無防備にしていたら駄目だった
夜遅く。ようやく帰ってきたルドルフに、俺は今日知ったことを伝えて詰めよった。
「ルドルフ! お前の母親、俺と同じように転生者だったんだな」
「あぁ、聞いたのか。そうだ。しかし、物心付いたときだから、あんまり覚えは――」
「や、その人がどうとかはどうでも良い。その人、何かやってなかったか?」
この国の生活を向上する事を、色々とやっていたようだから、手を付けて途中になっているものもあるはずだ。
「なるほど。ある程度は俺達でも理解が出来たから、引き継いで完成させたが、そうだな……でんわ、とやらはなかなか難しくて未だにな……」
「電話か……」
それはこの世界ではとても難しいな。
この世界、発電所とかないんだよ。蓄電の技術はあるから、この国に来た時に乗った、あんな船を作る事は可能なんだが、発電して電気を作ると言う方法が無い。
どっかの国の女神の加護が、雷を貯めておける加護らしく、それを特殊な水晶で貯めて、他の国に売っているらしい。そりゃウハウハだろうな。
ただ、雷が起こらないと電気を作れないから、天候に左右される。
こっちの世界では利用出来なかった雷を、こうも簡単に売買されていたから、そりゃ俺の知らない技術が出来てもおかしくはない。
しかし、常に電気を送り続けないといけない、電話による通話は、かなり難しいだろうな。出来たとしても、蓄電の電気が無くなると通話出来なくなるし、何より通信塔がいる。そこにも常に電気がいるしな……。
「母は、何とかしようと頭を抱えていたが、結局実現は出来ず、この世を去った――魔女化して、な」
「そっか。そこはどうでも良いし、ちょっとその人が書いていたものとか見せてくれる?」
「お前な……」
あんまりしんみりしたのは嫌だし、魔女化魔女化って、いい加減聞き飽きたぞ。こっちの世界の問題なら、君達が何とかしないといけないことだろう。
何でもかんでも僕に頼って……僕は何でも屋じゃないんだ。とりあえず、国民達に納得して貰わないと、自堕落した生活が出来ないからさ、何か結果を出しておかないと。
「ルドルフ君。魔女化や魔人化は、君達の世界の問題だよ。ちょっと多いけどさ……」
「そうだな……地帝まで魔人化するとは、思わなかった。本腰を入れて調査する」
魔人化は、男性が黒いモノに触れると起こると言うけれど、そうそうなるものじゃなく、女性に比べたら少ないと言われている。絶対じゃないけれど、地帝が魔人化なんて、普通では考えられないんだろう。
その原因なんて、僕には分からないし、僕に何か出来るわけでもない。僕は僕のやることやって、のんびり過ごす事を目指すんだ。
ルドルフから、彼の母の手記やら記録やらを浮け取り、ベッドに座ると、それに目を通す。
「う~ん、なるほどね。悪くはないけれど、やっぱり電気がなぁ」
大量に雷で電気を貯めて、節約しながら消費していく等、なかなか良い案があったけれど、求める理想の電話というか、通話出来る環境を作るのは、かなり難しいね。
というか、これなら発電所を作った方が早いけれど、女神の加護によって、色々と便利な生活をしている中、わざわざ大量のエネルギーを使って、雷よりも少ない電気を作るとか、理解はされないだろうね。
ただ、短いメッセージを送るくらいなら、可能かも知れない。それこそ、数字の組み合わせの……って、ポケベル解読時代の到来じゃないですか。僕もギリギリ知らないから、解読出来ないや。というか、それはそれで不便過ぎる。
「う~ん……やっぱり厳しいかぁ」
とりあえず、他に何か無いか見てみるけれど、残りは結構引き継いでいて、完成させているね。もう無かったよ。
「あ~もう。そう簡単にはいかないかぁ……って、ルドルフ君どうしたの?」
「お前な……わざとか? 風呂上がりの美少女が、乾かした直後のフワフワの尻尾を振って、チラチラと見えそうな胸ちらつかせて、足まで……ったく」
「……変態」
なんだかこの部屋落ち着くから、かなりリラックスしていたけれど、ベッドに寝転んで資料を見ていたら、無防備になっちゃっていたよ。
男友達の部屋に遊びに来たような感じで居たけれど、失敗したね。
今の僕は、短パンにノースリーブシャツというラフな格好で、あんまり意識してないと、色々と隙間から見えちゃう格好でした。とりあえず見えないように、衣服の乱れを整えたけれど、乱れているのはルドルフ君の性欲かも知れない。
そういえば、ルドルフは獣だから、発情期とかありそう……これは迂闊だったかな。
「……まさかルドルフ君。発情期とか……」
「それならまず部屋に居れねぇよ」
あるんですね……発情期あるんですね。気を付けよう。
「この国の生活を豊かにする案は、早々は出ないようだな」
「そうですね……くっそ~早く自堕落に生活したい。国民に認められたら、別に君と結婚しなくても――」
「なるほど。そんな考えでいたか。悪いが、そう簡単にはいかんぞ」
そう言うと、ルドルフは僕に覆い被さるようにして、僕の上にやって来た。いきなり貞操の危機……。
「俺が、お前を妃にするのを諦める事はないぞ。どんな事をしても、お前を妃にしてやる」
「うわっ、マザコン~」
ルドルフは、僕に母親の面影を重ねている。
性格も外見も似ても似つかないだろうけれど、異世界から来た人特有の、何かこの世界の人達とは違った雰囲気が、僕達にはあるんだろうね。
「マザコン……いや、俺は違うとは思うが。母親の愛情は、あんまり受けられなかったからな」
「ん~それにしても、ルドルフ君ってば、兄弟沢山居るし、その人良く頑張ったね」
とりあえずルドルフの下から瞬時に脱して、部屋の出入口に向かうと、ルドルフの兄弟について口にした。
「あぁ、全員弟だったからな。姉も1人居るが、見事に10人も男子を産んだから、この国の跡継ぎはしばらく問題ないと、国民も父も満足していたな」
「女性に対して、そういう認識の国はなぁ……」
「いや、仕方ないがな。王族はな」
そりゃ確かに、王族とかある国は、やっぱり跡取り問題が出るし、10人も跡取りが出来たら、他の人達は喜ぶよね。
だけど、そういえば僕ってば、その残り9人の弟達の、妃候補って人達を、一蹴しちゃったんだよ。恨まれているような気が……。
この部屋は危険だから、早く出ようと扉に手をかけようとしたけれど、扉の取っ手から変な物が見えたから、手を引っ込めた。
「ルドルフ君。もしかして、妃候補の中に、女神の加護を持ってる人、居る?」
「売買出来るものなら、皆持てるぞ。だから、妃候補は全員、何らかの女神の加護を持っているはずだ」
「最初に言って!」
良く今まで普通に生活出来ていたよ。メイド達の働きがあったからなのかな。扉の取っ手の陰に、刃物が隠されていて、回すと飛び出るようになっていた。
恐ろしい事に、僕の手を切り落としてくる気だ。
そこまでの事をしてくるなんて、その妃候補達はだいぶ過激ですね。
「何か仕込まれていたか。いや、仕方ない。父も父だ。あんな簡単に決めて……そりゃ質素だが、ここは温泉による利益が凄くて、質素ながらに財はある。それを、どこの馬の骨とも知らん奴に、掠め取られたらな」
殺意が湧くのは仕方ないって? それはどうかと思う。
だけど、また僕に対して面倒な火の粉が振りかかってきて、自堕落な生活から遠ざかっている。
それは駄目だ。何とかして、皆からも納得されて、悠々と自堕落な生活をするんだ。
いや、この国にこだわる必要はないけれど、温泉は魅力的だよね。温泉はね。自堕落な生活のランクが跳ね上がるよ。
絶対に、諦めてなるものか。




