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まさかのご身分

「ベルトはしたか?」


「は~い、船にシートベルトってどういうことでしょう?」


「危ないからな」


 優雅な船旅がなくなり、渋々船に乗ると、規則正しく並ぶ椅子が見えた。それに座ると、シートベルトを付けるように言われました。まるで、ジェットコースターのシートベルトみたいなやつで、膝の辺りに付けてます。


 なにこれ? いったい何が始まるの? 僕の予想の斜め上をいってるんだけど……。


『しっかりと固定したか?』


「あぁ、船長。準備完了だ」


『よし、それなら行くぞ』


 船の中の穴の空いた管から、男性の声が聞こえると、ルドルフがそう答えた。嫌な予感しかしないし、僕の心はまだ準備が出来ていません。


『よ~し、レールガンエンジン起動!』


「はい、はいはい!! 待って、ちょっと待って、嫌な単語が聞こえた!! 降りる、僕降りる!!」


「もう無理だ」


「いやいや、僕は死にたくない。レールガンってあれだよね? 超電磁砲の!?」


「良く知ってるな。大丈夫だ、この船体の鉱石は、お前が解放したあの山から取れる、世界一硬い鉱石、インフィダイト鉱石だ。無限に硬さを増すこの鉱石なら、何があっても大丈夫だ」


「いや、違う。中! 中の僕達! Gが、重力が!! 押される力の方!」


「あぁ、それはもう――根性だ。大丈夫だ、ある程度の加護結界がある。それでも少し力がかかるから、ベルトはしているがな」


「あ、あは……あはは」


 足をバタバタさせても、もう無理だよね。多少のG? それが素人の場合、どれだけ危険か分かってないでしょう。というか、何でそんな威力とスピードを出さなきゃいけないんだよ。


「はぁ、はぁ……のんびり、優雅に……潮の流れにのって、ゆっくりと……という、僕の理想の船旅はどこに……」


 項垂れながら言う僕の言葉に、ルドルフが返事をしてくるけれど、とんでもない返事が返ってきたよ。


「そんな船旅していたら、大陸と大陸を渡るまでに、10年はかかるぞ」


「は? えっ……もしかしてこの世界って、海がめちゃくちゃ広い?」


「まぁ、海だけを集めると、人の一生分では航海出来ない距離になるからな。お前の想像の船旅だとな」


 それつまり……僕が居た世界の海より、何倍も広い事になる。つまりこの世界の星は、僕が居た世界よりもデカイ事になる。


『レールガンエンジン始動! 発進!』


「うぇぇええええ!!!!」


 発進の時の負荷か、それともこの世界の広さに驚いてなのか、何で驚いて叫んだのか分からなくなってしまった。


「そんなに叫ばなくても、一瞬後ろに仰け反っただけだろう?」


「はぁ、はぁ……あ、本当だ。えぇ……この程度?」


 窓の景色はとんでもないスピードで流れているから、本当にレールガンで射出されたんだ……この船が。

 だから空気抵抗の少ない、あんなシャープなボディと、エッジの効いた船体だったのか。


 それでも、色々と物理法則を無視しているけれど、星の大きさが違うことから、天体とか、その辺りからの色んな影響も変わる。となると、物理法則が僕の世界とは違うのかも……。


「あれ? だけど、射出だけじゃあ、途中で威力が落ちて――」


『ブラストターボエンジン起動。このまま加速を維持、突っ切るぞ! 掴まってろよ!』


「急にSF~」


「どうした?」


「何でもない~」


 もう考えるのはよそう。別の動力で、射出された時の速度を落とさず、海を突っ切る気だ。なんでそこまで急ぐのかな……と思ったら。


「……煙? えっ、船体から?」


「魔力濃度の高い海だ。普通の船なら溶かされる。だが、この鉱石の船なら、数十分は持つ。その間に目的地に着かないとな」


 まさかの命がけの航海だった。


「それならそうと言って!!」


「言ったら逃げそうだからな。お前は」


「正解! 僕の力を使って、別の方法で行ったよ!」


「それは時間がかかる」


 時は金なりって感じですか? 生き急いでも何の得にもならないよ。のんびり行こうよ、のんびりとさぁ……。


『行っくぞぉ!!』


 だけど、乗りかかった船と言うか、もうこうなってしまったら降りる事も不可能。また後ろに仰け反るような衝撃を受けて、僕は加速する船の中で、ルドルフを恨んだ。


 ◇ ◇ ◇


 死線から十数分後。


 僕は別の船着き場で身体を崩し、立ち上がれなくなっていた。


「ルドルフ君、これは高くつくよ。ふふふふ……」


「まぁ、高い運賃だからな」


 そりゃそうでしょう。こんなやり方、どれだけのお金と高度な技術が使われているのやら。思った以上に発展した世界だったよ。


 それでも、船の船体はかなり溶けていて、船着き場にいる船員達で、船の引き上げをしていた。

 そういえば、海は青いのに、誰も泳いだり、船が行き交ったりしているのが無いから、おかしいと思ってはいた。


「もう乗らないからね」


「そうか。しかし、別の国に行くとなると、また船に乗らないとダメだがな」


「何とか攻略してみせる」


 海が広いのも分かった。ただ、のんびり過ごすには、この船は要らない。もっと安全に、かつ時間がかからず、それでものんびりと出来る船旅を、絶対に確率してみせる――と、意気込んだところで、あることを思い出した。


 こんな船が作れるのに、空には飛行機が飛んでいない。


「……あのさ、ルドルフ君。空は?」


「空? お前、死ぬ気か。天帝の領分に足を踏み入れたら、どんな奴でも、魂ごと砕かれて終わりだ。恐ろしい事を考えるな……」


 なんだか、とてつもない奴が空に居るらしい。

 なるほど……ちょっと良く分からないけれど、チートとか、僕のような最強能力でも通じない、絶対君主的な立場の奴が居るんだ。


 それは攻略は厳しそうだなぁ……何より、のんびりとはいかないね。諦めるか……。


 その後、ルドルフが船着き場で船員と話していると、遠くのあぜ道から馬車がやって来た。

 立派な一本角を額に生やした、真っ白で大きな2頭の馬が、馬車を引っ張っている……けれど、あれはつまり、ユニコーンとかいうやつですか。


 舗装されてない、走りにくそうな道でも、威風堂々とやって来たから、ちょっと見とれてしまった。


「ブルルル……!!」


「うわぉ……鼻息……」


 しかも僕の近くまで来て、わざわざ鼻息を浴びせる始末。わざとかな……。


「なんだ、迎えは要らないと言っただろう。全く……」


「そうは行きません、ルドルフ様」


 そして、ルドルフが後ろからやって来て、その馬車に向かって話しかけた。どうやら、ルドルフの手引きらしいけれど、呼んではいないってことは、勝手に来たってことになるよね。何とも忠誠心のある人だね。


 馬車から顔を出してきたのは、ルドルフと同じ獣人。だけど、虎っぽい獣人で、狼の獣人のルドルフとは違っている。

 それもそうか。獣人ってひとくくりに言うけれど、色んな獣の種類があるよね。


「うん? その者は?」


 そのまま、虎の獣人のその人は、僕を見てそう言った。

 正直言うと、ルドルフより強そうで、バリバリの接近戦から、拳1つで戦いそうなイメージだよ。虎がそのまま二足歩行したような感じだからかな。


「あぁ、旅の途中で出会った――」


 そしてルドルフは、僕の紹介をしてくる。そうそう、ここでしっかりと僕の株を上げてくれれば、この国で自堕落な生活が――


「俺の妃候補だ」


「…………今何て言ったの? ルドルフ君」


「妃候補。というか、俺の妃候補は他に居ないが、まぁ一応な」


「……ルドルフ君。君の立場って……」


「あぁ、言ってなかったか。ここ獣人国の王、獣人王の第一王子だ」


 大声で叫びたくても、既にさっきの、高速船アトラクションで喉が痛くなっていたんだ。


 とりあえず卒倒しておきます。


「おい! サクラ!?」


「ルドルフ様。説明していなかったのですか?」


「いやぁ、する暇がなかった。それだけ、こいつは他人に興味がなかったからなぁ……」


「とりあえず、事情は館の方で」


「分かった」


 倒れてみたけれど、気絶出来ませんでした。ショックが大きすぎた。


 というか、僕は第一王子に対して、とんでもなく失礼な事ばかりしていた。


 処刑されたらどうしよう……。

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