#002「落雷」
――昼に誰かと笑っていた人が、夜に独りで泣いていたとしたら、その人の笑顔はカリソメに過ぎない。
*
「よく晴れてるな」
「雲ひとつない快晴ですね」
「エプロン姿のユウも、なかなか乙なもんだな」
「夜中に起こした挙句、朝食まで頂いたんですからね。少しは働いて返さないと」
「玄関で騒いだのは俺だけどな」
「それなら、その白い羽根で布でも織ってくださいよ」
「俺の羽根だけじゃ、コースターも出来ないって。ユウこそ、その黒髪を切ったら良いじゃないか」
「こんなパサパサの髪では、何の役にも立ちませんよ」
「そうか? ひょっとしたら、時計の鎖と交換できるかもしれないぜ?」
「万に一つも、その可能性はありません」
「全否定するなよ。俺は別に、恩を借りたままでも良いと思うけどなぁ」
「借りたままにしておくと、心の中で引っ掛かってモヤモヤしますから」
「心残りがあると、落ち着いていられないんだな?」
「そういうことです。――キレイに洗えました」
「底が焦げたシチュー鍋が、新品同然にピカピカになったな」
「でも、川の水が汚れてしまいました」
「なぁに、海に辿り着くまでにキレイになるさ。今度は何をするんだ?」
「そうですねぇ。お部屋の掃除は終わりましたし、お洗濯物も、まだ乾いていないでしょうし」
「そのまま、ここでハウス・キーパーになりそうな勢いだな」
「一日二日なら良いですけど、毎日のことになると、とても続きませんよ」
「そうか? しばらく一つ所に留まるのも、そうそう悪いものでもないかもしれないぜ?」
「駄目です。長居するとシガラミが増えて、簡単には旅立てなくなってしまいますから」
「身軽にしておきたいんだな。恰幅が良くならないのも道理だ」
「肥満には縁遠い生活ですね」
*
「日中は、お留守番と家事をありがとうね」
「雨がやむまで、寛いでいくと良い」
「ありがとうございます」
「お言葉に甘えさせてもらうぜ」
「足りなかったら、おかわりしても良いからね。それじゃあ、また明日」
「年寄りは、もう寝るよ。おやすみ」
「おやすみなさい」
「おやすみ。……すっかり気に入られてしまったな」
「思わぬ足止めですね」
「太り過ぎで動けなくなる前に、ここを離れないとな」




