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4 賢者

 そこは薄暗い部屋だった。扉の反対側の壁に大きな窓があるが、カーテンが光を遮り、僅かな隙間から差し込む程度だった。開け放たれていないのは、その部屋に多くの本が貯蔵されているからだ。壁に沿って天井に届くほどの本棚が並び、もともとの設計で本棚が壁になっているかのようだった。


 窓の前には立派な書斎机があった。その上にも本が積み重なり、並び、本来の広さを奪っている。本の壁の間に、一人の男が見えた。


「なぜ参加しない!」


 ノックをすることなく部屋に入り込んだ男は、書斎机に近づいていった。その声から、足音から憤慨していることがわかる。


「また同胞たちが殺された!」


「だったら戦うことをやめればいい」


 書斎机の奥から凛とした声が響いてくる。あまりに平淡な声に、憤りが隠せない。むしろ苛立ちは増す。


「戦わなければ、ただ殺されるだけだ……!」


「相手も同じことを思っていれば、どちらかが滅ぶまで終わらない。争いがもたらすのは憎しみと悲しみと技術の発展だけだ」


「あんたが戦ってさえくれれば、憎しみと悲しみは少なくともノワルゲートとの戦いで起きることはなくなる。それはわかっているだろ?」


「私は『知識』を与え、皆を導く者だ。それが役割であり、戦うことはすなわち王たちに逆らうことになる」


「たとえ王のもとに奴らが到達してもか?」


「それでもだ。もしもそんなことがあるのならば、この国がノワルゲートに劣っていた、ただそれだけのこと。人間どうしの醜い争いの一つが、この世界からなくなると思えば、悪いことではない」


「あいつらは人間じゃない!」


「きみたちがこれ以上手を染めることはない」


 まるで話にならず、男は踵を返した。『賢者』と呼ばれる男には、国民の悲しみや怒りが理解できないのだ。尊敬をし、憧れてもいる。その非凡なる才能に畏怖している。だがその使いどころをまるでわかっていない。


 神を嘲笑う者たちに鉄槌を下さずしてどうする。


 自分の胸に秘められた感情を理解した男は、部屋から出て扉を閉める際に吐き捨てるように言った。


「おれが奴らを裁く」

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