」
ジト目で睨らんでくるが全然怖くないし、俺も譲るつもりはない。
理由もなく俺の生活力がないと疑われるのは癪だし、貰った分は返したいと思っている。
マンションに着いた俺は部屋に戻り、白い箱を持って外に出る。
「はい、どうぞ」
「どうも……中身はなんですか?」
「アップルパイ」
元々お菓子作りが好きで、中でもアップルパイは良く作る。
作り方もそこまで難しくもないし、今回のもけっこう自信作だ。
「お店で買ってきたのですか?」
「ちゃんと自分で作りました」
納得がいかないのか訝しげな顔をしている。
(ホントめんどくさいなこいつ……)
外はもう暗いし、あまり長引くのも面倒なため「じゃあ」と手をふり俺は部屋に戻った。
翌日の昼休み。今日は周がモデルの仕事があるため欠席している。
やっと静かな日常を送れると思い、一人で昼食を食べようとしたが―――
「おーい大神ー、一緒に飯食おうぜー」
隣のクラスの藍川が、教室の入口から手を振っていて、「えぇ……」と思わず口に出てしまった。
藍川が教室に入って来て俺の腕を引っ張る。
「ほら早く、二人も待たせてるんだから」
「ま、待て藍川、俺はまだ一緒に食べるとは……てか二人って」
「結月と天童さんだよ、いいから行くぞ」
抵抗するも、藍川のあまりの強引さに結局折れて、学食まで引きずられていった。
「ヒロくんおそーい」
「悪いな、少し手間取った」
学食に着くと櫻井と天童がすでに席を取ってくれていた。二人は仲良さげに隣同士で座っており、俺と藍川は二人の反対側に座わる。
周囲からの視線が痛い……
「なんであんなヤツと天童さんが?」「うらやましい……」等といった怨嗟の声が聞こえた。
はぁ、お家帰りたい……
「で、なんなんだ一体?急に飯食おうだなんて」
「どうせ一人で食べるつもりだったんだろ?ならいいじゃんか」
「よくねぇよ、周りからの視線で胃に穴が空くわ」
はぁとため息をつくが、藍川はケタケタ笑っている。こいつ後でしばく……
「あはは、だから言ったでしょ大神ー。絡まれるって」
「そうだが、まさかこんなに早いとは」
「ヒロくんに目をつけられたのが運の尽きだね、諦めて一緒にゴハン食べよう」
「そうするわ」
食べなから主に藍川と話をしていると……何故か天童がこちら見てくる。
なんだ?と思って視線を向けても、ふいっとそっぽを向かれる。
(なんなんだ?)
疑問に思いつつも昼食を食べ進め、賑やかな昼休みは終わった。
一日の授業を終えて帰ろうとした矢先に、急に雨が降ってきて俺は玄関口で途方にくれていた。
(傘持ってきてないし、最悪だ……)
天気予報は確認したのだが、あくまでも予報で確定ではない。
こういうことがあっても仕方ないか、と腹を括って走って帰ろうとすると、後ろから袖をつかまれた。
振り返って見ると「なにしてるんですか?」と呆れた表情の天童がいた。
「離せ、帰れないだろ」
「雨が降ってますけど?」
「見ればわかる。でも傘がないから走って帰る」
「風邪引いたらどうするんですか、もうすぐテストですよ?」
「あんたに関係ないだろ」
ていうかいい加減手を離せ。
下校しようとしている生徒がこっちをチラチラ見てきて非常に落ち着かない。
天童はそんな周りの様子を気にせず「はぁ」とため息をつき、鞄の中から折りたたみ傘を取り出して俺の方に持ってくる。
「これ、よかったら使って下さい」
「は?」
「もう一つ予備はありますので、ご心配なく」
いやいや、そもそもなんで傘持ってきてるだよ、しかも二つも。ちゃんと天気予報見た?晴れマークだったよね?
「もしも時に備えるのは当然です」
……俺の心を読んだかのように答える天童が普通に怖い。
「エスパー?」
「あなたが分かりやすいだけです」
「はいはい」
「全く……はい、どうぞ」
傘を押し付けられ、天童はもう一つ折りたたみ傘を開く。
「さ、帰りますよ」
「あぁ、気を付けてな、滑って転ぶなよ」
「……あなたも一緒に行くんですよ?」
「へ?」
……何言ってるんだこの天才は?
俺が天童と一緒に帰る?
…………そんなことしたら学校行けなくなるだろ、絶対クラスの男子にいじめられるし、新手の嫌がらせか?
「嫌だよ、お前といると目立つし」
「では、その傘を返して下さい」
「ほい」
言われた通りに傘を天童の方に向ける。
そして何故かジト目で睨まれた、明らかに不機嫌そう、俺なんかしたっけ?
記憶を探そうにも、そもそも天童と会話らしい会話をしてない。
本当に心当たりがなかっため、直接聞くことにする。
「なんでそんな不機嫌なんだ?」
「別に、不機嫌というわけでは……」
「じゃあなんでわざわざ俺に傘なんて貸すんだ?放っておけばよかっただろ」
「それは……」
こちらを見上げてくる彼女は困ったな瞳をしている、それから真っ直ぐこっちを見つめてくる。
「…………るぱい」
「ん?」
「……昨日のアップルパイ……美味しかった、です」
……えーっと、もしかしてそれを言うために?
嘘だろ?だとしたらどんだけ不器用なんだよ……
「それから……あの……」
「なんだ?」
「お母さんも食べて、とても気に入ったようでして……」
あー、なるほど。三人家族って言ってたし、皆食べられるように作りはしたが……
「なので今度作り方教えて下さい」
「……………はい?」
彼女の衝撃的すぎる提案に、俺は開いた口が塞がらなかった。




