遂に登場、勇者御一行
「えへ、えへへ。サクラ様におかれましては――」
「あ~鬱陶しいですよ」
「はい! すいません! 口を断ち切ってきます!」
「それもする必要ない! 君のその、両方に良い顔をしようとする態度が、良くないって言ってるの」
結局元の鞘と言うか、僕に抵抗したと思ったら、一瞬で元に戻りました。
この一時間弱のドタバタは何でしょうね……。
ただ、鉱石士達の顔色はあんまり良くない。
「やっぱり、この国からは出た方が良いかな」
「そ、そうですね……やはり、例の教会と王都兵達が、あなたを捕獲しに、何度も何度も来るでしょうし」
彼等には、僕の力の根源を教えていないから、教えてやれば、今の町長みたいになるかも知れない。
そして、この国ごと差し出すかな。そうしたら、僕は一国の王で、自堕落した生活が――っと、駄目だ。国政とかなんかしないと、国が維持できない。自堕落どころじゃないや。国が滅びる。
「仕方ない。こんな失敗はしないようにしよう。良いことを勉強しました。それじゃあ行くよ、ルドルフ君」
「ん? 俺も行って良いのか?」
「…………あ」
あまりにもずっと引っ付いているから、当たり前のように連れて行こうとしちゃった。
「そうかそうか。そうだな、加護がないにしても、相当強力な力の持ち主だと分かった。それなら、君と居た方が、俺の目的も達せられそうだ。というか、そうだな……俺の国に来ないか?」
「君の国? ワンちゃんの国?」
「獣人王が治める国だ。人間も居る」
「ふ~ん、住みやすい?」
「気候は一定だな。住みやすいと言って、永住する者も居る」
「そっかそっか~なるほど~」
永住する人も居るくらいなら、そんなに悪い国じゃなさそうだね。何より、紳士で聖なる戦士のような育ちをした、このルドルフの故郷なら、同じような沢山居そうだね。
「よし、分かった。君の国に案内してくれる?」
「分かった。それじゃあ、出立の用意をしよう」
そう言ってくるルドルフが、やけに嬉しそうな顔をしたけれど、友達を故郷に呼べたから、嬉しいのかな。何だかちょっと違うような……まぁ、良いか。
「サクラさん。家は残していってくれ。いつかここを、君の別荘地として使って貰えるように、しっかりした国にしてみせる」
「ん~分かった。町長もまともにさせてね」
「もちろんだ」
その言葉を聞いても、未だにヘラヘラしてる町長を見て、ちょっと先行きが不安になりました。
それでも鉱石士達は、僕との別れを惜しむことなく、前向きな返答をしてくる。それなら、しばらくはこの家を残していても良いかもしれないね。涼しくて住みやすいからね、ここは。
とにかく、今度はルドルフの国へと行くことになったけれど、どうやって行けば良いんだろうね。
「それで、ルドルフ君の国へはどうやって?」
「船だな。と言っても、ここは獣人や亜人を嫌う国。定期船はない」
定期船は無いって、ハッキリと言っちゃった。それじゃあ、ルドルフはどうやってこの国へ来たのかな。
「君はどうやってこの国に?」
「嫌ってるのは、教会と王都兵。来る時は、まだ先行きが不透明で、貧しかったろ? 金をちらつかせれば――」
「こっそりと船を出してくれると……なるほどね」
それならそうと、最初に言って欲しいものだ。これでルドルフの国へは、問題なく行けるわけだ。
準備をしたら、早速出発しよう。
◇ ◇ ◇
鉱石士達と、ナティアに別れを告げ、僕とルドルフは港へとやって来た。ナティアは着いて来たがっていたけれど、両親の許可が貰えなくて、泣く泣く別れる事になった。
僕のあの家の管理もあるし、心を許してくれている人が、1人でも残ってくれた方が助かるよ。彼女には僕の留守の間、あの家の管理をお願いしておいた。
そして、港でその船を探すんだけれど、ここで問題が発生した。
なんと、港が王都兵達で溢れかえっていた。しかも、検問のような事までしている。
「あ~あ……これって完全に、僕達を逃がさない為に……」
「そうなるな。さて、どうする?」
「なんで僕に振るの?」
「そりゃ、俺が戦っても良いが、あの数だと厳しい。加えて、このままだとこの国が、俺の国に宣戦布告をしてくる可能性もある」
そこで、どの国にも属していない僕がやれば、国と国の戦争は避けられる……と。ルドルフも策士だけれど、1つ問題はある。
「僕が暴れた後、君達の国に行っているとバレたら、やっぱり戦争にならない?」
「その時は知らぬ存ぜぬだ」
それが通じる間は良いだろうけれど、通じなくなったら――その時に考えよう。今はそんな先まで考えてもしょうがないし、その時はまた別の国に行けば……ってなると、その国にまた迷惑がかかるっぽいね。
う~ん……面倒くさい。それならいっそ――
「僕の邪魔するその教会、潰しとこうかな……」
「それも手だが、残念な事に、ここはその教会の支部だ」
「嘘!?」
ということは、ここを潰したら、余計に教会を怒らせて、本部が動いてしまうことになる。いや、もう既に本部が動いている可能性もある。
「あ~もう、本部はどこ?」
「ある島だな。ただそこは、潮の流れが急で、教会の関係者しか辿り着けない」
「つまり、何かしらの女神の加護ですね」
「その通り」
厄介な人達だ……正にラスボス級。しつこさもね。
「それじゃあ、この場は――」
「何とか突破して、俺がやって来た船を奪取するしかないな」
ルドルフと建物の影に隠れながら、現状の確認をした。
もう色々と考えても仕方がないなら、強引に突破させて貰うよ。どっちにしても、ここは突破しないといけないし、僕が行かないといけない。
「船はどこ?」
「ん? あ~隠されてるな。場所も移動されてる。君の力でコッソリと船を浮かせ、誰もいない所で降ろし、一気に駆け抜けて乗り込むは、通用しないな」
「何で分かってるの、ルドルフ君」
「そりゃ、ここしばらく君を見ていたら分かる」
もうそうなると、もう王都兵を蹴散らしてしまうしか、手は無いじゃないですか。嫌だぁ、面倒くさい。働きたくない。でも、やらないと進まない……。
仕方ない、ルドルフの国に着いたら、1ヶ月以上は自堕落させて貰おう。
「はぁ、分かった、分かりました」
そして、何気に嬉しそうなルドルフを置いて、僕は建物の陰から出て、一応兵士達に忠告をしておく。
「むっ? 現れた! 狐の亜人だ! 囲め!」
「あ~ストップして下さい。君達を痛めつけるつもりはないです。武器を捨てて、大人しく僕達をこの国から出して下さい。別に君達に危害は――」
「ほざけ、お前等は存在するだけで悪。存在するだけで恐怖。よって、存在するだけで危害を加えるのだ!」
むちゃくちゃな理論だ。そしてやっぱり、説得は無理。というか、今叫びながら言ったのは誰だろう。とてつもなく響く声だった。
「この俺、王都兵一の怪力、豪腕のシュド――」
「わ~おっきい身体。ちょっと君は邪魔です」
「――ザッパぁぁあ~~~!!!!」
地面を盛り上げて、大きな巨人のような手にして、そいつをデコピンして吹き飛ばした。遥か彼方にね。
吹き飛びながら名乗るとか、流石は王都兵だね。ぶれない精神さすがです。ちょっと違うか。
それにしても、こういうのは何だか卑怯な気がするな。自分が戦う事も出来るだろうけれど、戦闘経験皆無だし、相手は剣とか槍とか、こん棒とか弓とか、大鎌とか大剣とか、双剣とか――って、武器のレパートリー凄くない?! それ主人公サイドじゃん。
いったい、どうなって――
「シュドはいつも油断しているからなぁ。あぁ、後で転移して戻るだろうし、今は目の前の敵に集中しようか」
「コウタ。油断は禁物です。あの亜人、強いですよ」
「分かっているよ、リムル。だけど、俺は無理しないさ。危なくなったら逃げるのも、戦略の1つさ」
「流石ですね。それならば、私達もしっかりと援護をしよう」
「頼むよ、クーザ」
おかしいと思っていると、僕の目の前に、ちょっと信じられない3人組が現れた。
1人は、どこにでも居そうなと言ったらあれだけど、特徴がない顔つきで、黒髪のセミロングをした青年、1人は水色のロングヘアーで、白を基調としたヒラヒラのスカートと、装飾が綺麗なローブのような服を着た女性、そしてもう1人は、知的な雰囲気の、メガネをかけた金髪の男性。
なにこの、見たことのあるような典型的なメンバーは……そう、言ってしまったら――
「おぉ、魔の者達の王。魔王を倒した、勇者コウタ様だ!」
「いやいや、僕は特に何も。仲間に恵まれていたからね」
うん、勇者パーティだ。まさかの、そっち側に勇者が居るなんて……しかも、王都兵達と仲が良いってのも、色々と引っ掛かるな。本当に勇者なのか、怪しい。
だけど、この手の勇者パーティって……つまり。
「さて、サーチ&ステータスオープン」
出た、謎のステータスオープン。それどうやってるの……。
「…………」
だけど、その勇者コウタという人は、その目の前に現れた透明な板を確認した瞬間、青ざめて身体を震わせていた。
そうだね……こっちも大概だからねぇ。
さて、この人はどう出るんだろう。それ次第だ。