青木組vs黒服男。
「なんだよ。これ」
黒服の奴は呟いたのち
「面白すぎだろ」と小さく言い直後こう叫んだ。
「火属性範囲攻撃。紅の雨!」
奴は手を上げ掌を開くと、そこから数千の赤い槍状の光線を放ち、半径100メートル程を燃やしつくした。この人物は強い。魔法レベルは121。これはこの現場にいる二番目に強い男の青木組ボスの63レベを優に越えるものだ。
が、圧倒的な強さも数には敵わない。ボスが手を上げると10人ほどの黒スーツ男たちが
「無属性 バリア」
と叫び、各地に透明な膜を張りこの渾身の攻撃を無効果した。そして、直後他の大人数がそれぞれ技名を叫び、突っ込んで行った。奴のように技を放つのは彼らには出来ないようだ。そして黒服の奴の周りに彼らが突っ込んだ直後大爆発、そして大規模な煙が発生した。
勝負あり…か。もう黒服の奴があの煙の中で息をしていることはないだろう。そしてあれだけの戦力差だと青木組に死人がいることもまずないだろう。
そして、気付けば俺は自身の体をもう一人の「俺」から取り戻していた。彼が戦いは終わったと判断したのだろう。俺は崩れかけた塀の上から降り、ボスがいる家の屋根へと登った。
「よう、坊主。数分ぶりだな」
「僕のせいで、すいません」
喧嘩中ではあるが一応謝っておいた。
「勘違いすんじゃねえ。俺はただ縄張りを守るためにやったんだ。俺を守るわけじゃねい」
俺は自然に笑みが溢れてきた。そしてその笑みはボスへも伝染していった。
煙が晴れるまでには数分を費やした。煙の中からは予想外のことが起きていた。煙が晴れて見えた景色は青木組の組員の勝ち誇った姿…ではなく、傷だらけの組員たちだった。
「なにが起きたんだ?」
まさかの事態にボスも思わず口を開く。数分後、ボスの元に組員が駆け込んできて、戦況を報告する。
「全員一斉の初撃による爆発を「無属性バリア迴」で防いだ敵は、その後範囲攻撃を繰り返し、勝利には成功しましたが我が方は合計12人の死者が出ました。」
「あぁわかった。報告おつかれ」
ボスのその声はなんとなく静かなように聞こえ、それと同時に俺は自分のせいで人が死んだといえことに強大な罪悪感を感じた。ボスはこちらに向きを変え、ぶっきらぼうな声でこう言った。
「おい、坊主。寝るとこねえんだろ。家泊まってけよ。縄張りで野垂れ死なれちゃ困る」
俺は罪悪感に押し潰されそうになりながら
「ありがとうございます」
とだけ答えておいた。その日はなかなか寝つけなかった。