#011「計画外れ」
――最後には何もかも置き去りにしなければならないのに、どうして、こうも様々なものを欲しがるように出来ているのだろう?
*
「どうしてユウは、そんな堅苦しい言い回しをするんだ?」
「前にも何度か説明しましたけど、覚えていませんか?」
「忘れたね。何でだっけ?」
「一度、口から発せられた言葉は、二度と消すことが出来ないからですよ」
「あれ? そんな理由だったかなぁ」
「これが私の理由ですよ。思い出せませんか?」
「どうにも、記憶に無いなぁ。――お! 道化師が、子供に飴を配ってる」
「向こうの天幕で、サーカス団が曲芸を披露するみたいですね」
「面白そうだから、行ってみようぜ」
「そうしましょうか」
*
「おい、ユウ。大丈夫か?」
「私なら平気ですよ」
「道化師のからかいを真に受けることないって。軽い挑発なんだから」
「関係ありませんよ。幼い頃に、こういうことを一度やってみたいと考えていたことを思い出したんです」
「無理するなよ。もし、大怪我でもしたら」
「気を揉むのは結構ですけど、集中できないので静かにしてもらえますか?」
「それも、そうだな。悪かった。それじゃあ、向こう側で待ってるからな」
「では、のちほど」
*
「いやぁ、おかげで盛り上がりましたよ。助かりました」
「渡りきれるかどうか、最後まで冷や冷やしたぜ」
「お役に立てたようで、光栄です」
「それにしても、高いところに慣れてらっしゃるようですな。おまけに、お強いハートをお持ちで」
「うん、うん。肝が据わってる」
「たとえ綱から落ちたとしても、どうということはないと思えば、恐怖は無くなります」
「見習いの軽業師に伝えたいところですよ。撤収作業が残ってるので、この辺で」
「今日が千秋楽だったのか」
「これから、どちらへ向かわれるのですか?」
「西へ行くつもりです。砂漠の真ん中にある王国から招待されてましてね」
「俺たちと違うな」
「そうですね」
「ここで、お別れになりそうですなぁ。また、どこかで会ったときは、よろしく頼みます」
「楽しかったぜ。またな」
「貴重な体験ができました。ありがとうございます。皆さん、お元気で」
*
「なぁ、ユウ。まさかとは思うが、失敗するつもりで臨んだんじゃないだろうな?」
「その、まさかですよ。成功するとは思いませんでした。とんだ誤算です」
「言葉に気をつけろよ、ユウ。言葉には霊が宿ってるんだぜ?」
「そうでしたね。忘れていました」
「しっかりしてくれよな」
「フフフ」




