#008「ボケとツッコミ」
――善意の押し売りには反対。でも、それは悪意を正当化する理由にはならない。
*
「ガランとしてるな、ユウ」
「当たり前ですよ、ピア。そもそも、ここは巡礼者のための宿坊ですから」
「雨風を凌げれば、それで良しとする訳か。そういえば、さっきの坊さんは、どこに行ったんだ?」
「菜園か墓苑か、もしくは礼拝堂か。少なくとも、この部屋に隣接する、どこかには居られるはずです」
「素っ気ない人間だと思わないか、ユウ?」
「敵意を向けて来られるよりは、ずっとマシですよ」
「ユウも、あっさりしてるなぁ。いっそのこと、頭を剃れよ」
「そんな気軽に言うものではありませんよ、ピア」
「似合うと思うけどなぁ。ストイックな雰囲気にシックな装いで、恵みに感謝して祈りを捧げる姿が、ありありと想像できる」
「まざまざと思い浮かべないでくださいよ。よほどのことが無い限り、私は、このままです」
「変身願望なしか。つまらないの」
「面白がらせる必要がありますか?」
「いや、無い。無いけど」
「けど?」
「いつもと違うユウが見たい」
「何ですか、それは?」
「何というか、ギャップを楽しみたいって気持ちだよ。分からないか?」
「残念ながら、私の理解の範疇を超えてます」
「そっか。それじゃあ、駄目だな」
「駄目ですね。――私は、いつも逃げてばかりです」
「三十六計、逃げるに如かずって言葉もある。身の安全を確保するためには、逃げるのが最善の策だぜ?」
「そういう積極的な選択ではなくて、もっと消極的な理由ですよ。受動的というか、依存的というか。変身を繰り返しているうちに、どれが本当の自分か、わからなくなるのが怖いんです」
「ウゥン。話が抽象的になりすぎだな。どう考えたら良いか、どう言うべきか、この場に相応しい言葉が見つからないぜ」
「混乱させてしまいましたね。ごめんなさい。忘れてください」
「俺は忘れっぽいから、安心しろ。三歩も歩けば、覚えてられない構造なんだ。……はて、どちらさんかな?」
「フフッ。道化師の真似ですか? ユウと言います。以後、お忘れなく」




