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少年オカルト

肝試しと墓参り

作者: mira

自身の手に鈍く光る銀色の指輪。

サイズは大きく、すぐ無くしてしまいそうになるが外す事は出来ない。

忘れてはいけないからだ。


真夏の不快なほど蒸し暑い夜。

大学の狭い部室にすし詰め状態で更に暑さは増していた。


打ち上げの二次会で酒とつまみを持ち寄り数人で飲んでいた。


つまらない話で笑い、怒り、興奮し、短い時間だけど楽しかった。

しかし、時間が立つと話題も途絶える。

妙な興奮状態が続いたせいかみんないっきに疲労が出てきていたようだった。


一人、また一人と寝入り静かになってきていた部室はさらに静かになっていった。

私は酔いが冷めた反動か、妙に頭が冴えていて寝るに寝れなかった。

そこにもう一人起きていた佐伯先輩に話しかけることにした。

前から気になっていたことがあったからだ。


「先輩ってなんで女物の指輪してるんですか?」


少し退屈そうにスマホを見ていた先輩は少し意表をつかれた様なそぶりでこちらを見た。

驚いた顔から困ったような笑顔になる。


「ああ、おばあちゃんの形見でね。なんか約束しちゃってさ。大人になるまではめてるって」


「ってことは先輩、まだ大人じゃないんだ?」


「確かにな。もう来年就職だし、取っちまおうかね」


照れたように笑う先輩だったがその場では指輪は取らず、少しはぐらかす様に缶チューハイを飲んだ。

その様子を少し新鮮に感じた私は先輩に好意を持つようになった。


きっかけはそんな感じで先輩とよく話すようになり、外に二人で遊びに行くようにもなった。


これは付き合うことになるかな。そう思い始めた頃、大学で先輩とすれ違った。

声をかけられ他愛のない話をした。

特段変わったそぶりはなかったが、別れ際に指輪を渡された。

先輩がしていたおばあちゃんの形見の指輪だ。


「あ、先輩指輪取ったんですね。ついに大人になったんですか?」


先輩は笑って少し頭を掻いていた。

その手には包帯が巻かれていた。

大きなヤケドでもしたのか、手を全部包帯で覆っている。


「この指輪お守りらしくてさ、サイズ大きいかもしれないけど良かったら貰ってくれるか?」


唐突な申し出で少し驚いた。

大切なものだろうから断ったが強引に渡されそのまま受けとる事になった。

次に会った時にやはり帰そうと思っていたが、そのまま渡せずじまい。


先輩は私に指輪を渡す前日の夜に失踪していた。

自分の右手と大量の血を自宅に残して。




「週末肝試しをやる事になったんだけど、シュン君とカヤ君来てくれない?」


別のクラスの同級生、園田から提案があった。

何でも彼女たち主催で肝試しをやる事になったらしいんだが怖がっている子も多く、

専門家による監修が欲しいとの事だった。

専門家とは当然僕らのことみたいだ。


「ふ~ん、肝試しね。どこでやるんだ?」


「ああ、西山寺よ。お墓がいっぱいあるし」


スタンダードなチョイスだ。

特別変わった噂はないが、幽霊を見たという話は良く聞く。

僕らも当然行った事はあったが、幽霊には会えなかった。


「いいチョイスだけど、肝試しのシーズンは夏じゃないか? 今は春、オフシーズンだろ」


「別に肝試しにシーズンなんてないでしょ? 用はくっつけたい男女が居るからその環境を用意してあげるのよ」


なんだろう。園田のこの明け透け感は。

あまり付き合いたくないタイプに思えるが。


「このクラスからも来るのよ。田辺さんとか」


カヤには瞬殺だった。

ちょっと考えたフリをしていたが結局OKを出す。

カヤは田辺さんの事が好きなのだ。

僕らは週末肝試しに参加することになった。




失踪から20日後、先輩の葬式が開かれた。

最初は失踪と思われていたが、周辺を探しても死体は見つからなかった。

右手と一緒に存在した大量の血液が決め手となり先輩は死んだ事に決まった。


右手だけが入った棺は燃やされ、少しの遺骨はお墓に納められた。


今でも私は失踪と思っている。

先輩が死んだと言われてる次の日、私は大学で彼と会って指輪をもらった。

あれは間違いなく先輩だった。


私は先輩の指輪をはめた手をなでながら思い出す。

先輩と失踪する前に行ったツーリングの事を。

あの日から彼の様子は少し違っていた。


周囲を気にするようになり、考え事をしている時間が長くなった。

私といても気がそぞろで浮気でもしだしたのではと……浮気ではないか、付き合っていたわけではないし。


あのツーリングで何があったか。

実は少し思い出せないところが自分の中にあった。

それが先輩の失踪のヒントだと分かっている。


窓の外を見ながら指輪を触る。

外には見知った顔が二つやってくる。

そうだ、この部屋って……。



「なんで真理姉ちゃんがオレの部屋にいるんだ?」


肝試しの前にカヤの家に来たら真理さんが居た。

以前オカルトスポットに車で連れて行ってくれたカヤの従姉妹だ。


「ああ、ごめん。なんかこの学習机が落ち着いちゃってさ。私のはけっこう前に捨てちゃったからね」


真理さんが笑いながら軽く謝る。しかし、椅子からはどこうとはしなかった。


「別にいいけどよ。机に足は乗せんなよ。行儀悪いぞ」


指摘され、すまなそうに足を下す真理さん。

妙に行儀にこだわるカヤに少し驚いた。


「で、真理姉ちゃんはなんでここにいるんだ? 何か用事?」


「ああ、実家からスイカを届けに来たの。そしたらおばさんが夕飯連れてってくれるって言うからご馳走になろうかと思って」


その言葉を待っていたかのように、ちょうどおばさんがスイカを切って持ってきてくれた。

僕らはスイカを食べながら、これから行く肝試しの話をしていた。


「西山寺ね。お墓に悪さするんじゃないわよ。みんあ大切にしてるんだから」


「分かってるよ! さっき住職さんには事前に許可取ってきたから。オレ達ちょっと顔利くからさ」


得意がっているカヤだが、顔見知りになったキッカケは僕らがやらかしたからだ。

勝手に夜の墓地を探索していた僕らに住職さんの雷が落ちたことがきっかけだ。

それから毎週週末に掃除のボランティアをしばらく義務付けられもはや庭みたいになったのは確かだが。


「そうだったんだ。まあ、気をつけなさいよ。私は叔母さんと二人で楽しんでくるから」


僕らは真理さんに別れを告げて肝試しに向かった。




「揃ったわね。それじゃ肝試しを始めましょうか」


園田さんが取り仕切る中、肝試しが始まる。

寺から始まる肝試しはお墓を200mほど突っ切り、端の石柱にあるお札を持ってく帰ってくることが目的となる。

2人1組でそれら順番に行っていくということだった。


お札はなんと住職さんが用意してくれた本当にご利益のあるお札だそうで、それは本当に僕らの顔が利いたということらしい。

園田さんから簡単ではあったがお礼も言われたくらいだ。


「私はシュン君とね。よろしく」


僕が組になったのは園田さんとだった。

取り仕切る側の人間だが参加はするようで、僕らは最後に出発することになった。


最初の組からだんだんと出発していく。

様々な声が聞こえるがそれぞれ楽しんでいるようだ。

仲むつまじく帰ってくる組もあるからそれなりの効果はあるようだった。


「うん、いい感じ。当初の目的は達したわね」


園田さんが満足そうに肯いている。

今戻ってきた組のために行った企画のようだった。


「それじゃ私たちの番ね。行きましょう」


僕と園田さんはそれなりの距離で一緒に歩き出した。



だんだんと灯りが遠くなっていき、手元の懐中電灯だけが頼りになってくる。


「ここ、けっこう雰囲気あるね……」


園田さんも少し震えて縮こまりながら歩いている。

案外怖いのがだめだったようだ。


「慣れの問題だと思うけど。本当に平気そうね」


それは仕方がない。

昼間に毎週掃除をしていた経験もあるし、そのきっかけとなった時は3時間ほどここを探索していた。


しばらく歩いてもうすぐ石柱というところで、懐中電灯の光に何かが写った。

人の足だ。

慌てて光を上に上げるとそこに人がいた。


半そでのシャツとジーパン姿でリュックを背負った若い男性だ。

屈んでお墓に向かって手を合わせている。

手前に見える右手のほとんどは包帯が巻かれていた。


「だ、誰!?」


園田さんが声をかけるとこっちを少し見てから石柱の方に走って行った。

あまりの事に足が竦んでしまいそのまましばらく立ち尽くしていた。


「お墓参りの人だったのかな……」


園田さんの声で平静を取り戻す。

男性が居た方に行き懐中電灯でお墓を照らす。

お墓には佐伯家と書いてあった。


「お花も新しくなってるし本当にお墓参りだったのかも」


こんな時間にお墓参りって言うのも違和感があったが、それ以上の事も分からない。

僕らは仕方なくそのまま石柱に向かった。


目的の石柱に何事もなく到着し、お札を手に取る。

そのままお寺に戻ったが道中何もなかった。

あの男性もどこにも居なかった。




先輩と行ったツーリングは県外の湖を目的としていた。

その湖を歩いて一周すると無くしたものが見つかるという言い伝えがある妙な湖。

けっこうな広さで歩いて周るだけで私たちは汗だくだった。


一周回った後、自動販売機で飲み物を買いベンチで二人落ち着いていた。


「そういえば先輩、何でこの湖に来たんですか?」


「ああ、実はこの前無くしちゃってさ……」


ここから先の事を私はよく思い出せない。

次に思い出せるのはもう家に帰った後のことだ。

気づけば先輩にバイクで送ってもらって家に着いていた。

バイクで走っていく先輩の後姿がなぜかぼやけて見えたのが印象に残っている。


実家への帰り道、あの二人が肝試ししたお寺が見えてきた。

そうだ、あそこは先輩の家のお墓があるんだった。


最近先輩の事を考えていた私はそのままお墓に向かう。

先輩の右手が納められているお墓だ。


先輩の家のお墓はすぐに分かった。

そこだけ新しい花が供えてあったからだ。


あまりお墓には相応しくない色の鮮やかな花。

朝特有の淡い太陽の光にきれいに映えて見える。

先輩が教えてくれたこの花。

名前は忘れたけど花言葉は覚えている。


「望郷」

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