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楽園の花  作者: 悠木おみ
11/16

第11話 罪人の骸(とがびとのむくろ)



「っ……」



ガンッ



 少女――結花の長い髪が空に舞い、刀の打ち合う音が響いた。

 小柄な体のどこにそんな力があるのか、まるで男性と打ち合っているかのような剣に、いい加減結花――曖花の体力も限界に近づいていた。



ガキィン



 それまで打ち合っていたのより一層大きな音を響かせると、曖花は少女から距離をとった。

「この体……私のではないから、あまり傷つけたくはないのよ」

 せめてもの皮肉に言っては見たものの、少女はどこか狂ったような微笑を浮かべたまま、曖花――結花の身体に切りかかってきた。

 鈍い音が辺り一面に響いた瞬間、曖花が手にしていた刀の刀身が切断された。

「ぐっ」

 重い――重過ぎる衝撃に耐えられず、曖花は思わず地面に倒れ込んだ。

「……もう、お仕舞いですか?」

 何も知らない人間が見たら見惚れるような微笑を浮かべ、少女は漆黒の刃で曖花の腹部を貫いた。

「ぅあ、ぐっ……はっ、ゲホッ」

 臓器を傷つけられた事で血を吐きながらも、請おうとも叫ぼうともせず、曖花は少女を強い瞳で見据えた。

「はっ、かはっ」

「……何故?」

 ポソリと零された純粋な少女の疑問に、曖花は苦しみながらも微笑を浮かべた。

「はっ……あ、あなたは……どちらなのかしら」

「?」

 体中から発せられる叫び声を無理矢理押さえ込み、曖花は何も知らない子供のような表情を浮かべている少女に、悠然と微笑んだ。

「わ、たしは……かの……姉様のように、やさしくなどない……はっあ……そして、初花のようにも……」



バシュッ



 空気の塊が少女の身体を掠った瞬間、少女の左腕が消失した。

「……チカラが、なくても……これくらいなら、出来る……模造の、左腕――くらいならっ」

 途切れ途切れながらも言葉にし、曖花は凶悪に微笑んだ。

「やはりお前は“禍妃まがきさき”よ。――憐花レンカ!」

 一気に言い切ると、曖花は少女――憐花の左腕の切り口を抉った。



トンッ



 しばらくの後、憐花が曖花の身体を軽く押すと、曖花――結花の身体はその場に崩れ落ちた。

 足元にはおびただしいほどのどす黒い血が流れていて、その匂いに憐花は僅かに眉を顰めた。

「お前には……何も、わからないくせに」

 憐花は、もう二度と動かない妹――姪の身体を一瞥するとその場で手を一振りし、溶けるように消えた。



 その戦いを見ていたものは、一人もいない。


 彼女が何を思ってこのような行動に出たのかも……。



××××



 刻限ときを同じくして初花は水無鬼の聖域とも呼ばれる場所で、僅かな過去を垣間見ていた。



 それは、幸福な夢。


 何が特別――というわけではなかったが、そこには彼女の全てがあった。

 年齢の離れた双子の姉たちは優しく、怒る事のない二人の姉の代わりに、一番年齢の近い姉が自分を諌める。

 一番上の姉には恋人がいて、義兄となるのは目前。

 義兄も、その弟妹達もとても優しく、早くに去った両親がいない分の愛情も貰っているような気がしていた。

 姉妹の中で唯一両親の顔を知らない少女は、それでも幸せだった。


 一番上の姉が双子の娘を産み、姉の娘が彼を愛するまでは……。

 彼が、姉の娘を愛するまでは……。

 姉の双子の妹と姉の娘が、同じ青年を愛するまでは。



 桜吹雪が舞い落ちる中のお花見。

 暖かい日差しの中、穢れを一切知らない時間。


 ただ優しく、穏やかな時。――何よりも大切だった、かけがえのない時間。



××××



 初花の下の姉の身体であり、現在は曖花の器となっていた結花の遺体が央雅に運ばれたのは、それからすぐの出来事だった。


 事態は恐ろしいほど速く、そして最も悪い方向へ進んでいこうとしているのを、彼女はまだ知らずにいた。







To be continued...

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