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後悔しないために大切な事

前回までのあらすじ

 何か井戸に潜ったらおっさんが死んでたよ。

 多分、片目のサダームの正体を知るアイアンパンツっておっさんだよ。


  ◆


「ティールの街へ帰ろう」

 死体を見たザーマス師匠、血相を変え、そう訴えてきた。何とも唐突な話ではないか。

「なんで?」

「まあいいじゃないか」

「そんなんで納得できるか! この廃れた世の中で! こんな世の中を直さなければならないんだ! それがわからないのか、あんたって人は!」

 こちらも唐突に社会への変革に目覚めるウルヴェント。発言に特に意味は無いと思う。

 それでもザーマス師匠は帰りたくて仕方ない様子。ウルヴェントはザーマス師匠の頑なな態度を和らげようと試みる。

「何で戻らないといけないのか理由を述べよ」

「それは言えない」

「俺達の仲じゃないか」

「じゃあ帰ろう」

「それはムリ!」

 絶対に譲歩しない交渉術。

「とにかく知ってること全部話せよ!」

「戻ったら話す」

「その、戻るための情報をくれって言ってんだろ! わかんねえな!」

 戻るにしても、何らかの理由が欲しいのである。

 と、井戸の横穴から続く、奥の方より風が吹いてくる。同時に呻き声と獣のような声も。明らかに何かいるようだ。

「……隠密で先行して調べてくるか」

 ウルヴェントが横穴の奥を睨みつつ、

「鎧貸して。壁抜けできるやつ」

 と、ワンコに要請した。ワンコの着ているアーマーは一日毎パワーでそういう芸当が可能な代物なのだ。いざとなれば、それを使って危険を回避しようという心積もりのウルヴェント。それに対してワンコ、快く、

「どーしよっかなぁー?」

「じゃあいいよ! 首刎ねて持ってくから!」

「好きなだけ持っていってください」

 土下座して頼みこむのであった。

「何て仲良いんだ俺ら」

 一党は自らのチームワークの良さを再確認し、心を一つにする。

 なのに、ザーマス師匠の心は離れていくばかり。

「だから戻ろうって。ヤバいんだって。死人が出る井戸だって噂もあったじゃろうが。このアイアンパンツもそいつらにやられたんじゃよ。これ以上進んだらヤバいって!」

 そう聞いたワンコも自らを見下ろし、

「取り替えた鎧姿なんか死人に見られたら恥ずかしいしぃー」

 おしゃれスリクリン(虫人間)として、そこは絶対譲れぬところ。この恰好では、激カワ節足動物コーデでダンジョン内にモテラブブラッドの雨を降らせること叶わぬ。

「よし、じゃあ行こう!」

 人の話を聞かないウルヴェントはきっぱりと言ったものだ。もちろん、井戸の奥へと進もうとする。

「えーと、これはわしの勘じゃが、きっとここから先にはレベル18のウォータードレイクがいるよ」

「じゃあ本筋に戻ろう」

 一党はなんとなく井戸の奥へ進むのを諦めた。今のレベルで井戸の奥に進むとヤバいモンスターが出てくるし、ストーリー的にも全然関係ないからそっち進むの止めて? というマスターからの声を聞いたとかそんなことは全然なかった。ただ一般論として、下手に戦闘を吹っかけるとそれだけに時間を取られてしまい、ストーリーが全然進まないということはとてもよくある。無駄な争いは避けるが大人というもの。

 でも、ウルヴェントはもっとレベルが上がったらもう一度来ようと心に決めたらしい。めんどくさい人だな。それまでこの井戸が他の連中に荒らされぬよう、〆縄で封じる。

「この奥には立ち入るでないぞ!」

 そうガマラ地区の住人達にきつく言いつけた。

 途中で見つけたダンジョンとか全部クリアしないと気が済まない心意気。本筋と関係ない戦闘でも、とりあえず試してみないで何が冒険者か。そんな主張を別に誰にアピールするわけでもないけど、一党はザーマスの言う通り黄金のイニックス亭へと戻ったのだった。


  ◆


 黄金のイニックス亭に衛兵隊長のマヌーフ来りて、ゴリアテ一家の有益な情報を話してくれるという。

「じゃあ、ゴリアテ一家の弱点は?」

「全身。どこを触っても死ぬ」

 そんな情報だったらよかったのに。

 マヌーフの言うには、ゴリアテ一家はハシシの取引で資金が潤沢なのだという。

「商家でもハシシを取り扱っているところはあるのだが、ゴリアテ一家は商家の縄張りを荒らさず、上納金を収めているらしい。非常に紳士的でハシシの取引を広げていこうとはしていないようだ」

「なかなか頭がいいらしいな」

「だが、おかしな行動も見られる。奴等はスレイブビットや泥棒市場以外にも縄張りを作っているのだが、面ではなく点のような形で散発的に進出しているのだ。特に街の北側スラム街でその傾向が顕著だな。解放奴隷が流れていってる地域さ。で、スラムにある既存の組織とガチ抗争を引き起こしたりしつつ、そうやって縄張りを広げている」

「スラムの既存組織って何?」

「トゥースカッターていうモヒカンエルフの集団や、アイアンラッツっていう盗賊組織、それにルーインクリ―バーっていう人食いハーフリングの一団がいるな。特にトゥースカッターは凶暴で有名だが、ゴリアテ一家はそいつらからも怖れられてるくらいだ。が、不思議なことにそうやって手に入れた地域からゴリアテが急に手を引いてしまうことがあるんだ。今までに3つの地域を突然放棄している。犠牲を払って手に入れた縄張りだっていうのにな」

「ふーん、何で? ちょっと行って調べてきて」

 何でもNPCにやらせる仕事術。衛兵隊長マヌーフ、顔をしかめて、

「そこには入れんよ」

「衛兵のくせに?」

「衛兵だからこそ、そんな守るべきものもない地域には入らんさ」

「じゃあ、燃やしてこいよ! そんな地域!」

 ともかく、スラムの連中は結束が固いので衛兵では中の話は聞けないらしい。

「ということは、やっぱザーマスが潜入してこないと」

 何でもNPCにやらせる仕事術。

 というわけで、ザーマス師匠に話を持っていく一党。

「そういえばザーマス師匠、井戸の底でアイアンパンツの死体みた時、何か知ってるようだったな」

「あの変なダイイングメッセージみて顔色変えてたよね」

「何を知ってるんだ? ゴリアテ一家のボスが何者か、わかってるんじゃないか? ヒントをくれとは言わない。正解を寄こせ。洗いざらい話せ」

 単刀直入に聞く一党であった。そう問われてザーマス師匠も、うむ、と答える。

「あのメッセージから考えるに、片目のサダームの正体はサーロンではあるまいか」

「サーロンって何? 冥王?」

「いや、地下に住むパンダのことだよ」

 違う。サーロンとは大昔からいる魔法生物のことだとザーマス師匠はいう。

 サーロンはこの世界エイサスの一部ともいえる存在だったが、今では孤高の存在となった。かつては人の形をしていたものの、数千年の時を経てジャミラみたいな体になったとかならなかったとか。

「そして、わしの聞いた話によるとサーロンは呪術王の情報を集めているらしい」

 そんな奴がゴリアテ一家の頭領に収まって何をしようというのか。というか、そんな数千年も生きているような化け物相手にどう戦えというのか。けれどウルヴェント、少しも慌てず、

「大丈夫。良い作戦がある」

「作戦って?」

「殺したら勝てる」

 やれば何でもできる、みたいなポジティブ作戦。

 ともかく、片目のサダームの正体がサーロンとわかったとして、さてどうする。

 ワンコ曰く、

「サーロンさーん! て呼べば、呼んだ? って出てきてくれるよ」

「片目狩りをしよう!」

 ウルヴェントはサーロンを誘き出すべく、案を出した。

「誘き出して、どうすんの?」

「会ったら殺す。後悔しないために」

 近付いたら殺す。逃げる奴も殺す。それもみなすべて、後悔しないために仕方のないことなのだ、とウルヴェントは説く。一党はその後悔しない覚悟に深い感銘を受け、あえて無視した。

「とにかく、サーロンは何をしたがっているのか?」

「呪術王のことを知りたがっている?」

「スラムの中に、奴が急に手を引いた地域があるんだろ? そこになんかヒントがあるんじゃないか?」

 今ならその地域は空白地帯であって、トゥースカッター等もいないだろうという話である。調べに行くなら今の内であろう。だが、トゥースカッターのモヒカンエルフ達に見つかったらえらいことになるという。エルフを見たら泥棒か殺し屋だと思え、というのがこの世界でのエルフ観である。

「お前を見たら泥棒か殺し屋だと思え」

 ワンコがウルヴェントを見ながら呟いた。

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