女神扱いは勘弁です
それから数日の間も、特に変わった事はなく。僕はのんびりのほほんと過ごさせて貰っていた。
鉱石士達が戻ったことで、その人達の居る街はまた栄え始めたらしく、近くこの山の麓に、もう一個村のようなものを作る計画が、開始された。
もう既に測量されてるし、僕の元に挨拶まで来た。
「やぁ、あなたがサクラ様ですか。私は、鉱石士達の街の町長で、グスタームと言います。それで今度――」
なんで偉い人は、皆ハゲ頭なんでしょう。しかも今回は、チビで太ってる。
いや、そうじゃない場合もあるけれど、2回連続でハゲ頭が出てきた。気になって話が耳に入りません。入れる気もないけど。
「ということで――ウンタラカンタラ――しかるのちに――ナンダカンダワケワカランハナシ――で、サクラ様には。サクラ様?」
「ふぁい! 何でしょう?」
いっけない、話し半分だった。横にルドルフも居るから、何とか補足してくれているけれど、危なかった。
ソファでぼうっとしていたらいけませんね。相手は慣れない椅子に戸惑っているけどね。
要するに、この町長さんの話では、この国は貧困が凄まじく、働けなくなった老人を養う余裕は無いらしい。それであんな横行が起こっていたのだが、国はまだそれを許可していなくて、だけど生活を補助する余裕もないから、山奥とか、森の方とか、人里から離れた所で、慎ましく生活して貰うしかなかった。
あんな横行をしているのは、例のルース教会の仕業らしくて、それも何とかしてしまった僕を、新たな女神として奉りたいらしい。
この辺りの建物は自由に使って良いけれど、もし加護を与えられるなら、鉱石士達に与えて欲しい。という条件を出された。
と言われても、僕自身その加護とやらをどうしたら与えられるか、まだ分からないんだよね。
それと、もしかしてだけど……。
「ルドルフ君が、ずっと僕の傍に居るのも、加護が目当てですか?」
「ギクッ」
ドンピシャだったみたいだ。そうなると、その女神の加護ってやつは、そう簡単には与えられないものなんじゃ……。
「察しの通りだ。女神の加護は、女神が認めた者しか与えられない。そして女神達は、国によって思考も価値観も違う。この国の女神は、当然ルース教会に牛耳られているので……」
「亜人や獣人には加護は与えない……ですか」
それと、ルース教会の信者や、あの王都兵くらいにしか加護を与えてなさそう。つまり、この辺りの人達も加護はないわけで、僕が女神と同等の存在だとして、加護を与えられるかも知れないとなると……頭を下げて媚びへつらうのも分かる。
ただその姿は、僕が社畜だった頃に死ぬほど見たし、死ぬほどやった。だから、あんまり気分が良いものじゃない。
「サクラ様にはどうか……」
「分かった、分かったからさ。その媚びへつらうの止めて。普通で良いから、普通で」
「いや、しかし……」
「普通で良いって言ってるの。僕とあなた達は対等。良いですか? 上も下もないです」
「なんと……謙虚な……分かりました」
好感度が若干上がってしまった。別に謙虚とかそんなじゃないんだけれど……説明しても理解されないし、止めておこう。
「それと僕はまだ、その加護の与え方が分からないんです。あともうひとつ。女神ってさ、国に2人も居て良いの?」
「ぬっ、それは……」
なんだかしかめっ面をしたね。つまり、女神が2人いると、良くない事になりそうなんだね。
「女神の縄張り争いとかは勘弁なんで、加護は限定的にしておいた方が良いかもね」
「なるほど……女神が1つの国に2人居たことなど、歴史上初めてですからね……分かりました」
町長さんは少し残念そうだったけれど、少なくともこの山の安全だけは確保されてるし、街の貧困や、国全体の貧困は改善されるんだよ。それだけでも良しとしないと、欲張ったらろくなことにならない。そう……ろくなことにね。
とにかく、女神とか面倒くさいことは勘弁だし、僕はのんびりと自堕落に過ごしたいんです。
「とりあえず、僕の生活の邪魔さえしなければ、何しても良いんで」
「やれやれ、君は全く……」
「何呆れているんですか、ルドルフ君。君も、いつまで僕の傍に居るんですか。早く強者を求めて旅立って下さい」
「いやいや、君の加護を受けるまでは――」
「上げません」
「厳しいな」
そもそも、本当に僕がその女神かなんて、確証はないでしょう。だから、まだこんな扱いをされても困るんだ。
「僕は女神じゃないかも知れないんだよ? 狐要素あるしさ」
「それじゃあ、あの万能の力はなんだというんだ?」
「僕も分からないってば」
これ以上言い合ってもしょうがないし、町長さんも困ってるね。これ以上話すことがないなら、一旦帰って貰わないとね。
そんな時、外から鉱石士さん達の悲鳴が聞こえてきた。
「魔女だ、また魔女が来たぞ~!!」
「またですか?!」
ちょっと頻繁過ぎないかな? そんなに魔女ってのは発生しやすいの? それとも、この場所がそうなってるとか? どっちにしても、こんなにポンポン現れたら邪魔ですね。
「全くもう……場所変えようかな?」
文句を言いながら外に出ると、竜巻のような風が辺りを舞っていた。その中心には、腕が猛禽類の羽根で、足も猛禽類の足になっている、険しい顔つきをした女性が飛んでいた。
「なにあれ……ハーピー?」
ゲームか何かで良く見る、定番のモンスターですね。
ただ、真っ黒な風を纏っていて、表情も影に覆われていて良く見えない。目だけは見えていて、鋭い視線を向けてくるから、顔つきが険しいと感じたよ。
「何故こんなに魔女が?」
「それは僕も知りたいよ、ルドルフ君。ここ、のんびり出来る場所だって言ったじゃん」
「おかしいな……こんなはずじゃ……」
どうやら、この事態はルドルフも予想外みたいだ。なおさら原因を探らないと、ここでは自堕落な生活なんて出来ません。
「ケキャキャキャキャ! 人間見――」
「それ、グルグル~っと。あとルドルフ君、これ何か原因があるのなら、とりあえず排除するか、ここ以外の場所を探します」
「こんな家を作ったのにか?」
「まぁ、戻せるので」
「――キキャァアアアア!!!!」
何か、空でけたたましい叫び声を上げているけれど、黒い風を纏おうと、操ってぶん回して叩き落として終わりです。
「ゲフン!!」
「相変わらず容赦ない……」
あとは、倒れて気絶したその魔女を、ルドルフの槍で元の人間に戻して上げれば終了だよね。
「ルドルフ君、あとはその槍で人間に戻して上げて」
「なっ! いつ気が付いていた?」
「そりゃ、最初から」
人間が魔女に変化しているのに、容赦なく刺したからね。僕は知らなかったし、下手したら……って感じだったけれど、ルドルフ君がそれだけは止めようとしていたし、その後にあんな事をしたらね、確定ですよ。
「そうか……そりゃそうか。こんな事したら、これがただの槍じゃないって分かるか」
そしてルドルフは、気絶した魔女ハーピーの足に、その例の槍を突き刺し、魔女を漂っている黒い影を晴らしていきます。
同時に、そのハーピーの顔付きが穏やかになっていき、普通のハーピーの女性になっていきました。
これで一応解決になるけれど、この現象を何とかしないと、ここでのんびりとは過ごせません。
鉱石士達は、今の僕達の行動を称えて、拍手喝采しているけれど、この様子だとまた魔女が来ますよ。お気楽にしていられないんだよ。
ただそうは言っても、黒いモノに触れたら魔女化するんだから、黒いモノに触れられる前に排除するって、それを探知出来ないと意味がない。
ちなみに、そんな能力は僕にもなかったし、この世界の人達にも無かったね。詰んでるよ。
「これはこれは鉱石士さん達。何か問題でも起きたのか?」
そんな中で、とても嫌な声が下から聞こえてきた。
この高圧的な言い方……ガシャガシャと歩く音は――
「ちっ、王都兵の奴等だ……」
やっぱり、王都兵でした。さて、逃げる準備をしましょうか。