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#009「三つ数える前に」

――煮込み料理の灰汁を取ろうとすると、表水面は波立つもの。

  *

「この市場は、活気があるな」

「畑に生る青果に、樹に生る青果。肉、魚、乳製品。それから穀物、織物、金物と、五日置きの休みを挟んで、日によって違う売り物が並ぶそうです」

「フゥン。それで、その包みの中身は何なんだ?」

「どれも漿果ですよ。スグリ、柘榴、葡萄。あと、唐辛子です」

「三つ目までは美味しそうだと思うが、四つ目は何で買ったんだ?」

「防虫剤代わりですよ。ピアの食糧は、蟲に食われやすいものばかりですから」

「それは、ありがたい。それに、餌と言わないところに思いやりを感じる。愛だな、うん」

「ずいぶん大きな独り言ですね。――おや?」

「どうした、ユウ。――お! 自動人形だな」

「透き通るような銀髪と、燃えるような紅眼ですね。あ!」

「髪に隠れた反対は、蒼い眼だな。しかし、よく出来てるもんだ」

「動力は何でしょうね?」

「中に五人ぐらい、小人が入ってそうだな」

「そうだとしたら、ピアより小さい人間ですね」

「ハハハ。違いないな。――見世物は終わりみたいだな」

「奥から誰か出て来ましたね」

「人形の制作者か所有者か、その両方か、だ、な」

「おそらく、そんなところで、しょう、ね」

  *

「まさか、犯罪組織の首領だとは思わなかったな」

「しかも、あの人形は、催眠術に掛けられて操られた子供だったとは」

「巨万の富と絶大な支配力を持つと、あれほどまで豹変するものなんだな。スグリや柘榴で出血多量に見せかけたり、唐辛子で殺し屋の目を潰したり、こうして木箱を盗んで船の積荷に身を隠してなきゃ、今頃は」

「末路を想像することさえ、恐ろしいですね」

「でも、海を渡ってしまえば、こっちのものだ。いやぁ、それにしても、えらい目に遭ったもんだぜ」

「まだまだ油断できませんよ、ピア」

「大丈夫、心配するな。もう、警戒を解けよ。それより、これから何をしたいか考えることだ」

「楽観的ですね。でも、この伸びた髪と爪は、早々に切りたいところです」

「そうだな。それがイの一番にすべきことだ。それに、そればかりは意志ある生身の人間にしか出来ないことでもある」


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