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オリヴィア王女の考察

「ひぃぃぃぃ、チャームにかかってるだけなんですってば!!あなた方のそれは!!ねえ!!わかったでしょ?!私はこんなにも最低な女なんだって、お願いだからっっ!!ねぇ!!早く私を嫌ってくださああああああああ」

 悲痛な少女の叫び声は今日もいつも通り寮の門限時間の終わりを告げていた。


**


 聖ジュリアン王国には密やかな伝説がある。何十、百年に一度、”花の乙女”が生まれるといったものだ。初代の王が手に入れ、国を創ったきっかけになったと言われている”花の乙女”、しかし、彼女の伝説には二面性があった。あまりの魅力に男共が争い国が疲弊した傾国としての一面、一人の男を王まで押し上げたという美談……それらは女と男の”花の乙女”に対する印象を違うものに変えていた。

 女にとって”花の乙女”は排するべき存在でり、男たちには憧れの女。その違いは、二代目、三代目が現れるにつれ顕著になっていき……そして、百年振りの”花の乙女”、五代目ルシア=ルーチェが十二で目覚めたときにはーー彼女にとっては悲劇、しかし、どう見ても喜劇的な人生が始まったのである。



「ルシアって本当大変な性格よねぇ、私としては楽しんじゃえばって思うけど」

 ふーふーとホットミルクを冷ましながら、ルシアのルームメイトであるオリヴィア=ラ=ステュアートは声をかける。金色の髪はくるくると緩やかにウェーブを描いていて、美しい緑の目は優しくルシアを見つめていた。もっとも、ベッドの上でスーツを被って蓑虫状態になっているルシアは知らないことだが。

「オリヴィアはそう言ってくれるけど……王女のオリヴィア以外の女性のね、私の態度にね・・日々、お腹が痛くなって……」

「いやいや、気にしなくていいでしょ、別にアイツ等全員フリーだったんだし、何人かが諦めてるのも知ってるんだから」

「うぅぅ、でも、オリヴィアの弟さまやあのハイスペック集団がががが」

 あばばばばばと思考がショートし出したルシアを理解するオリヴィアは溜息を吐いた。すべてを知るが故の溜息であった。



 ーー花の乙女。

 魅惑の力を持って生まれてくる究極のあげまんだとオリヴィアは考察していた。そして、生まれ持ったフェロモンは、どうやら極上のイケメンにしか利かないらしい。並の雑魚、並のイケメンは引っかからず連れたのは大物ばかりで……それは女からは嫌われて当然だとも思っていた。女の目からはごくごく普通の女の子にしか見えないからだ。しかし、まあ、生物学とかを学べば理屈は理解できなくもない。だが、女性は理解したくないのもわかる。そんなわけで、聖ジュリアン王国の女性向けの本なんかは……”討伐!花の乙女”やら”血祭り!花の乙女”やら”撃退!花の乙女”やら以下略が流行ってしまうのも当然といったら当然である。そして、哀れな”花の乙女”が子供を産めるようになるまで発覚しないのが、この喜劇を生んだのだ…………そう、花の乙女の嫌われっぷりを知る花の乙女という存在を。


『ーーオリヴィア、聞こえるかい?』

 ちりぃ、と頭に何かの力と共に伝わる言葉。双子の弟からのテレパシーだ。オリヴィアは溜息を吐いた。双子の弟である、王子様であるエドワードも当然のごとく花の乙女ことルシアに夢中なのである。

『何、エド』

『今、ルシア、かわいい?』

 変態的だな、と言ってやりたい気持ちがあるがブーメランになると知っているオリヴィアは溜息を吐いた。そして、いつの間にやら、ルシアはあのまま眠っていた。

『かわいい、かわいい。爆発して疲れて眠っちゃったみたいよ』

『ーーかわいい』

 語彙力が下がる気がして、オリヴィアは溜息を吐いた。

 エドワード=ル=ステュアート。聖ジュリアン王国第一王子にして、国一番の美男子といって過言でないオリヴィアに瓜二つの容姿を持つ少年は、国で持つのが双子であり王家だけだと言われているテレパシーを悪用してまでルシアの様子を聞いてくる、これはもう困りものであった。

『で、ほかの男は諦めたの?』

 テレパシーだと言うのに、溜息が聞こえた気がオリヴィアにはした。

『いや、ルシアの幼なじみの成り上がりの騎士も! あの堅物も! 魔術の天才も! チャラ男も! 誰一人として諦めない! まったく俺に譲ればいいものを…!』

 ぷんすかと怒っているだろう、自分よりへっぽこである弟を思い浮かべオリヴィアは溜息を吐いた。


 ーー幼なじみの成り上がり騎士、アーサー。彼はルシアの幼なじみで男らしい男である。ぶっちゃけ、現メンバーの中で一番嫌いである。嫌みの付け所がない、ほぼパーフェクトな男であるからだ。まず、剣の腕は学園一、頭も割と上位を堅実に行き、意外に腹黒(※ルシアのためなら)な男。黒髪、黒目で真面目っぽいのにクールなイケメンで片思い歴はもうほぼ年齢という、これはもうルシアが事実を知ったらきっとくっついてしまうだろう男だ。強いて言うならブラックさと身分の低さがネックなだけだから、まったく弟のへっぽこさよ。初代王である、ジュリアンは全ての男がひれ伏したと伝承に残っているというのに。

 対して、弟……エドワードは見掛け極上、頭そこそこ剣そこそこ、性格悪い変態ととことん見掛けに対しスペックが低いのだ。ーーだから、ルシアの魅力に何人かがめろめろなままなわけだが……歴代花の乙女が一番スペックの高い男に恋をしてきたとオリヴィアは考えてもいたため、弟のふがいなさには失望を禁じ得なかった。せめて、あの馬鹿が変態でなければ、こんなにも伝承通りにならなかったのではないかとも思うわけだ。もしくは……

「ーー私が男だったらなァ」

 溜息と共に吐き出した決して叶わない望みが空気の中に溶け込むので、オリヴィアは弟を無視して眠ることにしたのである。

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