#016「野原と花壇と」
――置かれた場所に咲く花に、自由意志は無いのだろうか?
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「今夜も、野宿ですね」
「天気に左右されないところで、ゆっくり羽根を休めたいもんだ」
「明日には、新しい街に着きますから、今日は、これで辛抱してください」
「仕方ないな。我慢するか」
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「市民、考える。奴隷、働く。家畜、食べる」
「考えるのは市民で、働くのは奴隷で、食べるために家畜を飼っているということのようですね」
「言葉が片言なのは、働く上で最低限のことしか教えられてないからだろうな」
「奴隷、働く。言葉、ない」
「奴隷として市民の下で働く上では、言葉は必要としないと言いたいようですね」
「でも、何か腑に落ちないんだよなぁ」
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「差し支えなければで構いませんが、身分がどのようにして決められるか、後学のためにお教え願えますでしょうか?」
「良いでしょう。簡単なことですよ。市民の夫婦に子供が産まれる。一人目と二人目は市民に、三人目と四人目は奴隷に、そして五人目以降は家畜にするんです」
「市の外から来た人間は、どうなるんだ?」
「侵略を企てているおそれが無ければ市民に、危険分子は奴隷に、身体や精神に異常があれば家畜として処分します」
「奴隷や家畜には、その、一代限りと言いますか」
「生殖機能は除去してありますよ。必要ないでしょう?」
「一度決まった身分は、ずっと変わらないのか?」
「罪を犯した市民が奴隷に、反抗する奴隷は家畜になることはあっても、その逆はありません」
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「今夜も、野宿ですね」
「雨風は凌げないが、好き勝手に喋れる解放感があるのは良いな。ここまで離れれば、何を言っても大丈夫だろう」
「目に見えない恐怖感が付き纏う都市でしたね」
「おかげで、知識や知恵のありかたについて、いろいろ考えさせられたぜ」
「いい勉強になりましたね」
「でもさぁ、ユウ?」
「何ですか、ピア」
「ヒトの数だけ、マチの数だけ、それぞれ考えかたがあるものだけどさ。やっぱり、生まれた順番が運命を決めるのは、俺には納得できないんだ」
「そうですか」
「ユウは、どうなんだ?」
「そうですねぇ。どう考えたものでしょう?」
「質問に質問で返すなよ。誤魔化されないからな」
「フフッ。――おやすみなさい」
「あっ、チクショウ。火を消しやがって。……いつも、はぐらかされてばかりだなぁ、俺」




