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18.上手くやっていけるかどうか

 学園内の庭園は広いが、よく手入れが行き届いている。

 美しい花々は見栄えがよく、この学園がお嬢様学校であるということを改めて認識させてくれた。そこに現れたクルスは、


「可愛らしいメイド服ですねぇ、お似合いですよ。ところで、どうしてあなたがここに――あっ、思い出しましたよ。フレアード家の護衛の任務に就かれたんでしたねぇ」


 くつくつと笑いながら、私に笑顔を向けて言う。

 彼もまた騎士団に所属する魔術師エージェントであり、任務を共にしたことはほとんどなかったが、私とは同僚という立場にはなる。

 執事服を身に付けているところを見ると、彼もまた護衛としてこの学園にやってきた――というところだろう。

 いや、ひょっとしたら私より早く護衛の任務についていたのかもしれない。

 だが、私にとってはどうでもいいことであった。


「はい、それでは仕事がありますのでこれで」

「おやおや、つれないですねぇ……。僕とあなたの仲ではないですか」

「私はあなたと仲が良かったことはないと思いますが。それに、お互いの立場が分かるような言動が控えた方がよろしいかと」

「それは確かに。ふふっ、ただ一つ可哀そうだと思いましてね?」

「……可哀そう? 誰がですか?」

「もちろん、あなたのことですよ。わざわざフレアード家の護衛など押し付けられて……それを受けたと聞いた時は驚きましたがねぇ。なにか、弱みでも握られたのですか?」


 クルスの言葉に、私は鋭い視線を向ける――前に、一呼吸。

 穏やかな笑みを浮かべて、彼に言葉を返す。


「ふふっ、私は仕事を選ばない主義でして。優秀な魔術師であれば、たとえば『家柄』などで仕事を拒否したりはしませんから」


 私がそう答えると、笑みを浮かべていたクルスの眉がピクリと反応を見せる。

 初めから私のことを煽るつもりでここにやってきたのだろう。だが、そんなことで一々反応するほど、私は子供ではない。


「確かに、優秀な魔術師はそのような理由で仕事は選びませんねぇ。はい、その通りです」

「でしょう? では、私は忙しいので」


 私はクルスに背を向ける。

 背中から感じられるのは、殺気にも似た視線――余裕な笑みを浮かべていた彼が、私に怒りを向けているのが分かった。

 それでも、わざわざ振り返ることはしない。

 学園内で手を出してくるようなことはないし、仮にも彼は味方の立場である。……とはいえ、魔術師というのはどこまでも自分本位な人間が多いのは事実だ。

 クルスがわざわざ私に話しかけてきたのは、牽制の意味も込められていたのだろう。

『自分の方が優秀だ、だからお前はフレアード家という外れを任されたんだ』、と。実にくだらないプライドでしかない。

 私はそんな気持ちでこの任務を受けたわけではないし、そもそも魔術師になったわけではない。――いや、魔術師になった時のことで言えば、私は魔術師になりたかったわけでもない、というのが正だろうか。

 けれど、今ここに私がいる理由は一つ。アーシェのために、私はここに来ることを選んだのは事実だ。

 懐から一枚の式神を取り出し、私はそれを飛ばす。真っ白な蝶の姿をしたそれは、庭園付近にやってきたアーシェを見守ってくれることだろう。


「アーシェ様は、上手く馴染めているでしょうか……」


 ここに来てようやく、私はその心配を口にすることができた。

 何よりも心配なのは彼女自身――ようやく私に心を開いてくれたくらいで、果たして学園で上手くやっていけるのか、とのことばかり考えてしまっていた。

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