勇者パーティのお約束
いわゆる、僕の能力である、ステータスとか言うものを、勇者のコウタとかいう人が見てから、その人は固まった。名前からして、ある疑惑が浮上したけれど、僕には関係ないから、これは放っておこう。確かに情報は欲しいけれど、あんまり関わりたくないかも……。
「ふっ……2人とも、出来るだけ命を落とさないように、全力でやるぞ」
「なに? そんな強いやつなのか? 魔王以上か?」
「魔王以上だ。つ~か、なにこのステータス。お前何者? なぁ、何だよお前……」
「文句を言われましてもね」
もしかして、見られたくないものまで見られたかな。僕の家系に関するものとか……。
「ステータス……というか、全パラメーター無限って……おい。せめて9999にしとけよ」
地味に文句を言い出した。勇者の風貌台無しだよ。僕は興味ないし、どうでも良いんだけど。
それより、数値に出ないってことは、僕にはその能力が適用されていないって事が分かっていないのかな……分かっていないんだろうね。
「それで、なにこの固有スキル。『イザナギの器』と『イザナミの器』とか『陰陽超越者』とかさ。いや……これって、君も転生者か?」
やっぱり見られていたか。それは見えるという事は、適用されてはいるって事? よく分からない。
とにかく、どうも自分の能力が怪しいと思っていたけれど、見事に向こうで仕込まれていたね。
とにかく、彼の問いかけには答えておこうか。戦闘しなくて済むかも知れない。
「あぁ、そういうことになるのかな? 僕は死んだかどうかも分からないけれど」
「はは……マジかよ。いや、それでも勝つのは俺だ」
「え? 戦うの? 同じ日本人っぽいしさ、戦う必要なんて――」
「君には無くても、俺にはある」
そう言って彼は、何も無いところから二本の剣を取り出した。どこに片付けていたのやらだけれど、それもあんまり考えたらいけないかも。
「勇者として、戦わないなんて選択肢取ると、人々から幻滅される。そしたら、住むところも無くなっちまう」
「あらら……何とも険しい人生を歩んでますね」
「その代わり、俺は常勝さ。だから――」
この戦いでも勝てるって言うんだろうね。確かに、あり得ないチート能力を持ってそうだ。僕も大概だけれど、それでも戦いを選ぶなら、勝てる程のチートを持っているということ。
それはとても面倒くさい。僕としては――
逃げたい。
「――――タァァア!!」
そんな時、屋根の上から、別の女性の声が聞こえてくる。
「コウタァァアア!!」
それと同時に、僕に向かってくる上に、着地と同時に爆発した。
「うぎゃっ!! ったぁ……なにこれ?!」
どんな攻撃をしてくるんだろう……なんて奇天烈な人なんだ、と思っていたら、煙の中から、赤いツインテールをした、貧乳美脚の少女が立っていた。
短パンで、装飾のされたシャツ一枚とか、お洒落はあんまり興味ないって感じの子でした。
「ちょっとコウタ! 私を放って作戦に出るなんて、なに考えているの!」
「いや、ごめんごめん。他国の王女である君に、これ以上の戦いは――」
「魔王を倒したからって、私を仲間はずれにするのは止めてよ!」
しかしちょっと待ってよ。
魔王を倒したって、つい最近の事のように言うけれど、獣人や亜人が魔の者、つまり魔王と手を組んでいた時から、何十年と時間が経っているのなら、彼等の発言にはズレが生じる……いや、戦いの最中に、獣人と亜人が魔王から手を引いた線……それがあったね。
「分かったかしら、コウタ!? 別に、あんたが心配だからじゃなくて――」
「分かっているよ。心配してくれてありがとう、ミーア。戦いはこれからも続きそうだから、今度からはちゃんと起こすよ」
「んなっ、なな……! ん、まぁ、それなら良いけど。って、あんた私の寝顔見たの?!」
「気持ち良さそうにヨダレ垂らしてたね」
「忘れなさ~い!!」
顔を真っ赤にしてコウタって人に飛び付いてる。見事なツンデレ。
ところで、この茶番いつまで続くの……。
「コウタ。彼女はそれでも、君に好感を持っている。誇れ。それこそ、君の強さだろう」
「マリータさん。そうですね。ありがとうございます」
また誰か出た。
王都兵と同じような、重そうな甲冑の鎧だけれど、太ももや腕は露出させているし、何なら胸元もビキニマーマーじゃないですか。しかも巨乳以上の爆乳。そして金髪のポニーテールですか。
「さて、微力ながら私も手伝おう。私も、君の事は買っているからな。さぁ、あの亜人を捕まえるか、殺せとの命令だ。心してかかれ。同じ人型と言って、油断はするな」
そして、まるで僕が悪者みたいな展開。好きにして貰ったら良いけれど、このままだと双子キャラとかも出そう。
「コウタ様! サティーナお姉さまと一緒に、この辺りに結界を張りましたので、存分に戦ってください」
「ルティーナいくわよ!」
「はい!」
出~た~って、脱力している場合じゃないけれど、何だかまだ続きそうだから、建物の壁に寄りかかって、ちょっと休憩しておきますね。
「皆……結局」
「ふふ、皆コウタを好きなんです。だから、心配しているんです。私は、そんなコウタを――」
「ありがとう、リムル。力が湧いてくる。よ~し」
ちょっと眠くなってきました。そういえば、あの鍋パの続きは見られるかな。ただ、うとうとしてきたというのに、もう終わりそう。
「俺は負ける訳にはいかないんだ。そう――ナンカヨクキクハナシヲウンタラカンタラ。それに、俺の為に散った――イチオウソレナリニクキョウヲダッシテイルハナショウヲコチョウシテタラタラ――だ。だから俺は――って、聞いてるか!?」
「うわぉっ!! あぁ、ん~終わった?」
全く興味なかったから、全部右から左に聞き流しちゃったよ。でも、自慢している君が悪い。
「な、なにこいつ……こんな状態で良くうとうと出来るわね」
それは、まぁ……こんな所で死ぬような予感は一切してないから。だからなのかな、こんな状況でも、とりあえずこの先でのんびりすることしか考えてない。
「お前……俺の話を聞き流したな。まぁ良い、後でLOGを確認しておくんだ」
「なんの話ですか?」
「いや、アプリでもあるだろう。会話とか、聞き流してもLOGで確認出来るから」
「いや、だから……これ現実……」
何だか、ゲームとこの現実をごっちゃにされている。頭大丈夫かな……。
向こうは戦闘態勢だけれど、こっちもこっちでこの国から出ないといけない理由があるから、この人達にはここから離れて貰おうか。
「さて、前口上はこんなもので良いか。主人公っぽくな。そして、これで終わり!! 神の威光よ、その道を照らせ! 王の神道!」
「ヒョイッと」
なんだか当て字のような必殺技を放たれた上に、双剣をクロスして、前に切り払うようにして、大きな衝撃波を放って来ました。軽く避けておいたけれど、なんかまた呟いている。
「連撃、防御無視、一定時間威力10倍、状態異常【威光】付加、技後硬直無効、回避付加、衝撃湾曲。行け!」
「私がパラメーター強化と、常時回復魔法をかけます!」
「俺は補助だな」
「その隙に、私と王都兵で切り込む!」
そのあとはツインテールの子と、トドメ……って感じかな。避けたはずなのに、衝撃波が留まっている上に、こっちに向けて曲がって来たからね。
イメージすれば、なんでもその通りになるけれど、さてこの場合どうなるのかな。
「ん~っと」
「……はっ!?」
「えっ?!」
「ちょっ、嘘だろう……これは、不味い!」
意外と上手くいった。
どうやら僕の能力は、君達のチート能力の世界には適用されていない、全く別物という扱いになるようだね。
そもそもコレ、こっちの世界のモノじゃないかも知れないから。
そして僕は、相手が放った衝撃波を操って、大きな大剣を作り、そのまま辺り一面を崩壊させる程の威力を叩き込んだ。
あれだけのチート能力があるなら、無傷なんじゃないかな――と思っていたら、土煙の中で、勇者のパーティが立っていました。
皆で全力で防いで、港に被害が出ないようにしたんですね。そこは僕もちゃんと考えているので、港にはダメージがいかないように、君の技をいじっておいていたんだよ。
「別に防がなくても……単純に音と衝撃だけの、脅しのようなものに変化させてるから」
「……そうですか」
ドヤ顔だったところ申し訳ないね。ただ、これで何をしても、僕には勝てない事が分かったはず。だから、ここから退いて欲しい。
「あのね、僕は君達の冒険の邪魔はしないし、何ならその魔王とやらも知りません。魔の者とかなんの事? ってレベルだからさ、放っておいてくれませんか?」
そう言ったのに、彼等はまだ敵意の目を向けるのを止めない。
何でそこまでして、僕みたいな亜人や獣人を毛嫌いするのか、逆に知りたくなってしまったよ。