出会いと始まり
――俺は人付き合いが苦手だ。
幼稚園児の時、他のみんなが外で遊んでいる中、俺だけ本を読むか絵を描いているかだった。
「一緒に遊ぼう」と誘われたこともあったが、俺にはなにが面白いのか分からなかった。一人で何かしている方が楽しかったし、全て断っていた。
自分が他の子達とどこかズレているのはなんとなく分かっていたが、特に気にしなかった。
小学校、中学校もそれはほぼ変わらなかった。クラスのグループ活動や行事を最低限手伝ったくらいだ。
中学の時は部活に参加してたけど、高校ではやってない。
勉強は普段から予習と復習をしていればそれほど苦じゃなかったし成績はよかった方だと思う。高校受験もそこまで苦労しなかったし。
高校でもそれは変わらないだろうと大神御幸は思っていた…………あの日までは…………
――六月中旬。
授業の終わりの鐘がなり、教室にはこれから部活の人、帰りにどこかに寄るか話している人、楽しくおしゃべりしている人等々。
そんな中、俺は素早く帰り支度を済ませて教室を出て、入口で靴を履き替え、校門を出る。
「今日も穏やか一日だった。ホント、ボッチは楽でいいな」
そんなことを言いながら帰り道を歩いていき――ふと思い出した。
(そういえば、卵と牛乳切らしてたな)
今年高校生になった俺は、自立する予行練習としてマンションで一人暮らしをしている。
母さんは反対していたが、父さん曰く「そろそろ子離れしてくれないと困るからね」ということらしい。でも両親の仲が悪いわけではない、むしろ仲が良すぎて見ているこっちが恥ずかしいくらいだ。
「今日の広告は……おっ、卵安い。ラッキー」
スマホで広告を確認し、スーパーに向かう。
買い物を済ませて再び歩いていき、住んでいるマンション近くの公園を通ろうとしたとき、泣いている声が聞こえた。
声の方に視線を向けると、木の前で女の子が泣いていた。木の上の方を見ると、帽子が枝に引っ掛かっていた。風で飛ばされたのかな?
「あの位置はとれないよな……」
俺は女の子に近づき屈んで視線を合わせて、優しく話しかける。
「あの帽子は君の?」
「う、うん」
「分かった。取ってくるから少し待っててね」
俺は買い物袋と鞄を下ろし、木に登って数秒で帽子のある枝まで到達した。
「ふぁぁ……」
女の子が驚いたような声を漏らしていた……運動不足にならない程度に筋トレしといてよかった。
帽子を取って木から降りた俺は帽子を女の子に被せた。
「はい、どうぞ。次は飛ばされないようにね」
「うん!ありがとう、お兄さん!」
「どういたしまして。それじゃあ俺はもう行くから、気を付けて帰るんだよ」
買い物袋と鞄を持ち、手を振る女の子に手を振り返して、公園を出ようとしたとき一人の女生徒と目が合った。
艶のある長い栗色の髪に、小柄でとても整った顔立ちに大きな瞳。まるで人形のような美しさを持った少女だ。
(うちと同じ制服だよな、クラスは違うけど確か名前は…………まぁいいや。向こうも俺のこと知らないだろうしスルーしよう)
少女を無視して帰ろうとしたとき――
「待ってください」
なぜか話しかけられた。いやホントなんで?
「なに?」
「大神さんですよね、同じ高校の」
「そうだけど、なにか用?」
少し面倒くさい感じを出しながら、聞き返した。
「いえ特にこれといった用はありません。ただ、普段の学校のイメージと真逆の行動をしていたので少し驚いただけです」
「あっそ。じゃあ俺はこれで」
けっこう失礼なことを言われた気がするが、適当に流して歩きだす。
スタスタ。
スタスタ。
スタスタ。
スタスタ。
……なんか着いてくるんですけど。
「……君の家こっちなの?」
「はい、ここは普段通っている道なので」
「ふーん」
――はい、会話終了です。
ていうか俺はまず名前を思い出すところからだな、えーと彼女の名前……名前……あっ。
「天童」
「はい?」
そうだ、俺の呟きに反応したこの美少女の名前は天童真白。俺が通っている高校で男子にはもちろん、女子から人気のある学校一の美少女だ。
容姿端麗。文武両道。才色兼備。
噂では入学から今まで数十人の男子から告白され全て断っていたとか、後クラスの男子達が「天童さんマジ天使。スゲー可愛い」って騒いでた気がする。
「あぁ、悪い。君の名前さっき思い出して……」
「え?……今まで私が誰なのか分からなかったんですか?」
……これはまずい、怒らせたかも……
「いや、その、あっ!俺の家ここだから。それじゃあな、天童!」
「え?ちょっ――」
俺は逃げるようにマンションのエントランスに向かった。ここはオートロック式なので部外者は入ってこれない。セキュリティは万全なのである。
家に帰ってきた俺は、制服から着替えて、買った物を冷蔵庫に入れてリビングで寛いでいた。
(思わず逃げて来ちゃったけど……やっぱまずいよな)
同学年の、しかもその中で一番の人気者の名前を思い出せなかったのだ。
天童だって自分に人気があるのは分かっているだろうし、容姿についても他の人より整っているというは自覚はあるはずだ。はぁ…………
「今度会ったらちゃんと謝ろう」
とはいえ、学校で俺みたいな陰キャと話していたら絶対目立つし、天童にも迷惑がかかるだろう。マジでどうしよう。
「まあ、それは明日考えるとして夕食の支度しますか」
今回の件を謝ってしまえば、天童ともこれっきりだろう。クラスも違うし、用事がない限り話しかけることない。
そして俺はまた静かなボッチライフを満喫する。…………はずだった。




