春の残月
春の残月吹雪に遭ひて
宵明色の空へと流る
所狭しと押し並べられた
達磨が私を見つめる
石造りの大きなそれは
闇夜の中に溶けてしまって
私だけが取り残された
本堂に桜吹雪
両手に溢る夢をのせ
願いの種を一つづつ
叶えては届けては日も暮れた
春の残月吹雪に遭ひて
暁のうち空は白む
所狭しと押し並べられた
陵墓が私を眺める
誰かの想いの詰まるそれは
闇夜の中に浮かび上がって
私と共に明日が来るのを
静かに見守る
両手に溢る愛を載せ
想いの種を一つづつ
叶えては届けては日も登る
春の残月もうすぐ終わり
そして暑い夏が来る
季節の移り変わりは早く
色褪せた私の世界
数百年の時を越えて
誰かの為に力を尽くして
私だけが取り残された
永遠の監獄
身体に溢る時を持ち
願いを賭ける夜空には
何度でも何度でも日が昇る
春の斬月私の月よ
優しさと哀しみの世界よ
跡形もなく散ってしまうのか
春の花たちよ
夜空に高く薫るその香は
私と違い何処まででも
私だけが取り残された
本堂に雨が降る
静かに眠るこのからだ
陽の目を浴びることもなく
いつまでもいつまでもひとりきり
春の残月吹雪に遭ひて
命は土に還りゆく
所狭しと押し並べられた
絵馬が私を苛む
願いと想いの詰まるそれは
闇夜の中でも光輝き
私だけに与えられた
重役の責任
両手に溢る想い載せ
願いの種を一つづつ
叶えては届けては夜は明けた
はるのざんげつあさひにあひて
にげまどひてそらにながる
あたたかくふりそそぐやさしき
あさひがわたしをてらす
さくらながしももうすぐおわり
きせつはめぐりあすがくる
わたしだけがとりのこされた
ほんどうにもかぜがふく
りょうてにあふるきぼうのせ
ねがいのたねをひとつづつ
かなえてはかなえてはきえていく
春の斬月私の月へ
愛と希望と夢の世界
優しきその御心のままに
私を照らし給へ
私に与えられた宿命
いつまでも消えない烙印
私だけが取り残された
本堂に桜吹雪
私に溢るこの役目
願いの種は一つづつ
叶えては届けては夜がくる
春の残月吹雪に逢ひて
宵明色の空へと流る
昨日と今日と明日を望む
あなたが私を見つめる
思いの丈を綴ろうとも
闇夜の中に溶けてしまって
私だけが取り残された
本堂に桜吹雪
両手に溢る夢を載せ
願いの種を一つづつ
叶えては届けては季は巡る
春の残月吹雪に遭ひて
春の斬月吹雪に遭へば
花の香いと美しゅうて
高く空に薫る
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