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28.一番

 念のため、式神を配備していたこともあったが――その後、アーシェとミシアにエルデンが何かちょっかいを出すことはなかった。

 合図を出したのは、おそらくクルスに何か吹き込まれていたのだろう。

 けれど、それも不発に終わって、彼も諦めたようだ。

 護衛であるクルスは、その日のうちに職務から離れたようだが。

 ――片足を失って、この仕事を続けるのは無理だ。

 帰りの時間、私がいつものようにアーシェを迎えると、彼女はいつもより嬉しそうだった。


「どうかされたのですか?」

「実は今日、友達ができたの」

「! それは……とても良いことですね」


 私は必要以上に喜ぶような仕草を見せはしなかった。

 ただ、純粋に――アーシェの口から『友達ができた』という言葉が聞けたことが、嬉しい。

 相手のことはすでに確認しておいたが、私はアーシェに尋ねる。


「どんな子ですか?」

「ミシアって言ってね、ちょっと気弱な感じはあるんだけど……いい子だと思う」

「そうですか。お嬢様からお声がけを?」

「ん、まあ……色々よ! セシリアに言われたから、ちょっとだけ頑張ったの」


 アーシェは少し恥ずかしそうにしながら、キッカケについてははぐらかす。

 わざわざ、私に言われたかどうか――そんなことを口にする必要はないのに。

 けれど、まずは一人でも十分だ。

 アーシェと仲良くしてくれる子がいる――それだけで、セシリアにとっては喜ばしいことなのだから。


「ありがとうございます。お嬢様ならお友達をもっとたくさん作れると思いますよ」

「そんなにたくさんはいらない」

「どうしてです? お友達は多い方が、きっと学園での生活も楽しくなりますよ?」

「いい人ばかりじゃないだろうから」


 ――おそらく、エルデンのことを言っているのだろう。

 確かに、授業中に何か因縁があったと思われる相手だ。

 もちろん、私も誰とでも仲良くなれ、とは言わない。


「お嬢様がお友達になれる、そう思った相手でいいんですよ。それだけで、きっとたくさんできますから」

「……適当なこと言わないで。それに、わたしはたくさん友達を作るより、少なくても、仲のいい子がいる方がいい」


 なるほど、そういう考え方もあるか。

 寮へ戻る道――アーシェがセシリアの手を強く握る。


「どうかしましたか?」

「……ミシアも友達になったけど、セシリアが一番の友達だから」


 アーシェの言葉に、私は目を丸くした。

 どうやら、他に友達を作ったことで私が何か不満を抱くかもしれない――そんな心配をしているようだ。

 思わず、愛しくなって笑みを浮かべる。

 私は、優しく彼女の手を握り返して、


「私にとっても、お嬢様は一番ですよ」

「うん、だから、絶対にいなくならないでね?」

「どうしてそんな心配をするんです?」

「だって、セシリアのお願いだけど、友達……できちゃったから」

「友達は増えたからって簡単に減ったりしませんよ?」

「うん、分かってるけど……」


 ――とはいえ、アーシェにとっては心配なのだろう。

 そんな彼女のことを、私は抱えるように歩き出す。


「わっ、急になに……?」

「お嬢様から離れません。約束します」

「わ、分かったから、下して」

「大丈夫です。誰も見ていませんから」

「……なら、いいけど」


 そっぽを向きながらも、アーシェは満更もでない様子だった。

 ――始まったばかりの学園生活は順調で、アーシェのこれからには期待しかなかった。

 だって、出会った頃はあんなに人と交流することすら拒んでいたのに。

 今のアーシェなら、もう大丈夫だと思えた。

 ――私が騎士団の本部から呼び出しを受けたのは、その夜のことだった。

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