#017「咎を負ったまま」
――何をどうすれば、罪を償うことになるのだろうか?
*
「誰が食わしてやってると思ってんだ」
「誰が家のことをやってると思ってるのよ」
「ヘンッ。女がウチのことをやるのは、当然のことじゃねぇか」
「何よ、偉そうに。男がソトでやってることなんて、下らないことばかりじゃない」
「何だと? もう一度、言ってみろ」
「えぇ、えぇ。その低能にも理解できるように、何度でも言ってやるわ」
「この、暴言女房が!」
「お黙り。暴力亭主!」
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「残念ながら、移民は受け付けていないそうです」
「お疲れさまでした。それでは、また次の街に期待しましょう」
「ハァ。いつまで、こうして旅を続けなければならないんだろうなぁ」
「なぁに。そのうち、とっておきの場所が見つかりますよ。元気を出しなさいな、ワイさん」
「申し訳ない。モアさんにも、苦労を掛けてしまって」
「わたしは、ちっとも構いませんよ。こういう暮らしも悪くないと思って、楽しんでますから。――昼間はスイとケンが、この界隈の子供とママゴトをしてましてね。どこで覚えたのかしらと思うくらい、どこか身につまされる設定でしてね。つい、夫を戦で亡くす前の生活を思い出してしまって」
「子供の観察眼は侮れませんね。妻を病で亡くす前の生活には、反省したいことばかりで」
「亡くなった人間は還って来ませんけど、生きてる人間には、まだ出来ることがありますから。二人で力を合わせて、子供たちを立派に育て上げましょうよ」
「そうですね。同じ過ちを、子供たちに繰り返させないことですね」
「そうですとも」
*
「探しましたよ」
「ユウ。顔見知りか?」
「垂れ目で下世話な笑みを湛えた赤毛の人間に、知り合いはいませんよ」
「おやおや。僕のチャーム・ポイントを全否定するような発言ですね」
「品性の良い人間では無さそうだな」
「その通りですよ、ピア。――まだ私に用があるのですか?」
「勝手に施設を抜け出しておいて、用があるも何もありませんよ。お迎えに来たんです。ご同行願えますか?」
「慇懃無礼な輩だぜ。腹の内はドス黒いくせに、それを表に出さないんだからなぁ」
「ピア。お願いですから、少しのあいだ、静かにしててください。――お断りします、と申し上げたら?」
「荒事は好みませんから、話し合いで合意を得たいところですが、拒絶するつもりでしたら、力尽くで連れ去るまでですよ」
「危害を加えられる前に、お得意の投げナイフの的にしてしまえよ、ユウ」
「一本も当たらずに終わるだけですよ。何故なら」
「何故なら、君にナイフ投げを教えたのは、他でもありません。この僕なのですからねぇ」
「気障で憎たらしい、癪にさわる奴だな」
「ピア。屈辱に感じるかもしれませんが、いまは耐えてください。――無駄骨を折りたくありませんから、この場は大人しく従いましょう」
「罪を償う覚悟が出来たようですね。いやぁ。話が通じて助かりますよ」




