チートなんて卑怯な事はさせません
僕の力の前に、呆然とする勇者パーティは、それでも僕を通さないようにしている。王都兵達は、さっきの僕の脅しのような攻撃で気絶しているけれど、この人達はやっぱり、ちゃんと修羅場を潜っているね。気絶しなかった。気絶しそうにはなってたけれどね。
「ねぇ、なんで君達が、教会側に居るわけ? あの人達は――」
「分かってるよ。ただな、俺達は――」
すると、僕が彼等にちょっと近付いた瞬間、同じくらい後退った。あぁ、まさかだけれど、この人達……。
「俺達は、動物が苦手なんだよ」
「私は好きでも嫌いでもないけれど、獣みたいな考え方しているかもって思うと、ちょっとね……」
コウタって人が言うと、皆ばつの悪そうな顔をして、赤髪のツインテールの子は、怖がっていないながらも、そんな事を言ってきた。
つまり、亜人や獣人が苦手で、だから教会の理念に乗っかって、亜人や獣人を遠ざけようとしているのか……。
「正直、俺はケモナーだとか、ケモミミ好きとかが理解できねぇ。モフモフ? ケバケバしてるは毛は付くは、しかも鋭いから刺さりそうだろう!」
「刺さる……て。いや、流石にそこまでは……」
「うるさい。とにかく、獣人や亜人と仲良しこよしなんて、俺はできない! そんな俺の考えに賛同してくれているのが、このパーティなんだ!」
もしかしてだけど、教会や王都兵の人達もそうなのかな。
確かに、人間が皆動物が好きで、接するのも平気って訳ではない。苦手な人、嫌いな人もそりゃ居るでしょう。
でもだからって、迫害するのはやり過ぎだ。
「分かりました。獣人の人には伝えておくので、今はとにかく僕を……」
「いや、あなたは捕らえろか、殺せって命令が出てる。教会の通りにすれば、亜人や獣人に怖がる必要はなくなる。駆除しないとな」
もう勇者じゃないや、この人。
そういうのもおおらかな心で受け入れて、ある程度の距離感を保つ努力っていうのを、しないといけないんじゃないのかな。
それが出来ずに、ひたすら排除や駆除をするようなら、頑固なおじさんと何も変わらない。とても勇者とは思えない。
だから――
「さぁ、これならどうだ! 防御は不可能。次元斬、巨人の鉄拳!!」
双剣を巨大にして、そこから繰り出した広範囲の斬撃を、僕は同じような力で、手刀で斬り返した。
なんか、空間がひん曲がっていたから、空間ごと斬ってたね。だから、同じようにして斬り返したんだ。しかも、今度は変化はさせていない。
「なっ! くそっ、これも無理か。それに、脅しなら――」
「あっ、脅しじゃないからね。ちゃんと対策しないと死ぬからね」
「はぁ!? くそ、リムル!」
「……っ、サンクチュアリ展開! でも、コウタと同じ力なら、完全に防げは……!!」
「えぇい、撤退を……駄目か、間に合わん!!」
「「うわぁぁあ!!」」
港の一部を削り、斬撃は勇者パーティと王都兵を一網打尽にした。
これで、ルドルフの乗ってきた船を奪取出来る。直ぐにでも出発して、ここから離れた方が良いね。
「時のやり直し」
「はい? えっ、ちょっと……建物が……」
土煙からコウタって人の声が聞こえたと思ったら、さっき壊したはずの港の一部が、一瞬で直った。
それと、僕の立ち位置まで変な力に引っ張られている。コウタと勇者パーティも、まるでビデオの巻き戻しのように、チャカチャカと動いて……まさか、時を戻している? そんなチート能力まで……って、何か空間に浮いてる。
「はは。悪いな。俺はな、敗北が決定した時、その時に受けたダメージ分、お金が手に入るコインカウンターと、お金を払った分時を戻せる、時のやり直しがある。今までのは無かったことに、俺の記憶はそのままに、再度――」
「この時計何? あ、動かせる。確か、この位置からスタートしたような……」
「あぁぁ! 戻すな……というか進めるな!!」
僕の半身くらいある、とても大きな懐中時計のようなものが、僕達の横をフワフワと浮いていたし、さっきは9の位置にあった長針が、7の位置に戻っていた。
つまり、これで時を戻していたのなら、これを進めれば、またさっきの戦闘終了まで、時を進められるんじゃって思ったら、最初の9の位置に戻せたよ。
「それ、お金を払わないと動かせないんだが!?」
「いや、普通に動かせたけど?」
君しか動かせない、君しか見られないタイプだとしても、僕はそのルールの適用外の能力だからね。こうなるのも、可能性として考えておかないと。いや、無理か。
「くそっ、くそっ、戻すな! 戻せ!」
「いや、どっちですか? ややこしいな、もう。というか、こういう卑怯な事はダメです。負けを認めて下さい」
「チートだから良いんだよ! というか、長針押さえるな!」
また時を戻そうとしていたから、長針を押さえて阻止です。しかし、力強いですね。こういう力任せな事はやりたくないのに、しつこいですね……君は。
そうやって、お互いで押し問答していると、その大きな懐中時計がカタカタと変な音を出し始め、そして――
「ひっ!!」
「わっ!?」
ボンっという音と共に、バラバラに砕けてしまった。どこかのネジやゼンマイが取れちゃったみたいな感じだ。
「あ、あぁ……あぁぁぁ」
あれ、これ……時が止まっちゃう……は無かったね。
コウタって人がボロボロになっていて、周りも砂煙が舞っている。つまり、僕が攻撃した後の時間だ。やれやれ……。
そして、コウタって人はそのまま倒れてしまい、身動きが取れなくなっていた。
「くそ、くそぉ……なんで、何でこんな事に……お、俺が……」
「まぁまぁ、そんなチートを使って勝っていても、嬉しくないでしょ?」
「うるさい。綺麗事だけで、世の中渡っていけるかよ。チートでも何でも、他人に勝って見下せれば、気持ちいいだろうが!」
「うっわ、最低……」
「うるさい! 悔しかったら、お前もチートを使えば――使ってたか……」
チート紛いの最強能力って感じだけどね。
ただね、これを使って勝っても、良い気分にはならないよ。逆に、なんだか申し訳なくなっちゃうよ。
「悪いけれど、僕は他人を見下す気分が良く分かりません。何が良いのやらって感じだよ」
そして、僕は港の方へと歩いていく。
もう、王都兵も君の仲間を、完全に気を失っているからね。今のうちだ。
「ま……て。このままじゃ、俺は……俺は……どうなるんだ?」
「いや、知らないよ」
「だ、だってよ。この手の主人公が負けた事、無いじゃん。えっ、えっ……この後どうなるんだ?」
そういえば、戦わずに逃げた場合の扱いは聞いてるけれど、一回でも負けた時の扱いは分からないね。
「なぁ……おい、待てって、せめて俺を仲間に……」
「情けないなぁ。一応、今までも修羅場があったんでしょう? また切り抜けたら良いじゃん」
「いや、それは……リムル達が居たから……俺一人じゃ、そんな胆力は……」
なんだか可愛そうな人だけど、それこそ僕には関係ないので、そのまま立ち去るだけです。
「待ってくれ……なぁ、おい、待ってくれぇぇぇ!!」
哀れな叫び声を上げながら、コウタって人は僕を引き留めるけれど、僕が止めらないと知ると、ようやく諦めて静かになりました。そうだね、自分一人で、何とか頑張ってくださいね。
本当に、君が本物の勇者として行動していたら、仲間が君を見捨てる事はないと思うよ。
「…………そしてやっぱり。ルドルフ君、謀ったね。PART2」
「お疲れ。やっと終わったか」
港の船着き場へと向かうと、そこにはルドルフが待っていて、後ろから船のようなものがやってくる所でした。
僕を囮にして、君が買収した船を回収していましたね。しかも、船員までちゃっかりと買収して……。
途中から、後ろでコソコソしていたのが見えていたんですよ。それならそうと最初に言って欲しかったですね。
いや、終わった事なんでもう良いや。とにかく、快適な船旅で、数日は優雅な海の旅へと――と思って、やって来た船を見てみると、僕の想像した船とは違っていた。
やって来た船は、凄く硬そうな鋼鉄のボディでシャープなフォルム。船体は鋭くエッジが効いてて、水面を浮きながらとても速く走れそう。
言ってしまえば、ジェットボードの上に船体の上部を取り付けて、大きく改造したようなやつ。
優雅な船旅はどこへやらだよ……。




