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アイアンパンツ

 ある日、一党がいつものように黄金のイニックス亭3号店で無駄に生を消費していると、ザーマス師匠が帰ってきた。神殿からもう二度と外へ出られないと思われていた、あのザーマスである。どうやら許されたらしい。

 ザーマスが娑婆に戻れた。では、そのお祝いをしよう。ということになり一党はバザールへ買い物へ行く。なんか美味いものでも買ってこい、というお使いイベント発生。

 さて、一党がバザールについたところ、そこでは何事か起こっているようだ。

 マスターの指示により、知覚のチェックが行われる。

 結果は最高で5。

「大変、街が無くなった」

 街を知覚できなくなった一党はうろたえるのだった。

 そうではなくて、バザールの片隅で揉め事が起きているらしい。

「いいや、ぜってぇ揉めてねえ!」

 知覚5の一党は揉め事の存在を認識できない、と強硬に主張。でも、そんなこと言ってると話が進まないので、やっぱり揉め事が起きているのであった。

 我々はマスターの言うことをちゃんと聞く、良いプレイヤーです。

 見れば、チンピラ達とガチムチのお兄さん達が対峙している。険悪なムード。そこで我等がウルヴェント、

「両方に肩をぶつけに行き、笑顔で覗きこむ」

 得意の交渉術を駆使して場を収めようと試みる。

 なぜか場の空気が悪化した。

 どうもチンピラ達はゴリアテ一家らしい。そして、もう一方のガチムチ達は当然のごとく、ガチムチの花園の連中だ。

 ガチムチの花園といえば、一党には知り合いがいる。早速ガチムチ達にアピールする。

「おれら、ガチムチの偉い人と知り合いなんだけど? ガチムチのパイプカッツともダチなんだけど?」

 ガチムチ達の1人がおもむろに、

「オレがそのパイプカッツだ」

 よく見たらそうでした。

「おい、こら!」

 そこへやってくる衛兵隊。乱暴狼藉を許さぬ頼もしき街のお巡りさんである。ということで一党が真っ先に捕まる。

 何か衛兵達とごちゃごちゃやってる間に、ゴリアテ一家らしいチンピラ達は逃げ去ってしまったようだ。結局、一党は知り合いである衛兵隊長のマヌーフのとりなしもあり、事なきを得た。黄金のイニックス亭3号店へと戻る。

「ところで買い物してねーや」

 何しにバザールへ行ったのか。ザーマス師匠になんか美味い物食わしてやるのではなかったのか。

「パンの耳でも食ってて」

 一党はザーマス師匠に残り物を上げるのだった。

「パンの白い部分は俺達が食いました」

「エコです」

「いいから俺に喋らせて?」

 ザーマス師匠、一党の脱線に一石を投ず。

 例の赤い粉の一件について語りたくて仕方無かったらしい。

「この街の大貴族であるダイアン卿の『真理』が赤い粉の密売に関わっていたらしい。生きている人間から生命力を吸い取るはずのものが失敗して、死者をゾンビにするものになってしまったのだそうだ。テホイジァン様はそれら赤い粉の回収を指示された。わしはとある商家の庭から赤い粉を回収して、その功によりようやく釈放されたというわけじゃ。ただ、『真理』には赤い粉だけではなく他の触媒を研究しているグループがおるとのことだ」

「なんでそんな聞いてもないことペラペラしゃべるの?」

「赤い粉関係のクエストはとりあえず終わって新しい展開に入りますよ、というマスターの意図を婉曲に示すためじゃ」

 その言葉を待っていたかのように、衛兵隊長のマヌーフが黄金のイニックス亭3号店に来店する。

「お前らに頼みたいことがあるのだが……」

 早速新しい展開。

 聞けば、ゴリアテ一家のことだという。ティールの街で勢力を拡大している犯罪組織。構成員は末端を合わせれば1000人にもなるという。ほんまかいな。

「衛兵隊としてはゴリアテ一家のこれ以上の伸張は認められん。何とか潰してやりたいのだが、そのリーダーがなんとも頭の良い男でな。なかなか尻尾が掴めないのだ」

「それでいくら出す?」

 面倒くさい話はいいからまず報酬、という徹底したリアリズム。

「四の五の言わず、金を出せばいいんだよ」

「金で言うこと聞くのがこの街の冒険者の流儀ってものだし」

「金払われてもごちゃごちゃ言うけど」

 特に、ごねることでより一層の利益が見込める時は。

 とにかくそのリーダー、片目のサダームと名乗る男の正体を探って欲しいのだと衛兵隊長は言う。

「片目のサダームの正体を知っているのはゴリアテ一家の中でも幹部クラスだけだ。で、最近ゴリアテ一家から足抜けした幹部の男がいる。そいつを探し出して片目のサダームのことを聞きだしてくれ」

 その幹部、元義賊で名前をアイアンパンツというのだそうだ。ひどい名前だなと思ったらもともとガチムチの花園出身らしい。ガチムチに一度籍を置いた人間はみんなひどい名前を名乗らないといけない掟でもあるのだろう。

「で、アイアンパンツってどこにいるの?」

「それを調べてくれ」

「使えねえな! ちゃんとそこまで調べてから話持ってこいよ!」

 一党は衛兵隊長マヌーフの尻を蹴飛ばして追い出すのだった。

 頼もしき一党はアイアンパンツのことをどこかで聞いたことは無いか、事情通でロール。

 その結果、ティールの街のガマラ地区出身だと聞き覚えていたことを思い出した。そして、常に上半身裸の男であったことも。このアイアンパンツがいかなる秘密を握っているのか。

「ところで、そいつの顔はわかるの?」

「それはわからない」

 常にパンツ被っているからね。そして、そのパンツは常にとっかえひっかえされていて、一度アイアンパンツの姿を見た者も二度目に見たときには別のパンツ被っているため、それがアイアンパンツだとは気づかないのだという。恐るべき義賊であった。


  ◆


 一党はいつのまにか酒場から姿を消していたザーマスに会いに行くこととした。

 ザーマス師匠、泣きながら自分の雑貨店を片付けている。何で泣いているのかは全然わからない。

「じゃあ、アイアンパンツ探しに行ってきて」

 一党はザーマス師匠に言いつけた。何でもNPCにやらせようという姿勢はぶれない、まさに一本芯の通った男達であった。ザーマス師匠、それを受けて快く、

「もう寝るよ、わし」

「なんで?」

 疲れた表情を浮かべるザーマス師匠にウルヴェントは小首を傾げてみせたものだ。

「アイアンパンツ捜索はわしが衛兵隊長に頼んだんじゃよ」

「で、衛兵隊長から頼まれたオレ達がザーマス師匠に頼んでんだけど?」

「じゃあ、わしは衛兵隊長に頼む」

「で、衛兵隊長はまたオレ達に頼みに来るだろう」

「永遠に続く」

「この永久機関、輪廻の牢獄を断ち切るために行ってきて?」

 ウルヴェントはとても済んだ瞳で言ったという。

「自分で行けってば!」

「だってアイアンパンツの顔わかんないし」

「わかるよ! そのために伏線はってあっただろ!」

「? なにそれ?」

「アイアンパンツは元ガチムチだって言ってたじゃろが! 何のためにガチムチの花園が唐突にバザールで喧嘩してたと思っとる!」

 つまりガチムチのパイプカッツ辺りに聞きにいけば人相もわかるであろうということであった。だったら最初からそう言えばいいのに。面倒な人だな。


  ◆


 一党は卓越した推理力と論理を駆使して、パイプカッツならばアイアンパンツの居場所等を知っているだろうという結論に達した。早速、パイプカッツに会いに行く。ザーマス師匠も連れて行った。

「アイアンパンツ? そいつなら知ってるぞ」

「顔とかわかるの?」

「ガチムチを抜けた奴だからな。手配書が出回ってる」

 と、顔が書かれた手配書を渡してくれるパイプカッツ。ウルヴェントはそれを受け取るや否や、燃やした。

「手配書無くなっちゃった! これじゃ顔わかんないや。どうしよう~?」

「顔を知ってる人に一緒に来てもらわなきゃいけないね~」

「というわけで、一緒に行こう」

 一党はパイプカッツに同行を願い出るのだった。何でもNPCにやらせようという姿勢は常にぶれない。

 でも、どういうわけかパイプカッツは一緒に行ってくれないのだった。そして、手配書も燃えてなかった。そういうことになった。

 手配書を見て、アイアンパンツの正体はへの字眉の人だということが判明。これさえわかれば、顔みてすぐそれとわかるであろう。一党はアイアンパンツが潜伏しているであろう、出身地区であるガマラ地区へと急ぐのだった。


  ◆


 ガマラ地区は水が出ない貧しい地域だ。貧民が多い。

 そのガマラ地区に入るや、どうも騒がしいではないか。一党は街行く町人に聞いてみる。

「おい、何があった?」

「いやあ、人殺しが起きたんですよ」

「ほう、ところで、その人殺しっていうのはこんな人殺しかい!」

 そう言って振り返った町人の顔は目も鼻も口もないのっぺらぼうでグサーッ! ギャー!

 もう滅茶苦茶。なかったことに。

「成り金の親父が殺されたんで」

 町人はそう答えた。どうもその成り金、地区の連中から嫌われていたらしく、殺されて主人がいなくなったその屋敷でちょっとした略奪騒ぎが起こっているらしい。

「略奪してる奴から略奪する」

 悪党を懲らしめるわけで、これは正義の行いである。できれば屋敷中の全てのものを略奪しておいてほしいものだ。一党は略奪者達の前に立ちはだかる。

「お前ら止めろ! それらの品は全て証拠品として我々が差し押さえる!」

 一党が金目のものを差し押さえようとすると、略奪者達から反発の声が上がる。

「てめえら、あの殺されたろくでなしの手下か!」

「いや、奴が俺達の手下だ」

「余計悪い! やっちまえ!」

 事情を聞くにこの成り金、ガマラ地区に水をもたらしてくれていた老婆を密告して財を為したらしい。その老婆が秘術使いだと当局に密告したのだ。その老婆は魔法生物を研究していて水が必要だったのだという。そのための井戸を掘った。それが結果的に人々の喉をも潤していた。だが、密告された老婆は怒って井戸の水を止め、姿を消した。それ以来、この地区は再び渇水に苦しむ地区になってしまったということだ。

 で、これらの話を聞いたアイアンパンツは義憤に駆られ、その成り金を殺害。その後、

「俺がもう一度井戸から水が出るようにしてやるぜ!」

 と、井戸に潜ったという。

 けれどその後潜ったまま帰ってきていないというから穏やかでない。その井戸は死人の出る井戸と噂されていて、アイアンパンツもその死人に殺されてしまったのだろう……、といった話を聞いた一党、略奪者達に呼びかける。

「こんなことしてないで、井戸に行こう。アイアンパンツ探してきて。ついでに井戸から水が出るようにすればいいじゃん」

 NPCに何でもやらせようという姿勢。

「死人が出る井戸になんか行きたくねえな」

「ほう。じゃあ、死人の出る街にするか」

 一党は、やけに頼もしい武器を構えるのだった。


  ◆


 何とか略奪者達の暴動を押さえた一党。成り金の財産の半分は地区住人で分けるということで話をつけたのだ。

 じゃあ、地区住人がいなくなったらどうなるの? とやけに頼もしい武器をちらつかせたりしながら、一党は井戸の前に立つ。中にいるはずのアイアンパンツを探すこととした。

 で、なんか潜ったら早速アイアンパンツらしき男の遺体があって、何があったのかと検分する。と、遺体の傍にダイイングメッセージらしきものがある。読んでみる。

「アイテテ……って書いてあるよ」

「俺がプラチナパンツだったなら……とも書いてあるな」

 書いてない。実際には絵文字のような物が書かれていた。まず、片目の人間の顔が書かれていて、次に化け物の姿が書かれていた。

 これは一体どういう意味なのか。なんでこんなことを今際の際で書き残したのか。この化け物に殺されたということなのだろうか。

 何だかわからないけど次回に続く。

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