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#019「グリーン・キャニオン」

――立ちはだかりし壁、乗り越えり。返り見れば、その存外に薄きことに気付きたる。

  *

「お帰り、ユウ。手紙が来てるぜ」

「手紙ですか。誰からですか?」

「それが、差出人は書いてないんだ。よほどの恥ずかしがり屋だな。はい」

「ありがとう、ケン。用心するに越したことは無さそうですね。……この封蝋は」

「早く開けてくれよ」

「開ける必要は、ありませんよ。これは、ただの悪戯です」

「読みもしないで、何で分かるんだ?」

「こんな回りくどいことをする人間は、私には一人しかいませんから」

  *

「あら、ユウさん。眠れないのですか?」

「スイこそ、遅くまで起きるものではありませんよ。でも、ちょうど良かった。頼みたいことがあるんです」

「わたしに出来ることなら、何でも引き受けますよ」

「そう言ってもらえると助かります。この先に、緑の谷と呼ばれる場所があるのですが、すぐに、そこへ行かなければならない用事ができましてね。長く掛かるものではありませんが、しばらく留守にすることになりそうなんです。そこで、ピアの相手を頼みたいのですが、お願いできますか?」

「いいですよ。ピアさんは面白いから、一緒にいて楽しいもの」

「ありがとう。それでは、お任せしますね」

  *

「いやぁ、それにしても深い谷ですね。川が糸のように細い」

「こんなところに呼び出して、一体、何をするつもりですか、エフ」

「この前は、思わぬ邪魔が入りましたからね。おかげで、計画が狂ってしまいました」

「冷血卑劣なエフの計画通りになんか、させて堪るものですか」

「オォッと。抵抗する気ですか? それなら、こちらも容赦しませんよ」

「もう、逃げ回る生活は懲り懲りですからね。ここで、すべてを決着させましょう」

  *

「ハァ。ハァ」

「もう、一本もナイフは残ってないでしょう? 大人しく負けを認めたほうが、身のためですよ? どう足掻いたところで、ジェーは僕に勝てない」

「ングッ。……わかりました。降参です」

「素直で、大変よろしい。さぁ。そんな崖っぷちに座り込んでいては危険です。こちらへ、いらっしゃい」

「恥ずかしながら、チラッと下を覗き込んだせいで、脚が竦んでしまいまして」

「ハッハッハ。それは、いけませんね。腕を貸しましょう。――ノワッ」

「いつだって、詰めが甘いですね」

「クッ。不覚でした。手を離しなさい」

「離しませんよ。エフには、私と一緒に地獄を巡ってもらいます。――ソレッ」

「嫌だ! まだ僕は、死にたくない」

  *

(ごめんなさい、ピア。もう私は、一緒に旅をすることが出来ません。これからは、ケンやスイと仲良くしてください。それで、私の分も幸せになってください。それから、神様。罪深い私ですが、もしも魂というものが不滅で生まれ変われるのなら、今度は小鳥の姿にしてください)


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