#015「カタチあるもの」
――新しいものは、いずれ旧くなる。命あるものは、いずれ屍と化す。ヒトも、モノも、マチも。
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「どこもかしこも、人、人、人。波が途切れる様子は、どこにもありませんね」
「もう、すっかり真夜中なのに、昼間みたいに明るい」
「煌々とした灯りが尽きない不夜城という噂は、本当だったようですね」
「自由闊達、明朗快活。気持ちが沸き立ってくるぜ」
「興奮しすぎて、いつぞやのような無茶なことをしないでくださいね」
「お! ユウも喋ってたのか。何だって?」
「丸焼きや剥製にされるようなことは、厳に慎んでくださいね」
「聞こえないぞ、ユウ」
「賑やかを通り越して騒々しいですね。路地へ、一時避難しましょう」
「どこへ行くんだ、ユウ? 俺を置いて行くなって」
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「若者が多くて活気がある街だと思わねぇか、ロエ」
「そうね、テオ。商売には、もってこいの街だわ」
「時化た面をした頑固老人がいないだけで、売り上げが全然違うからなぁ」
「品物にイチャモンをつける人間が一人いるだけで、雰囲気が険悪になって敵わないからねぇ」
「鑑札も手に入ったことだ。さっさと売り捌いて豪遊しようぜ」
「良いわねぇ。あたしも賛成だね」
「そうと決まれば、とっとと店支度するぞ」
「張り切りすぎて、身体を壊さないでちょうだいよ」
「んん? 何か言ったか?」
「腰を抜かす真似をするんじゃないよって言ったのよ」
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「人混みに酔ってしまったようです」
「雑踏を歩くうちに、周りの人間がユウの生命力を吸い取ってしまったようだな。立てるか?」
「こんなとき思わず、ピアがドラゴン並みの体格だったらと考えてしまいます」
「背中に乗せて、ひとっ飛びできそうだな」
「でも、一歩間違えたら黒焦げ、丸呑み、八つ裂き、圧迫の憂き目に遭いそうですね」
「おやおや? その特徴的なシルエットは」
「いつぞやの旅人と旅鳥のようね」
「これは、奇遇だな」
「また、お会いしましたね。上機嫌ですね、お二人とも」
「この陽気な街で、ウジウジ陰気なことができますかって話だ。おぅ、そうだ。さっきのアレ」
「焼いた甘栗と銀杏なんだけど、二人では量が多くてね。冷めないうちに食べると良いわ」
「香ばしい匂いだな」
「ありがとうございます。お幾らでしたか?」
「タダでやるよ。今宵は、懐が温かいからな。それじゃあ、また」
「スリやペテン師が多いようだから、気をつけて。またね」
「ネエチャンたちこそ、騙されないようにな」
「ご好意に感謝します。お気をつけて」




