#000「赤い塔」
――悔い無き一日を送られなば、その日暮れに果つるとも、否わじ。さにあらざる限り、いかが翌朝まで生き残らんものかな。
*
「どこまで続くんだろうな、この螺旋階段は」
「五千二十三、五千二十四」
「ユウ。本当に、この塔で合ってるのか? そろそろ羽根を休めたいぜ」
「五千二十五。そこは、宿屋の女将さんのお話を信用するしかありませんよ、ピア」
「まぁ、そうだけどよ」
「五千二十六、五千二十七」
「この塔からの眺めを観ないと後悔すると言われたばっかりに、張り切って来たものの、来たことを後悔しそうだ。そうは思わないか?」
「五千二十八、五千二十九」
「おぉい。ウンとか、スンとか、返事をしてくれ」
「五千三十。嫌なら引き返せば良いではありませんか。私は止めませんよ」
「冷たいなぁ、ピアは。本当は自動人形なんじゃねぇか?」
「五千三十一、五千三十二」
「反応なしかよ。こいつは、きっと青い血潮でも流れてるに違いない」
「五千三十三。私の血液は鮮赤色です」
「いやいや。真面目に答えなくて良いって」
「五千三十四、五千三十五」
「それにしても、小窓ひとつ無いと、外の様子が分からないから退屈だな」
「五千三十六。それなら、ピアも一緒に数えましょう」
「遠慮するぜ。――おっ。光だ」
「五千三十七。どうやら、もうすぐ最上部に着くようですね」
「やれやれ。ようやくレンガ以外のものを拝めるな」
「五千三十八、五千三十九」
「確認するけどよ。登る前に言ったことを撤回する気は無いんだな、ユウ?」
「五千四十。もちろんです。観ないと後悔するものを見納めれば、思い残すことはありませんから」
「いつもと変わらず、変わり者だな」
「五千四十一、五千四十二。階段は、ここで終わりですね。あとは、この縄梯子を登れば良さそうです」
*
「どうだった、塔の屋上は?」
「この集落一帯を見渡せました」
「晴れてたから、絶景だったぜ」
「そうだろう。それじゃあ、夕飯になったら呼びに来るから」
「ありがとうございます」
「俺の分も忘れないでくれよ」
「はいはい。また、あとでね」
「……屋上の構造を、もっと詳しく訊いておくべきでしたね」
「そうだな。まさか鉄格子が嵌ってるとは思わなかったもんな」




