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自堕落な生活の為に男を捨てられますか?

 それから、何とも言えない空気でルドルフの館へと着くと、あれよあれよという間に、大きな広間に通されてしまった。ちなみに、途中でルドルフとシーブさんはどこに行っちゃった。


 そういえば、ずっとルドルフが引っ付いていたから、居ないと居ないで何だか寂しいな。うん、ペットの犬としてね。


「そこそこの広さ。あぁ、ここで大人数で食事したりしてるのか」


 大きな長方形のテーブルが2つ並んでいて、今から食事会でもするのかと思ったら、案内役の人に連れられて、その部屋を通り抜けました。ここじゃないんだ……早とちりしちゃった。だって、お腹空いたからね。


 案内してくれている人は、普通の人間ですね。女性の、洋風の給仕服っぽいのを来ている人だね。メイド服……とは違うかな、何て言うんだろう……外国の給仕服って。


「さぁ、こちらです」


「あ、どうも」


 そして通された部屋は、ドレスルームだった。着替えろということですか。と言っても、意外とこの服気に入ってるんだって。

 どれもドレスみたいなやつだし、狐娘の僕には似合わないよ。そもそも動きづらそう。


「……それではこちらへ」


「……なんで案内したの?」


 給仕の人も困った顔をして、何かを思い出したと思ったら、またそそくさと別の所に案内し出したよ。今のはなに。


「申し訳ありません。次々とやってくる、王子達の妃候補に、あれやこれやと注文付けられ、着替えをやっていたもので、つい……」


 あ~そういうのあるね。あんまり同じことやってると、それが癖になって同じことしちゃうよね。習慣って怖いよね。


 それにしても、次々とやって来るって……嫌な予感がする。


 そして、次に案内されたのは、さっきの広間と同じくらいの広さの部屋で、ローテブルに皮のソファが置いてあった。

 あれ? ルドルフはソファを知らなかった。それなのに、ソファが置いてある。見たことあるソファが……どういうことだろう。


「父上、どうですか。このそふぁと言うものは」


「ほぉ、ほぉぉぉ。これはこれは、いつもは質素な木の机と、質素な木の椅子だったが、これは……うむ、素晴らしい」


「何やってるの? ルドルフ君」


「あぁ、来たか。と、服はそうなるか。一番似合っているからな」


「誉めても何も出ません。それより、これはどういうこと?」


 確かに、そのお父さんらしき、威厳のありそうな狼の獣人さんは、ソファに満足そうにしているけれど、普段使っているであろう、テーブルと椅子は、なんかどこにでもあるような、とても質素なものだった。つまり、この獣人が獣人王。


 そういえば、大人数で食事が出来そうな所も、細くて鉄っぽいもので支えられているだけの、何か粗末なテーブルだったかな。椅子も、パイプ椅子かと間違うほどの、安っぽそうな椅子だったよ。


「俺達はな、座って食事が出来、睡眠が出来れば十分でな。こういうものに、装飾や心地よさを求めた事はなかった」


「あぁ……うん」


 獣っぽさが残っているんだろうね。それでも、人間達もいるんだから、その辺りの技術は入って――ってそういえば、街の方も、その家の種類がまちまちで、割りと装飾があって、住みやすそうな家もあった。

 なんか、とりあえず雨風防げれば良いやって感じの家もあったし、統一されてなかったね。


「父上。彼女なら、この国に『快適な生活』というものを、我々に与えてくれると思います。それに、魔女や魔人対策もバッチリで、先ほどは魔人化した地帝を助けたのです」


「なんと! おぉ、確かに首のネックレスから、あり得ない程の力を感じる……むむ」


 ルドルフよりも立派な毛並みで、フサフサモフモフしてそうだ。だけど、年はそこそこ言ってそうで、声も枯れたりしてきているね。そろそろ限界で、後継でも決めたそうだね。

 なるほど。それでルドルフは、あの地震の原因を究明して、後継になろうとしていたのか。


「父上。私は彼女を、妃として迎える。宜しいですか?」


 あっ、しまった。僕はこれを、否定しないといけないんだ。なんか普通にしていたけれど、妃とか勘弁だからね。


「あの、ちょっと……」


「しかしなぁ……他の9人の王子達の、妃候補がどういうか」


「いや、だから……」


 不味いよ、僕の事なんてお構いなしで、トントン拍子で進んでいく。止めろ止めろ、そんなのは止めないと。


「あのね! 僕はルドルフ君の妃なんか――」


 そんな時、この部屋の出入口の右側にある、大きな窓が並んだ所で、9人の人影が現れた。いつから居たのか、日の光で姿が良く見えないけれど、9人の人と一緒に、女性の人達の姿も見えた。


「面白そうね。やっと10人揃ったわけね」


「ふふふふ。ここから、王位争奪戦が――」


「良かろう!! 王位は、第一王子のルドルフに譲ろう! 妃も決定だ!」


「「「「「「「「「えぇぇぇぇ!!!!」」」」」」」」」


 はい、シルエットだけでご退場となりました。


 そうじゃなくて、可能性としては十分あり得た。ルドルフは第一王子だ。だけど、まだ間に合う。


「待って待って! ルドルフ君は、僕の事を好みじゃないって言っていたし、僕も彼を好きなんかじゃない! それに、僕は男だよ!」


 その後、全員の視線が集まり、僕の姿をまじまじと見てくると「そんな嘘を言って」なんて顔をされました。嘘じゃないのに……いや、身体は女の子だけど、中身は男なんだよね。と言っても、そう簡単には信じないか。


 でもそうなると……突拍子もないことを信じ、あっという間に僕を妃にしてしまった、ルドルフの方がおかしい。こいつ、やっぱり早くに別れてしまった方が良かった。

 現地の人で詳しそうだからって、傍に置きすぎたよ。大失敗をやらかした。


「ルドルフ君! 君は、僕の事を好みじゃないって言っていたのに、王位が欲しくて嘘を――」


 流石にちょっとキツめに言った。これは許せないからね。すると、ルドルフからは飛んでもない言葉が飛んできた。


「確かに好みじゃない。今もな。だがな、それで惚れない条件にはならん。俺はな、お前なら妃として迎えても良いだろうと、そう思ったんだ」


「んなっ……か……」


 そういうのは良く分からないや。好みじゃないのに惚れるって、それっていったいどういうこと? 僕はあんまり恋愛したことがないから、それが全く分からない。


「それと、お前にとっても良い話なんだ。良いか? 質素とは言え、この国は島国で、天然の資源が沢山あり、とても豊かだ。俺の妃になれば、その命が終わるまで、自堕落に過ごさせてやるぞ」


「なんっ……あっ、永久就職。この身体なら、その手があった! って、待って……妃としての公務とか……」


「確かにその辺りはあるだろうが、基本的に、お前がぐうたら過ごせるようにすれば良い。それが、俺達がお前に求めるものだな。要するに、快適な生活の実現とやらを、やってもらうだけだ」


 とてもつもない好条件に、思わず食いついてしまった。しかし、まだ問題がある。


「あの、でもさ……夫婦の営みとか……」


「あぁ、それはしっかりとして貰わないと、跡継ぎが出来ん」


 一気に血の気が引いたのは言うまでもなかった。

 気がついたら僕は、回れ右をして、そこから立ち去ろうとした。


「実家に帰らせて頂きます」


「お前の実家とやらは、この世界にはないだろう」


「ぎゃん! 尻尾掴むなぁ! 変態~!! そんな目で僕を見ていたのか!」


「そうだ」


「言いきったぞ! このやろう~!!」


「そんな活発なお前は始めてみたな。悪くない」


「ルドルフのせいだ~!! 寒気~!!」


 次々と歯の浮く言葉を言いやがって、さっきから寒気が止まらない。必死に逃げようとしているのに、尻尾を掴まれてから、思うように力が入らない。まさかの、尻尾弱点? 某アニメじゃないんだから、ベタ過ぎるよ。


「それと、ルドルフは僕の言ってる事を完全に信じているけれど、嘘だったらどうするの!? 僕が悪い奴だったら――」


「俺達は鼻が効く。目も耳も良い。嘘を付いている奴はな、鼓動の早さ、呼吸の早さが違う。挙動もな。お前は、そういうのが一切ない。全て本当の事だな」


 天然の嘘発見器止めてください。恥かしくなるから止めてください。


「さて……と言っても、こちらも無理強いはしたくない。出ていくなら好きにしてくれ。ただし、この島の外には、あの教会の連中がうろついているかも知れないし、魔女や魔人との戦闘が絶えないかもな。ここは島国だ。海に囲まれているから、ある程度押し止められ、割りと平和だぞ」


 揺れる……揺れてしまう。理想の自堕落した生活が、目の前に用意されている。だけどその為には――


 男を捨てないといけない。


「ちょっと……考えさせて」


「分かった。父上、そういうことなので、少し時間を」


 ルドルフが言うと、その獣人王は無言で頷いた。


 さて、ちゃんと考えないと……って、こんなの直ぐに答えが出るわけないじゃん。それでも、自堕落な生活は欲しい。どうしようか。

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