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#004「てんやわんや」

――この世の全ての富を手に入れたとしても、失うものは必ずある。例えば、新しいものを手に入れる感動。

  *

「人形が夜中に独りでに動くは、詰めた豆を狙った鼠の仕業だったって訳だ。おあとが、よろしいようで」

「ホッホッホ。いや、まことに愉快な話を喋る小鳥じゃな」

「良かったですね、ピア」

「お褒めに預かり、光栄でございます」

「人語を解する動物は数多あるが、滑稽話を語ることが出来る小鳥は初めてじゃ。ウム」

「領主様。大変、申し上げにくいのですが」

「そろそろ、お暇させていただきたく」

「どうしても旅立つというのかね? ここで何不足なく暮らせるよう、望むものは何でも用立てるというのにか?」

「お取り計らい、誠に有り難く存じますが」

「えぇい、面倒だな。ユウと俺は、ここで終わりにしたくないんだってことが伝わらないのか?」

「ムムッ?」

「申し訳ございません。ご無礼なことを。――何を考えてるんですか、ピア?」

「悪い悪い。まどろっこしかったもんだから、つい」

「わしを怒らせると、どうなるか。思い知らせてくれるわ! こうなったら、力ずくで奪うまでだ」

「わぁ!」

  *

「何とか、振り切ったみたいだな」

「捕まるところでしたね」

「何でも自分のモノにしないと気が済まないんだから、嫌になるぜ」

「あの領主は、すっかり所有欲に支配されてしまって、善悪の区別が付かなくなってしまっているのでしょうね」

「盗んででも手に入れようとするとは、いただけないな。適材適所という言葉を知るべきだ。新しい話を仕入れるには、知らない街に行かなきゃいけないっていうのにさ」

「あのまま滞在し続けていたら、同じ話を繰り返さざるを得なくなって、飽きられるところでしたね」

「さて。これから、どうする? 誰も居ないぜ?」

「風に聞くしかないですね。とりあえず、道なりに進むしかないでしょう」

「あいよ。まだまだ、先は長そうだ」


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