本当は強いんでしょうね
再び馬車に揺られ、僕はルドルフの実家へと向かっている。城はあるけれど、こじんまりとしていて、何かの祭事にしか使わないらしい。
街並みも、あの港のあぜ道から先は、石畳やレンガで舗装されていて、家も綺麗に規則正しく並んでいる。地中海か何処かの街並みをイメージさせられるような、そんな並びをしているよ。
島国って言っていたから、気候も穏やかで、気持ちの良い風も流れ――
「大地のリズムが軽快に鳴らされているよ……」
「詩人だな、サクラ」
「島国だから、地震があるのは仕方ないよ。だけど、今ので港を出てから3回目。身に感じられる地震の数にしては、ちょっと多いよ……いや、ちょっとどころじゃないね……」
まだ30分も経ってないのに、3回の地震って、多すぎるし危険過ぎる。なにこの島……。
「あぁ、ここ最近の我が国の問題でな。原因不明の地震が頻発している。感じる事の出来る地震だけでも、毎日起こっているな。今日は少し多いが……」
「ルドルフ様が、この地震を探る事が出来て、解決してくれる人物を探し、この島を出られてからも、地震は増えています。もはや、一刻の猶予もないです。王への挨拶は後にされ、その方に原因を探って頂ければ……」
「そうだな、シーブ。ということだ、サクラ。なにか分かるか?」
あ~そうですか。ルドルフが僕に引っ付いていたのは、僕の加護を狙ってなのと、僕の力を見極め、自分の国を救ってくれる程なのかを、見ていたのか……。
虎の獣人のお供、シーブにそう言ったルドルフは、真剣な顔つきで、隣に座る僕を見る。
あとはそうだね……僕を妃候補にする発言もあるね。その事も聞きたいけれど、とりあえずこの地震何だけど、火山によるものじゃないなら、いったい何が原因なんだろうね。
もちろん、ここは島国だから火山はあるけれど、今は休火山らしいんだ。もう長い間、マグマの動きがないらしい。
そこまで調べられる程、技術発展はしていた。あの船といい、家の中の電気といい、この世界の技術は、僕のいた世界と変わらない。もしくは、それ以上じゃないかな。
ただ、その全ては、女神の加護ありきだから、危ういものがあるね。
「…………」
今、地面に蠢いてる変な気配も、女神の加護では感知出来ないのかな。
「どうした? サクラ」
「ん~? あのさ、この島で多発する地震の原因と、その原因を取り払えば、しばらく自堕落な生活させてくれる?」
「構わないぞ。むしろ、その話もしたいのだがな」
「分かった」
な~んか、思った通りだと言わんばかりの、とても満足そうな顔をするルドルフを見ていると、一発ビンタでもお見舞いしたくなるよ。
結局、君の思い通りになっちゃうし、その通りに動いちゃう僕も僕だなぁ……。
「馬車止めて。近くに居るから」
「なに? 近くにだと……?」
「地面の中も調べられないの?」
「あぁ、それも無理だ。空は天帝、地は地帝と言ってな、この世界では、空と地下に入れば、魂を砕かれてしまうのさ」
地下も地下で、厄介な奴が陣取っていたね。
人が生きる場所が限られているし、空は飛べないし、海の移動も難しいしで、思った以上に住みにくい世界だよ。
「む~居るんだよ、地下に……この気配さ、魔女って奴だよ」
「なんだと?! 地下に……? いや、魔女だろうと不可能だ。魂ごと砕かれる」
「それじゃあ、地下を蠢くこれはなに? この黒い感じは、いったい何なの?」
「黒い感じ……なるほど。魔の者の副産物、黒いモノの気配か……」
ちなみに、これに男性が触れたら、魔女ではなく、魔人と呼ばれるらしい。となると、魔人の可能性もあるけれど、男性は精神力も体力もあるから、そうそう魔人になる人はいないらしい。だいたいは、霧散させてしまうらしい。
ただ、中には居るんであって、その可能性も捨てられない。
魔人は、魔女以上に厄介な存在だと言っていた。
それなら、この地下を蠢く奴も、魔人の可能性が高いよね。だから、何とかして地下に行くか、地下を掘らないと。
馬車が止まり、僕はそこから降りると、じっと地面を睨み付ける。
地面に潜れないなら、相手から出て来て貰わないとね。イメージすれば、その通りの出来事が起きる。強すぎるよ……この創世者の力はさ。
「そこっ!!」
本体の動きを捉えた僕は、そいつが突き飛ばされて、地面から出て来るイメージをして、それを相手の地面の周りにぶつけてみた。すると――
「オォォォォォ!!!!」
デッカい顔と、デッカい腕を突き出して、岩の体で出来た巨人が飛び出して来た……けど、そのパーツだけって……。
「なに?! いかん! 像の形通りだ! これは、この方は――地帝だ!!」
「えっ? 何?」
「既に気絶させてるだと?!」
出て来た瞬間、もぐら叩きのようにして、そこらの岩で作ったハンマーを頭に叩き込んじゃったよ。早く言って……。
「う~わ、僕……魂砕かれるの?」
「い、いや……しかし、地帝が魔人化? 信じられん……そんなのは……」
「実際してるじゃん。ルドルフ君、早く槍で戻して上げて」
良く見たら、額から禍々しい角が映えてるし、それが例の黒いモノから産み出された、邪な力の源流でしょ? 早く何とかしないと、目が覚めて潜られたら、今度は捉えられないかも知れないんだよ。
「くっ……失礼します。地帝様」
ルドルフが丁寧にお辞儀をすると、その禍々しい角の部分を刺し、綺麗な光が地帝を包んだ。その後、禍々しい角は砂みたいに崩れて消えた。
「……弁明すれば何とかなる?」
「分からん……分からんが、するしかないな」
僕の新たな人生、こんな所で終わりは嫌だな。もうちょっと自堕落したいのに。
◇ ◇ ◇
その後、目を覚ました地帝は、僕達を見た瞬間、全てを察したのか、大きな声で高笑いしながら、また地下へと潜って行った。
喋ったりはしなかったけれど、何だか許してくれたようで助かりました。
「良かったな」
「うん、良かったけれど……耳痛いし、心臓縮んだ」
普通の高笑いじゃなくて、地に響く程だったから、鼓膜破れるかと思ったし、心臓が飛び出るかと思ったよ。
頭のてっぺんから、ちょっと外れた所に狐の耳があって、そこから音を拾うけれど、外耳が広いから音を余計に拾っちゃってるよ。うるさかった……。
「しかし、サクラ。その鉱石はなんだ?」
そしてついでに、地下に戻る途中で、僕に向かってこの鉱石を投げられました。頭に当たって痛かったよ。
まるでダイヤみたいだけれど、ひし形にキラキラと輝くそれは、ダイヤ以上に綺麗で美しかった。しかも、何か凄い力を感じますよ。
ただ、どう使うのかは分からない。
「う~ん、地帝から貰ったものだし、大事にしておこう」
「そ、それが良いな……初めてだぞ、地帝からそんな物を貰ったものは」
「そうですか」
しかもこれ、大きさを自由に変えられるよ。とりあえずネックレスみたいにして、首からかけておこうか。
それから、またユニコーンの馬車に乗って、ルドルフの実家へと向かいます。同時に、ルドルフが何か悩み始めた。
「……俺は、とんでもないやつを連れて来たんじゃ……」
今更ですか? 君が旅していた本当の目的を、あっさりと達成したから、若干怖くなっているんじゃないですか? もう無理なんかせずに、僕を孤島か何かに追いやって、衣服住を整えてくれたら良いのにね。
「それは絶対にさせん」
「へっ? えっ、まさか声に出てた?」
「孤島に追いやって、から声に出てたな」
願望が口から出るなんて、恥ずかしい。でも丁度良いね。
「というわけで、人があんまり来ない孤島に追いやって、衣服住の提供を――」
「お前、図々しいな。ルドルフ様、こんな奴を妃になんて――」
「いや、今ので確信した。必ず妃にしてやる」
「え~」
あまりのしつこさに、流石にドン引きしてしまうよ。僕の事は軽く話したのに。
「ルドルフ君。僕、中身は男性だよ? 男だよ? 良いの?」
「今は女だろう。関係ない。それと、君の力とやら、普通の家で育って、手に入るものじゃない。それなりの身分で――」
「普通の家庭だよ。産まれた直後以外はね」
この事は、正直あんまり話したくはない。だから、話させないで欲しい。単純に虫酸が走るからね。
「産まれた直後以外?」
「はぁ……ルドルフ君。僕はね、これはあんまり話したくないんだ。言えるのは、僕の家系は一子相伝で、ある密教を信仰し、暴走していたってだけ。これ以上はもう話したくないです」
「そ、そうか……」
遠い親戚に預けられ、何とか普通の生活をしていたんだ。そして、ある程度忘れていたっていうのに、こっちに来て、力を使ってから、色々と思い出しちゃっているんだよ。
そんなアンニュイな雰囲気を漂わせていたら、ルドルフもシーブも黙り込み、静かに馬車は進んでいった。




