校内案内
もう放課後か。写真部も遅れることはメールしたし、あとは掃除するだけだ。
今回は階段の掃除当番だ。
「朽木は良いよなあ…あんな可愛い子と校内デートできるなんてな……」
「そんなんじゃないから!僕だってこんなことになるとは思ってなかったんだから…」
「それにしても越湖さんとどうやって知り合いになったんだよ!」
そう言われてもなんと答えればいいのか…
「うーん、たまたま会ったとしか……」
そうとしか言えない。あの日のことを詳しく言うとまたなんか言われそうだ。
「……たまたまでもあんな可愛い子と知り合いになれるのは羨ましいなあ…」
すごく悔しそうにひねり出した声に、僕はなにも言えなかった。
掃除も終わったし教室に戻って校内の案内をしなくては。それにしても、授業中の越湖さんはすごかったなあ……結構難しい問題を当てられてもすらすらと解いていたのがとても印象的だった。あれなら先生が平均点に期待するのも無理はないだろう。
よし、教室に着いた。越湖さんは…まだ来てないか。席で待っていれば来るかな。
「お待たせしました…!遅くなってすみません!」
「いや、大丈夫。明日の課題もやらないといけなかったし…
敬語もなくて大丈夫だよ」
「これは癖みたいなものなので……あまり気にしないでください…」
ちょっとしゅんとしてしまった。悪いこと言っちゃったかな…
「うん、わかった。じゃあ早速だけど校内巡っていこうか」
授業でよく使用する教室を中心に一階から案内していく。
「やっと二人になれましたね。この間のお礼も言いたかったのですが、なかなか機会が訪れず…」
ははは、と少し疲れたように笑っていた。やはりあれだけ話題の中心にいたら疲れるのだろう。
「いいよいいよ。ていうか、まさかこんな形で会うことになるとは思わなかった…転校とは聞いたけど学校が同じだなんて…
疲れたと思うけど、校内案内しないと移動教室あったときに不便だろうしあと少し頑張ろう。あと、部活も入るようなら紹介しようと思ってたけど今度にする?」
「…部活ですか……」
少し難しそうな顔をしていた。
「うん、じゃあ今日は校内の案内だけにしよう。いつでもいいから、気になる部活があれば紹介するね」
「はい!お願いします!」
こうして放課後の人がほとんどいない校舎の中を二人で歩いていく。だんだんと日が傾いていき、校舎の中は橙色に染められていた。
「どう?全体的にわかったかな?授業で使うところはほとんど案内したから、困らないとは思うけど…」
「ありがとうございます!ところでこの学校って眺めが良いようなところはないのでしょうか?えっと、お昼とかそういうところで食べるのが夢でして…」
漫画とかの影響だろうか。恥ずかしいのか、少し最後の方は声が小さくなっていた。
「うーん……一応見たと思うけど、屋上かなあ…まあ金網で張り巡らされてるから、あまりきれいな景色とは言えないけどね…
あ、そうだ!一つだけとっておきがあるよ!」
「そんなところがあるのですか?もしよろしければ、一回行ってみたいです!」
「本当は写真部だけの特権なんだけどね。じゃあ旧校舎の方に行こう!」
彼女と共に橙色の道を歩いていき、旧校舎に移動した。ここは基本的に倉庫のような使われ方をしているので静かな場所だ。入ったこともないという生徒もいるだろう。
「ここの屋上。本来は鍵がかかってるんだけどね。写真部は様々な場所で、様々な写真を撮って経験を積まないといけないから先生に無理を言って合鍵を作ったんだ」
そう言ってゆっくりと階段を上がっていく。新校舎と違い、木の少し軋むような音が聞こえる。
「よし、扉を開けるね」
少し重い両開きの扉に手をかけてゆっくりと開けていった。
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