ところでいつ目的地につくんですかね?後輩?
「先輩、夕陽が輝き男女が手を絡めてひと時の逢瀬を噛みしめるこの時をハイパー美少女な私と一緒に通学路を歩ける幸せについてどう思いますか?」
「いきなり後輩がポエマーになって自分の容姿を『ハイパー』などと雑に表現して幸せを強要してくることについて不幸せに思っていますけどぉ?」
「やっだー先輩☆私がフレイヤも嫉妬するほどの美貌だって言いたいんですかぁー私ったら罪な女ねえー」
「ババくせ」
「なんだテメぇぶち転がすぞ」
後輩が頬を引き攣らせて鋭くガンを飛ばしてきたが俺は爽やかに視線を切った。マジなキレ方だった。
「んん。……クレープ食うか?」
「女子は甘い物で釣っとけば機嫌よくなるみたいなやり方やめません?食べますけど!」
チャリンチャリンと小銭を投げると後輩は素早くキャッチしてジト目を向けてきた。
「何か不服かね?」
「え……何この先輩もしかして買って来いって言うんですかご丁寧に二人分に料金じゃないですかなんすかこの先輩可愛い後輩をパシってるんですか、いみふです……。つかマジギレ直後にこの仕打ちなに……?」
ドン引きだった。後ずさりしておずおずと小銭を返そうとしてくる。謝りながら受け取って近くのクレープ店で一番いい物を頼む(イケボ)してきた。
「ふぉれで、私と一緒に通学路を歩けることに幸せを感じないんですか?」
「天丼するようなネタなのか疑問に思いますので審議のため全日本漫才協会にお電話かけますね」
「いやないでしょそんなもん」*漫才協会ならありました。
横断歩道の信号が朱から碧へと切り替わり足を踏み出そうとして、ふと後輩が視線を下に向けていることに気付いた。
「どうかしたのか?」
「いやー小さいころって意味もなく白だけ踏むとかいう謎ルールあったなーって。懐かし~♪」
くるりと回りながら、「よっ」「ほっ」と白の線だけを踏んで渡って行くのを見てどうしようもなく懐かしい気持ちになった。と、同時に自然に笑みがこぼれて自ずと眼が彼女の方へ向く。
「どうしたんですかぁ~先輩。ハイパー美少女な私に一目惚れですか?」
「っ、っは!」
「この野郎盛大に鼻で笑いやがった」
「あー……いやなんか雑に扱ってすまんな」
「どうしたんですか急に。雑なのはお互い様な気がしますしこれでいい気がしますよ?」
「そう言ってくれて助かるわ。正直急に何言ってんだこいつ、今日ついに理性崩壊して狂人と化したのか。ああしまった俺がしっかりしていれば後輩が人の道を踏み外さずに済んだのに、むしろ俺は正気を失う手助けをしてしまった……!と死ぬほど後悔してた……」
「そのまま死ねば?」
「Hey,後輩辛辣すぎないか」
「今日初めて人を殺したいと思いました」
「ストォォォップ後輩!!!オーライ悪かった!俺が悪かった!すいませんでした!」
「よろしいそのまま犬のように這い蹲って足を舐めろ」
「えっあの、すんません勘弁してくださいあの、あの」
「冗談ですよ」 「アッハイ」
「あ、見てください先輩。着ぐるみっぽいペンギンのぬいぐるみです」
「でかいやつで良いのではなかろうか」
「良いんですよぅ伝われば。はいっ後輩ちゃんの一発芸!
ペングイーン」
ペンギンのくちばしをぐいーんと伸ばした。
「っふふ…」
心底くだらなかったせいで失笑してしまった。
とてもくだらなかった。
「お?笑いましたね?笑いましたねー?私の勝ちです!」
「なんの勝負してんだ……」
「いやそれにしても笑うの早かったですね。先輩のことだからもっと溜めるかと」
「俺の笑顔は安くて早いんだ」
「そして旨い!」
「牛丼屋かよ」
「え?ラーメン屋じゃないんですか?」
「ん?」 「え?」
「先輩はす〇家派……と」
「派閥なんかあんのか……?ところで後輩、お前の家いつ着くんだ?くっちゃべりながら大分歩いた気がするんだが」
「あ、ごめんなさい先輩、私の家、逆方向です」
「早く言えよ!」