愉快な令嬢の遊び 前編
公爵令嬢ミーアの婚約者は同じ公爵家嫡男のロット。最近ロットは愛らしい容姿を持つ伯爵令嬢ララに夢中らしい。ミーアはロットとは幼馴染だが恋心はなく、婚約破棄されても困らない。社交界で爽やかで優秀なロットの婚約者と羨まれても胸の高鳴りもときめきも覚えた経験はない。令嬢や貴婦人がうっとりと爽やかな笑顔に見惚れるのを眺めるほうがよっぽど胸が高鳴るミーアである。女性受けする容姿なのに浮いた噂が一度もなかったロットの初恋をせっかくなので応援しようと決めたミーアは協力者を自室に集めた。
突然ミーアに呼び出されたのは侍女のサナと従弟の侯爵子息のダミアンである。
「これからロットの初恋を応援する会を結成します!!」
ダミアンは訝し気に、サナは呆れた目を声を高らかに宣言するミーアに向けた。
「なんでお前の婚約者の初恋を応援するんだ?」
「お嬢様、寝言を言うならお昼寝の準備をしましょう」
ミーアは非協力的な二人をジロリと睨む。
「本気ですよ。ロットは伯爵令嬢のララ様に恋をしました。私は友人として応援してさしあげたいのです」
付き合いの長いサナはミーアがお友達のために優しさで動く善人でないとよく知っている。
「お嬢様、本音をお願いします」
「流行の悪役令嬢になりたくありません。私の美人で簡単に言うと男性受けする容姿も公爵令嬢という身分もそっくりですよ。私は斬首も暗殺も家の取りつぶしも嫌です。愉快なことは好きですが荒事は嫌いです。潔く手を引き、ロットなんて喜んで差し上げますわ」
憂いをこめた吐息を溢し、目を細めて切ない笑みを浮かべ紅茶に口をつけるミーア。失恋に心を痛めつい手を伸ばし慰めたくなるような男心をくすぐる仕草にダミアンが口角をあげる。
「ミーア、具体的にどうするつもりだ?」
「ダミアン様!?」
「サナ、絶対に一人でもやるよ。それなら協力した方がいい。それにこうなったら楽しもうぜ。ロットはどうするかな」
ダミアンとミーアは悪友であり二人の悪戯を止めるのはロットだけ。ロットがいない二人を止めるすべはサナにはわからない。ミーアは顔色の悪いサナの口元に一枚のクッキーをあて、ゆっくりと食べさせながら、切ない声で呟く。
「まずはララ様と親しくなりたいんですが・・」
「ミーアそれはおかしい。友人の婚約者を奪うなんて正常な思考な人間はできないだろう」
ニヤニヤしているダミアンを見てミーアは目を閉じ考え込むと頭の中に鐘の音が響く。
残念ながら、友人だろうとなかろうと婚約者のいる人間に横恋慕する正常な思考の者はいないと突っ込むロットは不在。ミーアは先ほどまでの憂い顔とは正反対のニヤリと人の悪い笑みを浮かべサナは寒気がした。
「なら、ダミアンが仲良くなって協力してあげてくださいませ。サナは伯爵家の侍女試験受けましょうか」
「お嬢様!?」
「糖分も補給してもう頭は働くでしょ?まだ足りないなら好きなだけ食べなさい。お父様にはお使いを頼んだと言っておきますわ。お父様も家のことも気にせず。私の侍女が伯爵家ごときの試験に落ちるなんてことはないわよね?」
サナは首を傾げ目を細めるミーアの笑顔の圧力に負けて頷く。残念ながらミーアは能力が高く謀は両親よりも得意である。公爵はいつも事後報告を聞き頭を抱え介入すると悪化し、ミーアが公爵家の不利になることはしないと気付いてからは不干渉を決め込んでいる。
「ミーア、サナがいないと困らないか?」
「多少の不便は目を瞑ります。私が侍女試験を受けるのも楽しそうですが」
「社交があるから無理だろう?時々俺の侍女の振りをして紛れればいい。俺が友人としてララ嬢に近づくよ」
「ダミアン、匙かげんを間違えないで下さい。彼女の相手はロットです。間違っても落としたり落とされたりしないでください」
「任せろよ。俺はロットを敵にまわすつもりはない」
「この作戦は三人の秘密ですよ。さてー週間後にここで報告会ですわ!!」
「ミーア、お前は暇じゃないか?」
「仕方ありませんわ。私はダミアンがララ様に近づかないと出番はありませんから。そのかわり、ダミアンの仕事は手伝ってさしあげますわ」
「わかったよ。さて、久々にやるか」
「はい。勝利は私達の手で掴み取りますわ」
ハイタッチしている楽しそうなミーアとダミアンを見ながら、サナはため息をつく。サナの主はミーアなので、主の意向に沿う以外の選択肢はない。
***
サナが伯爵家の侍女試験を受けダミアンがララに近づいている頃ミーアは恐怖の時間に襲われていた。自分がいなければロットがララをエスコートすると思い付きミーアは夜会を体調不良を装い欠席した。
弱小伯爵令嬢のララがロットと同じ夜会に招待されていないのは久々の楽しい遊びに興奮したミーアは気づいていなかった。
夜会の翌日にロットが初めて体調不良で欠席したミーアを訪ね、優雅にお茶を飲む姿を見て安堵の笑みを向ける。
「ミーア、元気そうだね」
「一晩休みましたら元気になりました」
「本当に?」
「はい。ご心配ありがとうございます」
「そう。次の夜会はドレスを贈るよ」
「かしこまりました」
ロットは頻繁にミーアにドレスを贈る。表面的には婚約者としての甲斐性と家の財力をアピールするために。本当の理由は、商談を有利に進めるためのドレスや装飾品をミーアに身に着けさせ、商談相手の気を引いたり反応を見たり、機嫌を取るためとミーアは知っている。ミーア達は婚約者でも単なる幼馴染みで一部の婚約者達のように恋や愛とは一切無縁である。ミーアはまた何か駆け引きがあるのだろうと相槌を打つ。
「そういえば、サナは?」
ミーアはいつも側に控えるサナがいないのをどうごまかすか悩みながはお茶を口に含む。多忙なロットの訪問は予想外である。先触れもなく突然部屋に現れたため心の準備もなく、優雅にお茶を楽しんでいた姿を見られ仮病のフリも諦めた。当分は夜会でしか会う予定がなかったのでサナの不在はバレないと油断していたミーアは憂いの帯びた顔を作る。
「サナは体調を崩し休ませております」
「珍しいね。次に会うのは夜会かな」
「そうですわね。お気をつけてお帰りくださいませ」
「え?」
不思議な声を出すロットにミーアは首を傾げる。
「どうされました?」
「いや、ミーアまたなにか企んでいたり?」
「しませんわ。一つだけお願いがあります」
「お願い?」
「もし好いた方ができれば教えてください。私は全面的に協力しますわ」
憂いを帯びた顔のまま非常識なことを言うミーアをロットは静かに見つめる。
「君は僕の婚約者だろう?」
「はい。ですがこの婚約はお互いの家に利はあまりありません。ロットが違う相手と結ばれたいなら私は快く協力しますよ」
ロットは子供に言い聞かせるようにゆっくり言葉をかける。
「この婚約はお互いの気持ちで破棄できるものではないよ」
ミーアは真面目なロットの手を握り優しい笑みを作り念の為保険を掛ける。残念ながらいくら考えても二人の婚約の利はミーアにはわからない。ただミーアのために必要と両親が言い、ロットも納得できる答えをくれない。爽やかと評される穏やかな笑みを浮かべ互いにとって必要と言葉を濁すだけ。
「私はいずれロットが話してくれることを待ってます」
「え?」
「では、そろそろお帰りください。忙しいのに訪ねてくださりありがとうございます。ですが今後はお見舞いはいりませんわ」
ミーアはロットの手を放し笑顔で手を振り送り出す。ロットがミーアの机の上にある書類の山に目を止めたのは気づいていなかった。多忙なロットが立ち去りミーアはベッドに倒れこみ、全身のじっとりとした汗に仮病が真実になりそうなので、鋭気を養うために目を閉じた。
***
ミーアはサナからララの参加する夜会の情報を手に入れた。嬉々として招待状を手に入れロットを誘って夜会に参加を決める。もちろんダミアンを誘うのも忘れない。
初めてミーアから夜会に誘われたロットは小規模で力を持たない貴族ばかりの夜会に興味を持つ理由が一切見つからない。
上機嫌でロットの腕を抱き、ララを探して視線を彷徨わせているミーアの耳に囁く。
「ミーア、目的は?」
ミーアはララとサナを見つけて微笑み、ロットの声に我に返り、扇子で口元を隠して声に甘みを持たせて耳打ちする。傍から見れば仲睦まじい婚約者同士の語り合いで悪巧みには決して見えない。
「欲しい情報があります。別行動しませんか?」
「手伝うよ」
「私、そろそろ独り立ちを」
「夜会で一人にはさせられないよ」
爽やかな笑みを浮かべるロットにミーアは上品な笑みを返し心の中で落胆する。ミーアは真面目なロットが夜会の時は側から離れないことを失念していた。ロットが離れるのは身内が側にいる時だけ。ミーアの計画に支障が出るため、真面目な幼馴染を引き離す方法を悩んでいると、ダミアンを見つけて口角を上げる。扇子で顔を隠していたためロットはミーアの人の悪い笑みには気づかない。
「ダミアンがいるのでお気遣いいりませんわ。ロットはご自分のお役目を優先してくださいませ」
ミーアはロットの頬にそっと口づけを落とし、手が解けた隙に颯爽と上機嫌な笑みを浮かべて離れる。これからの隠れて愉快に観察する楽しい時間の始まりに心の中でスキップしながら優雅な足取りで令嬢に囲まれるダミアンを目指す。
上機嫌に足を進め人の波に紛れたミーアを追いかけようとするロットにララがつまずき姿勢を崩して突っ込んだ。
「申し訳ありません」
「いや、大丈夫?」
「はい。ありがとうございます」
胸に飛び込み顔色を青くするララを優しく抱き止めロットは穏やかな笑みを浮かべ、礼をして離れる姿をミーアとダミアンが隠れて眺めていた。
「ダミアン、ロットはヘタレですか?どうして、ダンスに誘わないんですか!?」
「ロットは踊らないだろう?」
「忘れてましたわ。いつも商談ばかりで、私はロットの商売道具。ダミアン、せっかくですから踊りましょう」
「あの二人は?」
「後日作成会議しましょう。興醒めですわ。エスコートしてくださいませ」
愉快な観察計画はロットのヘタレのおかげで台無しである。ミーアの胸の高鳴りを返してほしいと不満は口に出さない。計画を失敗したためミーアは意識を切り替え違う愉快なことに目を向ける。今日はミーアが誘ったのでロットの商談に付き合う必要がない久々に楽しめる夜会。他の男が聞けば、頬を染めるような甘い声でダンスをねだる悪友にダミアンはニヤリと笑う。ダミアンが熱を帯びた顔で跪き恭しくダンスを申し込むとミーアは頬をほのかに染めて恥じらいの笑みを浮かべてゆっくりと手を差し出す。二人は自分達に集まる視線や囁き声に微笑みを浮かべ見つめ合いダンスのステップを踏む。
ダミアンとミーアが楽しそうに会場の視線を集めながら恋人同士のように踊っている姿を見つけて、ロットがため息をつく。
ダンスが終わり、ミーアの手を取り口づけを落としキザな挨拶をキメようとするダミアンからロットが婚約者の腰を強引に引いて引き剥がす。
ロットは従姉弟でもこれ以上あらぬ噂を立てられるのは避けたい。もともと二人は仲が良すぎると囁かれている。
ミーアとダミアンは噂に惑わされ喧嘩を売る貴族達にやり返すのを愉快な遊びと楽しんでいると知っていてもロットは楽しめない。
「僕とも踊ってよ」
「ダミアンと」
ロットに腰を抱かれたミーアはダミアンと踊っていたかった。ダミアンとリードの奪い合いをしながら踊るダンスは楽しく、マナー違反なので他の相手とは踊れない。ミーアにとってロットと格式通りのダンスはダミアンほど楽しくない。笑顔で嫌がり甘えた声を出すミーアにロットは周囲が息を飲むほど綺麗な笑みを浮かべる。
「ミーア、放っておいてごめんね。ダミアン代わりをありがとう。あとは任されるよ」
ミーア達はロットの笑顔を見て、寒気に襲われる。ロットが二人を説教する前に浮かべる笑みだった。
ダミアンは礼をして自然な動作で鮮やかに逃げる。ミーアは自分を置き去りにして逃げたダミアンへの文句を我慢して、怖い笑みを浮かべるロットに微笑み手を差し出しす。
「光栄ですわ」
ロットはミーアの手に口づけを落としダンスを踊る。
端正な容姿のミーアとダミアンの軽やかなダンスに魅入っていた貴族達は、息の合った優雅なダンスを披露するロットとミーアに感嘆の声を漏らす。ロットは仲睦まじい様子を見せつけて、周囲の反応を見ながらミーアとダミアンの遊びを潰せたと安堵の笑みを浮かべる。
ミーアはロットの意図がわからなかったが二曲目のゆるやかなワルツを踊っていると頭の中に鐘の音が響き閃く。ララと踊るために自分とダンスの練習をしていると気づき自然な笑みをこぼす。いつもしっかりしているロットが初恋相手には奥手な姿が愛らしく全く可愛げのない幼馴染を初めて可愛いと思った瞬間だった。
「ロット、私は疲れましたので先に帰りますわ。私は気にせず最後まで楽しんでください。ロットのダンスも素敵ですわ。自信を持ってくださいませ」
「帰ろうか。今日はミーアの付き添いだ」
「ロット、遠慮しないでくださいませ。私は貴方の初恋を応援してますわ」
「初恋?」
「私はお見通しですわ」
「ようやくか」
照れた笑いをする可愛げを覚えた婚約者にミーアは優しく微笑み返す。よくよく考えれば真面目なロットは婚約者に恋の相談はできないだろうと気の利くミーアはさり気なく協力してあげることを決めた。落胆のあとに訪れた愉快なことにミーアの胸が高鳴り、頬が興奮でほのかに染まり、うっとりと決意表明する。
「はい。私にお任せ下さい。失礼しますわ」
ミーアは極上の笑みを浮かべて離れようにも、腰を抱かれた手が離れない。ミーアがロットの顔を見上げると口元を緩ませ固まっており嫌な予感がした。ロットは執念深い。ダンスの前のロットのお説教前の笑顔を思い出し楽しい気分は霧散し背中に冷たい汗が流れる。ミーアはロットの初恋よりも保身が優先である。
ミーアはロットのお説教がさらに長くなるのは避けたいので、おとなしくロットに従う。ロットにエスコートされ、馬車に乗ると抱き寄せられ、二人っきりの密室で逃げられないように捕まったミーアはお説教を受ける覚悟を決める。決めても逃げ出したダミアンへの苦言と罵倒を心の中で呟くのはやめられなかった。
「ミーア、いいかな」
断ればさらにお説教が長くなるのをミーアはよく知っているのでゆっくりと頷く。
ダミアンへの苦言で興奮し、頬を染め拳を握っているミーアの反応にロットは笑みを浮かべ頬に手を添えてそっと唇を重ねる。ミーアは興奮し過ぎたため殊勝な顔を作るのに目を瞑って集中していた。ロットのお説教には反省した態度が絶対に必要であり、ダミアンへの止まらない苦言を抑えるために必死だったミーアはしばらくして、唇に何かが触れてることに気づいて目を開けると正面にロットの顔があった。
唇が離れてほのかに頬の赤いロットをじっと見つめると馬車が止まり、別れの口づけを頬に落とされる。
「ミーア、またね。おやすみ」
「おやすみなさいませ」
ミーアはロットに礼をして自室に向かいながら、お説教をしないロットの行動に首を傾げ会話を思い出す。初恋を認めた奥手なロットが自分で練習をしたと気づき、ダンスにも誘えないのに口づけの練習をするほど、焦っている姿にミーアは可愛げを覚えた幼馴染のために初恋応援計画を綿密に立ててあげることにした。
ミーアは善人ではないが幼馴染の幸せを願う程度の優しさは持っている。計画は失敗してもお説教は回避される。これからの愉快な遊びに笑みを浮かべてベッドに入り目を閉じる。
この状況を見て、的確に突っ込みを入れるサナはいなかった。
***
ミーアの部屋にはダミアンとサナが呼び出されていた。
「報告会を始めます。ロットは初恋を認めました。完璧なロットも初恋には初心ですわ。ダンスにも誘えず空回りばかりです。これは綿密な計画が必要ですわ」
「ロットが初心って…。ありえないけどおもしろそうだからいいか。ララ嬢はロットを意識していない。やたらと絡まれるんだけど」
「ダミアン様は伯爵令嬢からすれば理想の婚姻相手ですよ。ララ様はダミアン様に好意を持ってます」
サナの言葉にミーアがダミアンを睨み扇子で頭をパコンと叩く。
「ダミアン、匙加減を間違いすぎですよ!!ロットとララ様でお茶でも、いえ買い物?どうすれば二人に、接点が…。弱小伯爵家は公爵家とのお付き合いはありません」
「ミーア、もう小説通りにやるか?お前がいじめて、ロットが謝罪ついでに近づけば?」
ミーアは自分の保身が一番。ただ初めて可愛げを持った幼馴染を愉快に応援するのも魅力的に思えた。匙加減さえ間違えなければ問題ないと判断しダミアンを扇子で叩くのをやめて頷く。
「法に触れなければいいんですよね。私はララ様とダミアンを取り合いましょう。ダミアンの失態を利用するしかありませんわ」
「お嬢様、醜聞になります」
「いざとなればダミアンに嫁ぎますわ。私はお飾りの妻は大歓迎です。夫人としての務めもできますわ。愛人でも好きに飼ってよろしくてよ?」
楽しそうに扇子を開いて首を傾げるミーアにダミアンがそっくりな笑みを返す。
「まさに悪役令嬢。でもやりすぎると母上達がうるさいから私的な会でやるか」
「私もお友達を集めますわ。ダミアンの邸のほうがララ様は足を運びやすいですわね。楽しみですわ」
サナは茶番はやめてほしかった。楽しそうな顔で話を纏め終えてハイタッチしているダミアンとミーアの婚約は無理である。二人の両親は愉快犯のミーア達を野放しにしない。そして二人は婚姻できない事情も。
サナは結末はわかっていても、付き合うしか選択肢はなく与えられた自分の役割りに心の中で嘆く。二人の悪だくみで、いつも一番動かされているのはサナだった。
***
ララはダミアンに憧れていた。弱小伯爵家と侯爵家のダミアンは社交で会うことはほとんどない。
ダミアンに会いたいララは偶然友人が手に入れたロットの家の夜会に頼み込んで同行させてもらった。ロットの家は定期的に様々な身分の者を集め盛大な夜会を開いていた。
ロットが緊張しながらダミアンを探す挙動不審なララに話しかけ気遣う姿をミーアはロットの母親と眺めていた。公爵夫人はミーアで遊ぶために、「ロットはあの令嬢に夢中かしら?」と呟き、他の夫人達もノリノリで肯定する声に動揺もなく相槌を打つミーアが公爵夫人達の冗談を信じたとは誰も気づいていなかった。しばらくするとロットが母に預けたミーアを迎えに来た。
「ロット、楽しめました?」
「充分な成果を得られたよ。これ新作だって。あげるよ」
ミーアは商談のあとに戦利品という名の貢物をよく贈られた。笑みを浮かべて受け取ったものは、伯爵令嬢と公爵子息の恋愛小説。夜会でほどよく酔っていたミーアは家に帰りブランデー入りの紅茶を飲みながら小説を読むと悪役令嬢が自分にそっくりな容姿と身分で驚く。後日読書好きの友人に悪役令嬢の登場する小説の話を聞きたいと頼むと、うっとりとストーリーを語る友人の話を聞けば、聞くほど嫌な予感がミーアを襲う。平凡なミーアは賢いロットに敵わないと知っている。巻き込まれないためには初恋を叶えるのが必須とダミアン達を呼び寄せることを決めた。ミーアの呟きを聞いた友人は愛には障害はつきものよねと油を余念なく注ぎ込んだ。
読んでいただきありがとうございまさ。
ご都合主義のぶっ飛んだ人物ばかりですがもう少しだけお付き合いください。