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5 切望の言葉

「……る――。ね――る……。ネル!」


 誰かが呼んでいる。

 深い眠りを妨げられたかのように、重い瞼を開いた。

 いつかと同じ――いや似ている光景があった。月のような蒼い眼が、ネルを見下ろしている。陶器のような綺麗な肌にはところどころ傷ができていた。


「アンリ……」

「私もいるぞ」

 目を動かし、ノノリルの姿を捉えた。

「やあ、先輩」

「よう、後輩くん。頑張ったな。お疲れさま」

 一瞬なんのことか理解できなかったが、すぐに思い出した。さっきまでマリナヴァルと戦っていたことを。最期のその顔を。

「僕は勝ったの?」

「マリナヴァルを倒したのはたしかよ。よくやったわね」

 核もない状態で。

 アンリはそう告げた。


 しかしネルは驚かなかった。そのことを知っていたからだ。マリナヴァルに胸を貫かれたときに抱いた違和感。決定的だったのは、アンリを解放したのに力が戻らなかったこと。そのときに『死』を受け入れた。

 存外、怖さはない。むしろ懐かしささえあった。この感覚を――消えていく感覚をネルは以前にも経験している。


「どうにもならないの?」とノノリル。「失った左半身を戻せば、まだ一緒にいられるんじゃないの?」

「……無理ね」

 アンリが空けた少しの間が、ネルの心中を察したことを物語っていた。やはり蒼い瞳はすべてを見透かしているかのようだ。

 また左半身を失ったことが、なにより終わりを告げている。本当ならばあのとき、あの場所でアンリに出会わなければ始まってもいなかったのだ。あるべき姿に、結果に戻ってきたとも言える。


 元の世界で、できなかったことをできた。

 本気で喜び、本気で怒り、本気で哀しみ、本気で――楽しんだ。

 これでもかと自分を曝け出し、同じような人と対峙した。

 生きることに全力を尽くせた。

 いい夢を見ることができた。


 ネルは蒼い瞳にすっと視線を向ける。

 その名前を堪え、息の絡んだ声で言う。

「アンリは幸せ?」

「……わたしは、幸せなんかじゃないわ」

 思ったとおりの答え。

 これ以上ない答え。


 しかしそのあとに続いた言葉は予想外で、思いがけないもので、それを聞いてネルは微笑んだ。笑った。声もなく、ほとんど意識もなかったが、でもたしかに笑えたのだ。そう言い切ることができるほどに心が満たされたのだった。


「でもね、あなたに会えたことは幸せだったのよ」

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