#012「劣等意識」
――プレッシャーをモチベーションに繋げられるか、コンプレックスにしてしまうかは、その人次第。
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「水辺から離れてるのに、見渡す限り、青一色だな」
「民族衣装の着用が義務付けられてますからね」
「長い一枚布を巻き付けただけのシンプルな格好だが、どうなんだ?」
「気候に合っていて着心地は悪くないのですが、こうも全員が同じ服装をしていると戸惑いますね。――おや?」
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「グレーの眼の癖に、生意気だぞ」
「グレーじゃないやい。グリーンだい」
「大して変わらねぇよ。ブラウンの眼が一番なんだからな」
「そんな勝手なことがあるもんか」
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「子供二人が、つまらない喧嘩をしてるみたいだな」
「そのようですね。――あら。向こうでも」
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「イン語のほうが優れてるに決まっておる」
「イン語は、周りの言葉の寄せ集めじゃないか。ゲル語のほうが勝ってる」
「いいや。そんな黴の生えたような言葉より、イン語のほうが便利だ」
「いいえ。単語の意味や文法が変わりやすいイン語より、規則性を重んじるゲル語のほうが、後世に正確な記録を残せます」
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「大人二人が、しょうもない諍いを起こしてるみたいだな」
「成長しても、言い争いは絶えないようですね」
「どう頑張ったって、まったく同じ人間だけにはならないもんな」
「たとえ双子であっても、どこか違うところがあるものですからねぇ」
「それで、違いがなくならない限り、差が生まれるものだ」
「そして同じ部分が多くなるほど、残された僅かな違いに目が行ってしまうものです」
「早いところ、次の街に行こうぜ。どうだ?」
「居心地は良くないですね。そうしましょう」




