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10/30

10.約束

 家に戻って、私はアーシェを連れて浴室の方へと向かった。

 服も汚れてしまっていたので、一度身体を洗うことにしたのだ。

 アーシェは特に嫌がる素振りも見せず、素直に私の指示に従って服を脱いだ。

 純白の肌を見て、私は思わずポツリと呟く。


「お綺麗ですね」

「……そんなことない」


 否定はするが、やはり嫌がっている様子はなかった。

 私もその場で服を脱いで、裸になる。

 すると、私のことを見て、アーシェは少し驚いた表情を見せた。


「傷、すごい」

「ああ、これですか。大分昔のものですが。まあ、事故みたいなもので」


 肌に残る傷のいくつかを見て、そんな風に思ったようだ。

 特に大きなものになると、『背中』の傷は目立つだろう。

 これらは全て『仕事』によって負ったものであるが、わざわざ彼女に教える必要もないことだ。

 先ほどお風呂に入ったばかりだから、髪は軽く洗い流すだけでもいいだろう。

 お湯の準備をしていると、


「……どうして、助けに来てくれたの?」


 そんな風に、アーシェが切り出した。


「先ほどお答えした通り。私はお嬢様の世話係だからです」

「それだけで、あんなことする人なんていない。ううん、いなかった」

「では、私はお嬢様にとっては『初めての世話係』ということになりますね。あれくらいのこと、私ならば造作もありません」


 だから気にすることなどない――そういう意味で言ったつもりなのだが、アーシェは暗い表情のまま答える。


「……ごめんなさい」


 そんな謝罪の言葉だった。

 謝る必要などないのだけれど……これは彼女なりのけじめなのだろう。

 だから、私もそれを受け入れる。


「はい、大丈夫ですよ。お嬢様に怪我がなくて、私は嬉しいです」


 笑顔で答えるが、その後に言葉は続いてこない。

 私はアーシェの身体を流し始める。今までの態度もあってか、私に対してどう接したらいいのか分からない、という様子だ。

 それならば、以前のように私の方から歩み寄るだけでいい。


「ですが、夜道に一人で出歩くとああいう輩に出くわすことになります。今後はこのようなことがないように」

「……うん」

「まあ、私も反省するところはあります。危険な時に、お嬢様の傍にいられませんでしたから。なので――今日からです。今日から、私が傍で貴女を絶対にお守りします」

「……守るって、世話係なのに?」

「ふふっ、私は腕に自信がありまして……まあ、あれくらいの男達なら私の実力なら指一本でも倒せます」

「! 本当に? セシリアはそんなに強いの?」

「はい、強いですよ。私はこの国の誰よりも強いので。そんな私が、今日からお嬢様を絶対に守ると言っているのです。もう怖い思いはさせません――約束しますよ」

「……約、束」


 その言葉に、アーシェは少し戸惑いを見せているようだった。

『ずっと一緒にいる』――そう約束した母親すら、彼女の前からいなくなった。

 仕方のないことだったとしても、唯一の拠り所であった母の存在は、アーシェにとっては大きすぎるのだろう。

 だから、そうだ――まずは私が、彼女の拠り所にならなければならない。


「私は嘘を吐きません。たとえ世界を敵に回したとしても、私が貴女を守り抜きます」

「……っ。本当に、信じていいの?」

「はい、信じてください。何があっても必ず、です」

「……そこまで言うのなら、うん。セシリアは、わたしを助けてくれたから。わたしも、あなたのこと、信じる」


 どこかぎこちないけれど、アーシェがそう答えてくれた。

 メイドとして彼女の傍について一週間。ようやく、私は彼女に認められたのだった。

『たとえ世界を敵に回しても守り抜くメイド』と『たった一つの拠り所ができた令嬢』の百合の図がようやく完成したので満足……している場合ではないかもしれない。

次回からはちゃんと百合が始まるはずだ……!

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― 新着の感想 ―
[一言] 第10話にして…1週間かかって漸く、お嬢様の心の扉の鍵を開けられた…良かった~(喜) でも、ある意味ここからが本番ですネ…そろそろ、他の登場人物たちが色々と…(微笑)
[良い点] なんて素晴らしい……! これから二人がどんな進展を迎えるのか楽しみでしかたありません! [一言] 更新いつも楽しみにしています!
[良い点] 10話にして百合成立!これが長かったとなるか早かったとなるかは今後の展開次第ですが、ともかくめでたい! この調子で絆を深めていただきたい…互いへの想いのズレが同調律100%いくまでは続いて…
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