愉快な令嬢の遊び 中編
伯爵令嬢ララは念願の夜会に参加しても恋するダミアンに近づけなかった。豪華なドレスを纏う美しい令嬢に囲まれ人気者のダミアンはララに見向きもしない。ダミアンがダンスするのは美しい令嬢ばかりで、もちろんララは誘われない。令嬢を優しくエスコートする姿は王子様よりも格好良く、ダンスを披露する姿もうっとりするほど素敵で、美人でもなく豪華なドレスも着れない自分が近づくなんておこがましいかと落ち込んだ。
それでもララはお茶会でダミアンの話を聞くたびに恋する気持ちが大きくなる。令嬢達の恋の話題にいつも登場するダミアンの話をうっとりと聞きながら妄想を巡らすのがララの至福の時間。
お茶会が終わり伯爵家に帰る途中に馬車の窓からダミアンを見つけ馬車を止めて慌てて降り、ララは勇気を出して近づく。買い物をしているダミアンに話しかけると明るい笑顔を向けられ胸が高鳴る。ララは自分の名前を呼ばれたことに喜び、ダミアンが思惑があり近づいたとは気づかずまた会えたらいいなと言われ頬を真っ赤に染めて頷く。初めて話すダミアンは優しくて、話し上手でララの想像以上に素敵な人に感じさらに恋する気持ちが大きくなっていた。ララはダミアンの数いる恋人の一人で構わず逢瀬を繰り返し少しずつ距離が近づく様子に歓喜していた。
新しく入った侍女のサナは聞き上手で、他の侍女達が聞き流すララの恋の話を熱心に聞いてくれる。
ダミアンの夜会に招待されたと話すと共に喜びドレスを選んでくれた。他の侍女は参加を止めるのにサナだけがララの味方だった。
サナの選んだドレスを着てララは夜会に向かう。興奮したララはサナが質素なドレスを勧めたのも、アクセサリーも選んだドレスに合わないことも気付かない。サナは興奮するララに罪悪感を持っていた。社交経験が少なく貴族の常識に疎いララは、ダミアンにとって普通のエスコートを受けて特別と勘違いしているが興奮したララにサナの言葉は届かない。侍女は主の望み通りの役回りをこなすものである。笑みを浮かべて訂正を入れても無駄とわかったサナは現実に気づくまで放置を選ぶ。侍女仲間がララの恋の話を聞き流す気持ちがわかり、どこの侍女も苦労するのかと現実逃避しながら主のために幼子の様な伯爵令嬢の傍で動いていた。
***
ダミアンは両親と兄が留守な日に私的な無礼講な夜会を催した。招待しているのはミーアとダミアンの友人だけであり招待客達は二人をよく知っていた。王族の覚えも目出度く、外面は完璧、社交もぬかりない、欠点は悪巧みが趣味の愉快犯。憎まれないのは、悪巧みをしても全て甚大な被害がなく収まるからである。友人達も自分に被害がなければ傍観者として楽しむミーア達と似た者同士の集まりである。
ミーアはサナにララのドレスのサイズを調べさせ、ロットの好みを細かく反映したドレスを用意した。ロットが絶対に外せない仕事があり遅れて参加するしかない日に夜会を組み、今度こそミーアの綿密な計画に抜けはないと人の悪い笑みを浮かべて準備を整え時を待っていた。
侯爵邸を訪ねた地味なドレスを着たララをダミアンが笑みを浮かべて出迎える。ララは頬を染めて差し出される手に手を重ね、ダミアンにエスコートされる夢のような時間にうっとりと足を進める。うっとりしているララはダミアンと共に会場に入ると視線が集まるのに気付かない。ワインを持ったミーアがうっとりしているララに近づき、躓くフリをして盛大にドレスにワインをかけようやく現実世界に戻る。
ダミアンはララの肌に一滴もワインをかけず見事にドレスだけを汚す器用な悪友に笑う。
「まぁ!?大変ですわ。失礼しました。お詫びに私の予備のドレスを差し上げます。私のダミアンの夜会ですもの。粗相は許しませんわ」
「ララ嬢、大丈夫か?ミーアが悪い。部屋を用意するから使ってくれ。ミーア、大丈夫か?」
ダミアンはララの手を離して甘い笑みを浮かべてミーアの肩を抱く。ダミアンにもたれかかり甘えるミーアの牽制は動揺しすぎたララに認識されず無意味に終わる。
控えていたサナが目を丸くし固まったララを連れて移動し、罪悪感を覚えながらもミーアが用意したロット好みのドレスに着替えさせる。
サナはララの着付けをおえて、何度か呼びかけようやくララは我に返る。ララは自分の家では買えない豪華なドレスに首を傾げ、サナが説明を始める。ワインをかけた公爵令嬢からのお詫びとして下賜されたドレスを断るのは失礼と聞き、ありがたく受け取るのが礼儀と聞き嬉しそうに頷く。ミーアの家名を伝えてもララはミーアにワインをかけられたとは理解できていなかった。
ララは綺麗に着飾られた姿を鏡で見てこの姿なら豪華なお屋敷に住むダミアンの隣に立っても見劣りしないとにっこり笑う。サナの選んだ似合わない地味でちぐはぐなコーディネートの後だったので、余計に映えて見えていた。
サナはアクセサリーや靴はミーアの用意したドレスに合わせて選び、ワインで汚されても、しみ抜きしやすそうなドレスをララに着せていた。
ララはダミアンに抱きしめられていた令嬢を思い浮かべ、今なら自分のほうが釣り合うと明るい顔で、部屋を出て、サナに案内され会場を目指す。
サナはロットが夜会に足を運ぶ時間をミーアから聞き、ララを鉢合わさせるように指示されていた。窓の外からロットの到着を確認してララを誘導し傍を離れた。ミーアに与えられた絶対にロットにサナの姿を見せないという厳命を守るために。
サナの手でロット好みに仕上げられ部屋から会場に向かうララの後ろ姿をロットが頬を染めて見ていた。
「見惚れるのではなく誘うのですわ。ロットが、こんなにヘタレとは思いませんでした。でも後ろ姿でアレでしたら、正面から見て大丈夫でしょうか」
「ロットが…」
ミーアとダミアンは物陰に隠れて逢引を装い観察していた。
ダミアンは冷静な幼馴染の初心な姿に必死に声を殺して笑う。隠れていなければ腹を抱えて床に転げ回りながら笑っていただろう。
「ダミアン、笑いすぎです。お酒でも飲ませて閉じ込めます?でもロットはお酒に強いですが」
「面白いからこのまま見ようぜ。さて、どうなるかな」
「これ以上ララ様を誘惑したら許しませんよ」
「わかってるよ。上手くやるよ」
ダミアンの腕の中でミーアは不機嫌な顔で爆笑する頬を突っつく。
ダミアンの侍従は二人の距離の近さに慣れているため何も言わない。ミーアは装飾のない紺色の質素で目立たないドレスを着て、髪をおろしていた。豪華な装飾品に飾られ色鮮やかなドレスに包み髪を纏めている普段のミーアとは正反対である。友人ばかりの無礼講な夜会なので許される装いでありロットに見つからないようにダミアンの腕の中に隠れて観察するための装いである。真面目なロットがミーアを見つけて、婚約者の義務としてエスコートするのを避けるために。
ロットは間の悪いダミアンからの夜会の招待に、迅速に外せない仕事を片付けて侯爵邸に馬車を進めさせた。ミーアは人気があり、自分の婚約者でも諦めの悪い狙っている男の多さに嫌気がさしていた。最近は全く意識されていなかったミーアがようやくロットを意識し気持ちを受け入れてくれた。口づけて頬を染める姿に平静な顔を装うのが精一杯で、気のきく言葉を一言も言えなかった。母に真剣な顔で自分の好みを教えてほしいと相談したという話を聞いたときはだらしなく顔が緩んだ。侯爵邸に着き、母が教えた姿のミーアの後ろ姿を見て赤面し顔が緩み、すぐに声を掛けたくても無理だった。必死に落ち着くように暗示をかけて会場に足を踏み入れる前にミーアを捕まえるため、後から腰を抱き寄せた。
「え?」
ララは突然腰を抱かれて驚いて固る。ロットも聞き覚えのない声に目を見張り慌てて手を解く。
「失礼しました」
「いえ」
礼をして離れていく二人にミーアが盛大なため息をつき呆れた声を出す。
「抱き寄せられるのに、ダンスに誘わないんですか!?本能のままに手が?」
「笑いが…。まずい。あのロットが」
ロットは自分が観察されていることに気づかず、ミーアを探していた。
「ミーアを知ってる?」
ロットはいつも視線を集めて目立つミーアが全く見当たらないため親しい令嬢に声を掛ける。
「ミーア様はララ様にワインをかけてから出ていきましたわ」
ロットは詳しい事情を聞いて一瞬真顔になる。運動神経抜群で礼儀作法も得意なミーアが転んでワインをかけるのはありえない。大道芸を見て、翌日に大きい玉を手に入れダミアンと玉乗りしながらおやつをこぼさず食べるバランス感覚の持ち主である。
会場を見渡しても見つからないミーアは後にしてロットは謝罪するためにララに近づく。
「僕の婚約者がすまない」
「いえ。私は」
「後日伯爵には謝罪に」
「お気持ちだけで」
ララはダミアンを探していたがロットに声を掛けられ足を止める。ロットの話は理解できないが、豪華なドレスをもらったのでこれ以上のお詫びはいらない。またロットが誤解していると思ってもしがない伯爵令嬢は名門公爵家の子息に反論できずに曖昧な言葉を並べる。ララはミーアにワインをかけられたと認識できていなかった。ロットはララのドレスを見てミーアがきちんと謝罪したならいいかともう一度謝罪と何かあれば自分に言づけるように伝えて離れた。
ミーア達は庭園に移動し隠れて二人の様子を眺めていた。穏やかな顔で話すロットに気まずそうなララの様子にミーアは頬に手を当てて憂い顔で何度目かわからないため息を溢す。
「全然駄目ですわ。ダミアン、あの二人どうすれば進展しますの?」
「ロットが、初恋って。愉快すぎる」
「私が彼女に無礼を働いて、謝罪にデート?あの奥手のロットには誘えませんわ」
笑いのツボに入っているダミアンの腕の中でブツブツとつぶやくミーアという異様な光景が広がっていた。
ララに謝罪を終えたロットはミーアを探していると見慣れた髪色を見つけた。女癖の悪いダミアンが令嬢を連れ込んでいるのはいつものこと。主催のダミアンならミーアの居場所を知っているかもしれないと近づき声を掛ける。
「ダミアン、邪魔して悪いんだけどミーアを知らないか?」
ミーアはダミアンの胸に顔を埋める。ロットはダミアンの逢引相手の顔を確かめ、礼を強いるような無粋なマネはしない。なによりロットに顔を見られたらミーアの計画は台無しだった。
ダミアンは笑いが止まっていなかった。令嬢を抱きしめながら爆笑する異様な光景にロットは嫌な予感がした。
「ダミアン、彼女は?」
ミーアは予想外のロットの行動にどうやってごまかすか悩んでいるのに、楽しそうに笑っている呑気なダミアンの足をヒールで踏みつけた。
「!?」
「ミーア、話したよね?従弟でも抱き合うのはよくないって。もう子供じゃないんだから」
ダミアンの足を躊躇なく踏み不満を訴えるのはミーアだけと本人は気付いていない。ミーアは迷いのないロットの声を聞いて正体を隠すのは諦め作戦を変更して、反省した声と顔を作る。
「私、反省してましたの。ララ様にワインをかけてしまいました。お詫びをしたいんですが怖がらせてしまい」
「関係ないよね。ダミアンから離れようか」
ミーアは作戦の失敗がわかった。ミーアの話を聞いてララを心配したロットが慌てて謝罪に行く予定だった。エスコートを優先する真面目なロットにミーアは諦めてダミアンの体から顔を離す。
「その格好は何?」
公爵令嬢らしくない装いの指摘にミーアは笑みを浮かべ、笑っているダミアンが前に自分を置き去りに逃げた仕返しを決める。
「ダミアンの見立てですわ」
「は!?」
ミーアの公爵令嬢に見えない装いを用意したのはダミアンである。ミーアの変装用の服はいつもダミアンが用意していた。
「ダミアンの夜会ですもの。主催の好みをおさえるのは大事ですわ。親しき仲にも礼儀ありでしょう?」
解いている髪を指で弄びながら首を傾げて妖艶に微笑むミーアの思惑に気付いたダミアンは笑いが収まり背中に冷たい汗が流れる。
「ダミアン?」
ダミアンはロットに向けられる冷笑に寒気と全身に冷たい汗が流れる。
「私はお友達の所に行きますわ。失礼しますわ」
ミーアはロットの関心がダミアンに移ったので礼をして優雅に立ち去る。
「ミーア!!」
助けを求め呼ばれる声に別れの挨拶を忘れたことに気づき、ダミアンの頬に口づけを落とし立ち去ったミーアは火に油を注いだことに気づいていない。
「ダミアン、事情を話そうか。こそこそと動いているよね?」
「気のせいだろ」
「僕はイライラしてるんだ。さて、」
ダミアンはミーアよりも腕を組んで、聞いたことのないほど楽しそうな声を出すロットが怖い。爽やかな笑みを向けられ、ゆっくりと口を開く。ロットの初恋に腹を抱えて笑ったのを気付かれたくないがダミアンはロットに敵わない。そして嘘をつくと恐ろしい報復を受けるのも身をもって知っている。
ミーア発案の初恋応援計画を聞いたロットは冷たい空気で極上の笑みを浮かべた。
「僕の初恋を応援か。婚約者の願いは叶えないと甲斐性を疑われるよね。もちろん協力するよね?結末は同じだよ。優しい幼馴染に感動したよ」
ブリザードを出す幼馴染みにダミアンは頷く以外の選択肢はなくミーアは悪友の裏切りに気づかずに夜会を楽しんでいた。
ララがダミアンを探しているのを見つけて、どうすればダミアンからロットへ鞍替えするか考えはじめる。
「ミーア、ロットが探してたけど」
「ダミアンとお話してますわ。大事なお話でしょう。殿方はいつも楽しそうで羨ましいですわ」
「ミーアもいつも楽しそうじゃないの」
「どんなときも楽しまないと」
「やりすぎてロットに怒られないようにね」
ミーアは友人から渡されたグラスを受け取りワインに口をつける。
ミーア達がやらかせばロットが収めるのは常識である。友人の言葉にミーアは曖昧に微笑みすでにダミアンがお説教を受けているとは口に出さない。
好みのワインをゆっくりと飲み干すと頭の中に鐘が響き閃きが浮かび妖艶に微笑む。
「今の私は公爵令嬢に見えませんか?」
「ええ。でもこの中にミーアを知らない者はいないわ」
「そうですね」
ミーアは目の前の友人を期待をこめて見つめる。
「ララ様にロットの良いところをお伝えしたいのですが」
「彼女はダミアン目当てでしょ?堅物のロットは無理よ」
「私は純真な令嬢がダミアンの餌食になるなんて…」
「ダミアンが盗られて寂しい?」
「いえ、いつかダミアンの被害者の会ができたらどうしようかと」
「ダミアンもね…。でもロットは貴方の婚約者でしょ?」
「形だけですわ」
「仕方がないから、私が行ってくるわ。楽しそうだし」
「感謝します」
ミーアの友人はララに上品な令嬢のフリをして近づいていく。ミーアの友人も外面は良くても内心は愉快犯ばかりでつまらない貴族社会をうまく渡り合いながら楽しむことへの手は抜かない。どう転んでも愉快なことが起こるのはわかっていた。友人はミーアとダミアンが知らないもう一つの噂を知っていた。
「ミーア、俺達とも遊ぼうよ」
一人になったミーアはダミアンの友人達に誘われ、笑顔でカードゲームに混ざろうとすると寒気に襲われる。
「僕への挑戦?」
ダミアンの友人達は爽やかな笑みを浮かべたロットの登場に真っ青になる。ダミアンとミーア主催の夜会にロットが顔を出すことは一度もなかった。
「冗談ですよ。いらっしゃってたんですね」
ミーアは顔色の悪いダミアンを見かけ、酷いお説教を受けたと察し、どうすれば不機嫌なロットから逃げられるか寒気に耐えながら悩んでいた。
「ミーア、僕は君が一人で夜会に出ているなんて知らなかったんだけど」
ミーアはロットのいない私的な夜会によく参加していた。ロットにパートナーのいない夜会への参加は控えるように言われていたがロットがいるとハメを外せず楽しめない。ダミアンとミーアによる無礼講な私的な愉快な夜会は絶対に秘密だった。バラしたダミアンを睨みたかったが今のロットは要注意でありミーアは曖昧な笑みを浮かべて無言を貫く。
「カードゲームがしたいなら僕達も混ざろうか」
ミーアは笑顔のロットに肩を抱かれ怯えながら頷く。ごまかせるならなんでも構わないミーアは結果のわかるつまらないゲームに参加する。ミーアにとって全く勝てないロットとのゲームをはつまらない。ロットとの遊びは全て自分が負ける結果が見えてしまうからこそ、ダミアン達と私的な夜会で遊ぶのが気に入っていた。
ミーアは夜会が終わりロットに送られながら、お説教がないことに戸惑うもロットは初恋に浮かれて、見逃してくれたと思い直す。馬車で物思いにふけるのはきっとララを思い浮かべていると思い込むミーアはお説教から逃れるためにロットの初恋を急いで叶えなければと背中に冷たい汗をかきながら思考を巡らせる。
***
第4回目の会議が始まった。
「お嬢様、やめませんか?私、罪悪感が」
ララは着飾ってもダミアンに全く相手にされず、夜会でも特別になれずに落ち込んでいた。ララはミーアの友人からロットの話を聞いても興味を持てなかった。ダミアンと仲の良いロットと親しくなり、協力してもらうことさえ思いつかない純真な染まっていないララへの罪悪感でサナは胸が痛かった。
「ララ様に悪い話ではありません。公爵家への嫁入りですわ。それにダミアンの数多いる恋人の一人になりたいなら、ロットのたった一人の恋人のほうがいいのでは?まずはダミアンを諦めていただかないといけませんが」
長い髪を指で弄び、ため息をつくミーアにダミアンが苦笑する。
「計画失敗したからな。一目惚れ作戦?」
「あら?ロットは見惚れてましたわ。本命のララ様は駄目でしたが。匙加減を間違えたダミアンの所為ですわ」
ペチンと扇子で頭を叩かれたダミアンはミーアの肩に手を置いて真剣な顔で見つめる。
「なぁ、本当に婚約破棄していいの?」
「はい」
即答するミーアにダミアンは背中に冷たい汗を流しながら、恐る恐る言葉をかける。
「ロットの相手がララ嬢でなくても初恋を応援する?」
「違うんですか?もちろん悪役令嬢にならないために応援しますわ。ロットはララ様を諦めたんですの?」
「一服盛って既成事実が一番早い」
「犯罪に手を染めたくありませんわ」
「酒で酔わせて二人っきりにするだけだ。場所は俺が用意するよ。ミーアは来るだけでいい。今回は俺が計画するよ。後悔しないんだな?」
「ダミアンどうしたんですか?様子がおかしいですわ。やりたいなら任せますわ」
ダミアンは不思議な顔で見つめるミーアの肩から手を放して静かに部屋を出て行く。悪友が悲鳴をあげるのがわかっても助けられない。
ダミアンは怒らせてはいけない男を怒らせたことを後悔していた。そして、廊下に佇んでいるかつてないほど怒っている幼馴染みに恐怖する。
「僕も甘やかしすぎたかな。言質取ったしいいよね?ミーアも誰が相手でも応援してくれるみたいだし。優しい幼馴染みに恵まれて幸せだよ。楽しみだよね」
ダミアンは極上の笑みを浮かべてミーアの父親に会いにいくロットの背中を見ながら逃げるように言おうか迷った。ただロットがミーアを逃さないのはわかっていたので保身のために思い留る。これ以上刺激して被害を被るのは避けたい。
ダミアンは愉快なことは好きでも荒事には手を出さない。匙加減を間違えて身を滅ぼす遊びには関わらない。遊び人のダミアンもルールの上で遊んでいる。
地雷を引き当てたのは初めてでさらに踏みあてそうな大事な悪友に好物でも用意するかと、侯爵邸に帰り手配を始めた。
ミーアはダミアンの不審な様子は気にせず、乗り気ではないサナと共にさらなる緻密な計画を考えるのに夢中になっていた。