僕の力の正体
騒ぎを聞き付けた訳ではない。何の目的でここに来たかは分からないが、フルフェイスの甲冑の集団が、この山の麓にやって来た。
「近頃景気が良さそうで、様子を見に来てやった。掘ってるか~? ん~? ようやく、我が国の問題が解決されそうだ」
「…………」
王都兵の登場で、何とも気まずい空気が流れている。というのも――
「そうそう、この山を牛耳っていた竜を、何者かが追っ払ってくれたようだな。礼を言わねばな。誰だ? ん?」
あの髭面のオッサンとは違うが、痩せ細った男性が前に出て来て、鉱石士達を見ている。
甲冑は着ているけれど、特注なのか、何だか軽そう。あの細身じゃあ、ちゃんとした甲冑は着られなさそうだけど……。
というか、僕達が見えていない? いや、意図して見てないや。それなら、今の内に逃げちゃおうか。
それにしても……鉱石士さん達、何か言ってくださいよ。いつまでも沈黙は不味いって……。
そりゃ、ここの人達は僕達を迫害しなかった。それ即ち、教会の信念とやらは、一般の人達には浸透していないということ。
教会の理念を追及しているのは、教会の信者と教祖、そして王都兵だけだ。
「んん~? もしかしてもなく、もしかしてもだがぁ? 視界の端にチョロチョロ映る、クッサイ猛獣どもがやったのかぁ? さっきの魔女もかぁ?」
魔女が襲っていたのも見えていたのか。それなのに助けに入らず、高みの見物。ここが壊滅したらどうしたんでしょうね。
「噂通りの屑だな。こんな考えの国は、他に見ないほどだ」
「お褒めの言葉どうもありがとう。獣君。というか、会話すらしたくないのだがね」
「どんな神経してやがる」
「それは私が言いたい。他の国々こそ、どんな神経してやがる。魔の者と組んだ奴等を許し、共存するなど、断じてあり得ん!! 貴様等は、今でも繋がっているのだろう! 私達は、未だ勇敢に戦い続けているのだよ!!」
「本当に、一昔前の頭してやがる。仕方ねぇ、サクラ。ここはもう捨て――」
「ん~むにゃむにゃ。あ、その鶏肉育ててたの、取るな~」
「なに寝てやがんだ!!」
「うきゃっ!! あっ、うぇ? あ~終わった?」
いけないいけない、寝てしまった。軽く鍋パーティーやってる夢見ちゃった。鍋パ……やりたいなぁ。鶏肉、食べられなかった。
というか、尻尾を思い切り引っ張られた。あとでルドルフ君のも引っ張っておくか。
それよりも、鶏肉は居るね、鶏肉。
何か人の部分もあるけれど、腕とか……いや、手羽先になるからちょっと違う料理に――
「命の危険!!!!」
「あ、目が覚めた! ちょっと、鍋パの続きしたいから、少しだけ齧らせて! 食べないから!」
「食べると齧ると一緒です~!!」
例の鳥の女性が飛んで逃げたから、その背中に飛び付いて、必死に説得しているけれど、涙目になって僕を振り落とそうとしてくる。
「お前等なにやってんだ!!」
「鍋パ、鍋パです!!」
「なんだそれは!?」
今の僕は食欲の塊だ。他の事なんて頭に無いですよ~だ。
「何をしているのかね……とにかく、とっとと焼き落として――」
焼くのはダメだ。お鍋にしないと、いやそもそも、鶏肉の部分が無いよね、この子。ちょっと残念だけれど、別の――
「ひぃぃぃい!! もう勘弁して下さい~!!」
「あっ……!?」
しまった、急上昇をされたから、背中に掴まりきれなくて、落ち――
「お前等! 加護の展開を急げ~そして――へっ?」
クッションなんて、下にあるわけないから、かなりの衝撃と痛みを覚悟した……けれど。
「ぎゃぁぁあっ!!!!」
「あだっ!!」
何か細くて固いものの上に落ちて、僕はちょっとの衝撃と痛みで済みました。ちょっとたんこぶ出来たかな? 大ケガしなくて良かったけれど……って、今僕は誰の上に落ちたんだ? まさか……。
「ぶ、部隊長!!」
あ~例の細身の王都兵さんの上に落ちちゃった。というか、部隊長さんですか。この人もフルフェイスじゃなかったし、それなりに偉い人かと思ってたら、少しだけ偉い人だった。
「はっはっはっはっ! 何て所に落ちてるんだ。お前、わざとか?」
「違います、ルドルフ君。ちょっと寝ぼけてました」
あんな一瞬で、良く寝ぼけられるなって思うだろうけれど、寝付くと先ず夢を見る僕は、時々仮眠とかで、夢と現実がごっちゃになることがあるのです。さっきのはそれです。
それよりも、あのハーピーさんには悪いことしちゃったよ。謝らないと……って、何処かに飛んで逃げていっちゃった。
「くそっ、良くも部隊長を!!」
「定番の台詞の前に、撤退を考えたら?」
部隊長が居ないと、統率が取りづらくなるだろうし、何よりこうやって、所々に転がる岩を使って、沢山の槍と剣を作り、それを突きつけたら、もうどうにも出来ないですよね。
「あのね。僕の自堕落な生活の邪魔するなら――」
その後は、少し殺気を込めて僕は言う。ちょっとくらい脅さないと、この人達しつこそうだからね。
「――潰すよ」
「「「「「ひぃぃぃいい!!!」」」」」
「撤退だ、撤退しろぉ!!」
よっぽど怖かったのか、残った王都兵達は、その部隊長を抱えて一目散に逃げていきました。
「良い殺気だったな」
「……僕、そんなに殺気込めてないよ」
なんだか不愉快です。僕はそんなに怖くはないはず。
ただ何だろう……僕の中の何かが、少しざわついたような気がするけれど、きっと気のせいだね。
「それより、ここで生活し辛くなってきたよ。どうしよう……」
今はとにかく、先の事だよね。
ここに僕が居ると認識されてしまった以上、留まるのにも限界がある。それなら、とっとと移動しないと。
鉱石士さん達はガッカリしているし、市長も恐らくガッカリしているだろうね。
そんな中、1人の鉱石士が僕に近付いて来た。
「あ~その……だ。なんか、悪い感じになっちまったが、俺達はあんたらを迫害はしねぇ……が、多分あの町長だ」
「何ですって?」
何だか嫌な言葉を聞いたけれど、市長がなんだって? まさかだけれど、僕が加護を与えない、もしくは与えられないかも知れないと知って、教会に忠誠を? それとも、両方に良い顔をして、美味しい所だけ掠め取ろうとしてた? あの話し方だと、後者だ。
僕の、一番嫌いな人種。
だからって、報復とかなんとかする気はないです。早く移動を――
「王都兵でも駄目でしたか……いやぁ、しかしねぇ、君のその力は必要なんです。うん、必要。だから、大人しくしていてくれますか?」
「…………え?」
いったい、何が起こったのだろう。
気が付くと周りの鉱石士達が、仕事道具のつるはしやシャベルを持ち、腕の太さが2倍程に盛り上がっていた。
そして、僕とルドルフを囲み、その道具を突き付けている。その後ろには、町長が立っていた。
「すまない。迫害はしねぇ……しねぇんだが、俺達は町長に逆らえねぇんだ。全員、町長に貸しがあってな……無理なんだ、町長の言葉は絶対で……!」
苦しそうな表情で、僕達を睨み付けている。苦しいなら止めれば良いのに。生活がかかっているからとか、色々とあるんだろうね。
さて、困った。こうなると、どう動いたって僕達が不利になりそうだよ。
「ルドルフ君、どうするの?」
「自堕落にしていたから、こうなるんだろう」
「むぅ……自堕落こそ、人が求める究極の癒しでしょう。こんなに無理して頑張って生活して、その先に何があるんですか?」
「……自分の求める、理想の人生。だな」
「そうですか。それなら、自堕落に生きるのは、僕の理想の人生です。第2の人生かな?」
「そうか。なら、これ以上の言い合いは意味がないな」
「その通り」
ちなみにこの間、町長も周りの鉱石士達も、目の前で起きた僕達の言い合いに、呆然としていました。
「もう良いのか? さて、サクラさん。大人しく、私達に加護を……というのは無理なのでしょうかね?」
その前に、1つ質問をしておこう。
「あのさ、他の女神達にも、こうやって無理やり脅して、加護を与えさせているんですか?」
「さぁ、分かりません。しかし、この国のもう一体の女神は、捕らえられていると聞いています。君の想像通りではないでしょうか?」
「そうですか」
この世界で産まれた訳じゃない僕は、それに対して何かを感じたりはなかった。
ただ、この先女神が僕の敵になるのかどうかを、ハッキリさせたかったんだ。この国は、どうやら違うようだ。
それならやっぱり、この国は自堕落に生きるのに、適していたかもしれない。もったないことをしたかなぁ。もう少し、敵対勢力を詰めれば良かった。
そして僕は、ゆっくりと前に歩き、鉱石士達に近付きます。
「ちょっ……サクラさ――」
「退いて。死にたくなかったらね」
「ひっ……」
僕の万能の力、イメージ通りに何でも出来る力。それともう1つ、さっきからザワザワと心の奥で燃えている、黒い邪な感じの力。
実は僕は、この力に関して少しだけ、思い当たる節があった。
「サクラ。君は……君はいったい……」
「ごめんなさい、ルドルフ君。僕ちょっと、嘘つきました。僕のこの力の正体に、思い当たる節があるんです。ただ、可能性としてはあり得ないと思っていたんだ。自分にそんなものが……なんて、思ってなかった。だけど――」
その瞬間、僕は町長だけを吹き飛ばし、上空へと持ち上げた。地面から生やした、黒い腕でね。
「――――あがっ」
そんなのを目にしたら、鉱石士達も何も出来ないよね。だから、思わず僕から距離を取るのも、仕方ないよ。
町長が小さく呻き声を上げて、何が起こったのか理解すると、体を震わしながら叫んだ。
「ま、待ちたまえ! なぜこんな……私はただ、あなたに協力的に、加護を与えて貰おうと――」
「力ずくでやるものじゃないでしょう? あなたの価値観、いや……この世界のトップの人達の価値観は、おかしいよ。それとね、本当に僕の加護が欲しいの? 手にしたら最後、闇に堕ちるかもね」
そして僕は、地面から黒い女性の影を出現させる。町長を掴んでいる、黒い腕の正体を、皆に晒した。
「僕はね、違う世界で、2つの創世者の魂を、この身体に降ろされたらしいんだよね。だから僕は、君達の言う女神じゃない。もっと、別物さ」
あとはただ、彼等全員を睨み付けるようにして威圧すれば、相手の戦意は完全になくなる。
女神なんかじゃない、もっと上の存在の力だったんだと、そう分からせれてやれば、もう抵抗なんてしなくなる。
そのあとは、もう僕の考え通りで、全員その手の物を地面に落とした。