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「よーし、じゃあ自己紹介頼む」
「はい、私は越湖詩菜と申します。えーと、親の都合で北海道から引っ越してきました。趣味は天体観測…ですかね。気軽に詩菜って呼んでください!不慣れなことも多く、ご迷惑をおかけすることもあると思いますがよろしくお願いします!」
「校内の案内はそうだな……顔見知りらしいし朽木頼んだぞ!昼休みか、放課後都合のいい方でよろしく!」
名指しで僕が指名された。こちらに微笑んだのを見ていたのか…?
他の男子は何故僕が、ということに納得いかないのかぶーぶー言っている。女子の誰かを指名すればこんなことにはならなかったのに…
「そりゃ朽木はお前らみたいにギラギラした目をしてないからな。そんな狼みたいなやつにこんな可憐な子を任せられると思うのか?
それと越湖の席は朽木の後ろな」
席は自主退学の子がいなくなったときに席替えが行われたため、僕は窓側の後ろから二番目となっていた。移動教室もあるため後ろの席があったが、これで新たな主ができることとなった。
自己紹介を済ませた彼女は、先生に指定され僕の後ろの席に着いた。後ろから小さな声で、すぐに会えましたねと聞こえた。
ホームルームが終わった後、僕の後ろの席は人だかりとなってしまいたっくんの席まで避難していた。
「あの子草原にいたとき話してた子だよな?まさか俺らと同じクラスになるなんてな!
そしてすごい人だかり…美玖はこれから休み時間はしばらく自分の椅子に座れなさそう…」
「本当に驚いたよ…もう会うことはないと思っていたから…
まあ、椅子はしばらくあきらめるよ。みんな越湖さんと話したいだろうし…休み時間は基本たっくんといるんだから授業に影響さえなければ大丈夫」
クラスの大半が越湖さんの席の周りにいるか、視線を向けている。本人も楽しそうに応対しているし、迷惑ではないのだろう。自分なら間違いなく死んだ目をしているだろう。そう注目されることもないが。
「あの様子だと校内の案内は放課後かなあ。先輩には用事あるから送れるってメール送っておくか…
放課後なら部活もほとんど活動してるだろうし、ついでに決まってなければ紹介していこうかな」
たっくんはぼーっとしながら越湖さんの方を眺めていた。
「たっくんどうしたの?見とれてた?はるちゃんに報告していい?」
慌てたたっくんが、
「そ、それはやめてくれ!あいつ怒ると怖いんだよ……
なんか越湖さん、前にどこかで見たことある気がしたんだ…でも気のせいなのかなあ…」
「もしかしたら有名人の誰かに似てるとかかもね。拓海みたいにテレビたくさん観てたら似てる顔も出てくるんじゃない?
そろそろ1限目始まるし席に戻りたい……」
人だかりが掃けるのに少々時間がかかったが、なんとか自分の席に戻ることができた。
校内を説明しろと言われたが話せる時間があるように思えない…自分が案内しなくても誰かが勝手にしてくれるのでは、とまで考えてしまう。
授業が開始されて少し経ったとき、後ろからつんつんとつつかれて何やら紙を渡された。
『いつ校内の案内してくださいますか?』
と書かれていた。これは僕がしっかりやらないといけない流れか…
『都合のいい時で良いですよ』
『では、放課後でよろしいでしょうか?お昼は食べるのに時間がかかるので…』
『では放課後にしましょう。掃除が終わったら教室に残っていてください』
淡々とやり取りを交わし、なんとか放課後に案内することになった。
さて、どう案内するか…この学校は広いし授業で使うところを優先して回れば大丈夫だろうか。部活棟と旧校舎は必要なら、というところだろう。
写真部としては景色が良いところも紹介していきたいところだが、部活紹介もするとしたら放課後はそんなに時間があるわけではないので難しいだろう。